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戦の前には嫉妬あり4

「親分!!大変です!」


若い衆が、賭場の勘定場へ飛び込んで来た。


賭けた金品を預り、儲けた分を換金する部屋で、チビチビと酒を呑んでいた元締めである、全陵ぜんりょうは、聞かされたことに、酒を吹き出しそうになる。


我が子、菜児さいじが、帰ってきた、までは、まあ、良かろう。で、何故か、賭場で暴れる、あの、関羽と張飛を、引き連れているらしく……。それを、絶世の美女が、仕切っているのだと。


菜児は、この地の名士、黄家へ頭を下げて、行儀見習いに行かせた。こんな、裏の世界に手を染めていては、まともな暮らしなど、できないだろうと思っての親心からのことだった。


そして、あちらのお嬢様付きになったと耳にしていた。その、お嬢様は、嫁に行き、菜児も婚家に着いていったはずだ。


それなのに、関羽と張飛と現れた。もしや、二人に、拐かされたか……。


とにかく、訳がわからない。


全陵は、立て掛けてある太刀を手に取ると、立ち上がった。


「なんだか、しみったれてますわねぇ、こんな、暗い雰囲気で、殿方は、顔を付き合わせて、日頃のうっぷんを、発散させているのですか!」


一同が、あれやこれやと、なだめすかして、月英を止めたのだが、力及ばず。結局、菜児の実家である、賭場にやって来ていた。


初めて見る、裏の世界に、月英は興味津々で、菜児や、あれはなんだ、こっちは、なんだ、と、賭場の様子を尋ねている。


もちろん、周囲の視線などお構いなしで、客が遊んでいる所を、ちょっと、失礼。などと言って、覗きこんだりと、まあ、迷惑千万な、行為を行っているが、さて、文句を言おう思えども、何故か、覗きこんで来る女の後ろには、あの、関羽と張飛が、仁王立っている。


皆、仕方なく、遊びを止め、様子を見るごとで、部屋のひとところに集まっていた。


「あーー、だから、もう、帰りましょう!賭場とは、こうゆう所なんです。もう、よいでしょ?」


菜児が月英を説得する。


「あら、まだ、野人が暴れて火を放ってませんよ?」


賭場の皆は、一斉に、関羽と張飛を見た。


嫌な視線に居たたまれなく、二人は、たちまち、小さくなった。


「おいおい、こりゃあー、なんだ。それよりも、関羽、張飛!何しに来やがったっ!!」


裏方から現れた、大柄な男が、太刀を鞘から抜くと、一行を睨み付ける。


「あーー!父ちゃん!止めてくれよー!」


「あー!だから、こうして、止めてるだろうがっ!」


言って、太刀を振り回す。


「うわっ、呑んでんな、あれ」


菜児は、皆、下がって危ないです!と、言うが、


「あらあら、まあまあ、もしかしなくても、菜児の父親上様ですか?」


月英は、ずんずん前へ進んで行く。


「あー!太刀、振り回してんのにぃーー!危ないですって!!」


「なるほど、こうして、暴れて、続いて、野人が、火を放つと、良くできた仕組みですこと!さあ、野人、出番ですよ!」


月英は、張飛に声をかけた。


いきなりの事に、張飛は、自身を指差しながら、周囲に思わず確認するが、張飛の物言わぬ問いかけに、皆も、つい、頷いていた。


「おおっとーー!こちらは、どこへ置きましょうかねぇ」


と──、徐庶じょしょが、ここぞとばかりに、声高に叫んで、抱え込んだ壺を皆に見せつける。


「あーー!!そうだーー!父ちゃん!!!奥様が、酒の差し入れをっ!!」


菜児が、差し入れがあると、暴れようとしている、父親の気をそらした。


「ん?」


「ええ、うちの、奥様が、ぜひにと、あー、申し遅れましたが、私は、諸葛家に仕える、ただの侍女。奥様に代わり、菜児の父上様にご挨拶を」


「……菜児の……父上様……」


今度は、菜児の父親が、自らを指差して、手下達に確認し、皆は、頷き、客人だからと、太刀をおさめるよう説得している。


「父上様に、ご挨拶かぁー!こりゃー、また、ご丁寧に!!」


振り回していた太刀をおさめると、菜児の父親──、親分は、月英へ向かって、それならそうと言ってくれれば、などと、言いつつ、どうぞ遊んでいってくだせぇ。と、月英を誘った。


「てめぇら!うちの、菜児が、世話になってるあねさんだっ!!わかってんだろうなっ!」


続けて、手下に発破をかける。


「……何が、起こるのじゃ?」


張飛は、いぶかしみ、もう!黙ってろ!と、菜児は、頭を抱え、酒壺、どこへ置けば?と、徐庶は、これ、重いんだがと、ごちる。


そんな中、親方は、さあさあ、姐さん!と、月英を賭場の真ん中、双六遊びの場へ、連れて行った。


「これなら、姐さんでも、十分楽しめますぜ!」


「あら、双六なら、知ってますわよ!」


月英は、勧められるまま、嬉しげに座した。

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