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第25話 ゴミ箱の百八十三番

「ゴミ箱の百八十三番が見つかった。今日は俺たち六組で片付けに行くぞ」

 主任の灰塚はいづかさんが全員に見えるように電子メモパッドを前へ出す。

「現在確認されている虚構は六つ、一班につき二つ消去できればいい。ただし、ゆらいでる可能性があるから気をつけろよ」

 何人かが「はい」と返事をする。久しぶりの大仕事だ。

「位置は106.3、32.6、2008.9だ。それじゃあ、さっそく向かうぞ」

 頼もしい灰塚さんの言葉にオレたちは気を引き締め、班ごとにまとまって動き出した。


 時々、組単位で仕事をすることがある。今回のように虚構がいくつも集まった「物語のゴミ箱」と呼ばれるものを消す時は、まとめて一気に消去するのがいいからだ。

 RASで虚構世界へ入ると、すでに灰塚さんたちが到着していた。舞原さんたちもすぐにやって来て、灰塚さんはあらためて指示をする。

「それじゃあ、三方向に分かれて住人を捜索しよう。見つけたらすぐに消していいからな」

「温情なしっすね?」

 にやりと口角を上げながら樋上さんが言い、灰塚さんはうなずいた。

「ここはゴミ箱だからな。始めるぞ」

 灰塚さんの合図でオレたちは三方向に分かれた。前方に見えるのは住宅街だ。下は灰色のアスファルト、上は電線、間に電柱。

「おっ、さっそく出たな」

 一軒家から子どもらしき姿が出てきて、オレは駆け出しながら大鎌を取り出した。

「まずは一匹!」

 背後から首を切り落とす。近くで悲鳴が上がったかと思うと、発砲音で消された。振り返れば、同じ家から出てきたらしい女へ土屋さんが銃口を向けていた。

「幸先がいいわね。この調子でがんがん進めましょう」

 土屋さんが言い終えた瞬間、地面がぐにゃりと揺れだした。

「うわっ」

 気持ち悪い感触に慌てて移動するオレだが、移動した先の地面もぐにゃぐにゃだ!

 航太は冷静に後方へ下がって状況を観察する。

「ゆらぎ具合がひどいな。何もせずとも自然消滅しそうだ」

「それより助けろ! そっちに行けない!」

 叫んだオレの目に、自力で航太の隣へ戻った土屋さんが見えた。

「若いんだから頑張りなさい」

「たったの二つ違いでしょ!?」

 どうして二人とも助けてくれないんだ! 進もうとしてもランニングマシンのように後ろへ滑るばかりで進めない。

「くっそー!!」

 根性を出して彼らの元へ向かうが、数歩進んだところでバランスを崩して前へ倒れた。全身がぐにゃぐにゃに飲み込まれていく。

「うわあ、気持ち悪ぃ!」

 かろうじて顔を上げて呼吸を確保するものの、下半身はもう沈み始めていた。こんなにゆらいでいる虚構世界は初めてだ。

「楓っ!」

 ようやく航太が腕を伸ばした。彼の大きな手がオレの手首をつかむ。

 その力強さに驚く間もなく引き上げられたオレは、勢いあまって彼の胸へ飛び込んだ。

「た、助かった……」

 ほっとして息をつくと、尻もちをついた航太が笑う。

「楓は本当に軽いな。もっと肉をつけないと」

「んなこと言われても、すぐには太れねぇんだからしょうがないだろ」

 言い返すオレへ航太が苦笑した直後、二人を影がおおった。はっとして見上げれば、土屋さんが冷めた顔でこちらに銃口を向けている。

「いちゃついてないで仕事してくれるかしら?」

「す、すみません!」

「すぐに仕事するんで、銃口向けるのやめてくださいっ!」

 慌ててオレたちは立ち上がり、土屋さんはうんざりした顔でため息をつくのだった。

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