「すでにご存知のことと思われますが、先日、嵯峨野局長が辞任されました。新しい局長が決まるまで、私、虚構世界管理部部長の川辺良一が代理を務めさせていただきます」
オレたちは黙ってスピーカーの声に耳を澄ましていた。
「先週の一件で、我が終幕管理局はしばらく業務を停止していましたが、調査の結果、一刻を争う事態であることが判明しました。あらゆる記憶分子が結合しているということです」
航太が小さく息を呑んだのが分かった。
「影響については調査中ですが、このため、業務課の仕事内容を一新します。これまでは記憶の消去をしていましたが、今後は記憶の分離をしてもらいます。それぞれの記憶を本来の形へ戻すことを最優先とし、悪影響が出ないよう被害を最小限に留めるのが目的です」
「被害って……」
思わずつぶやいたオレは、すぐにはっとして口を閉じる。やはりアカシックレコードの破裂による影響が出ていたのだ。具体的なことが分からないのがもどかしい。
「なお、他の部および課に関してはこれまで通りとし、記録課のみ通常業務ができないため廃止します。異動先は総務部の相田部長から――」
局長代理の話がようやく終わったところで、主任の灰塚さんが声を出す。
「というわけだから、これからは仕事が変わるぞ」
オレはあまり気乗りしない顔を向けた。
「局長代理の話にもあったように、記憶の消去ではなく分離をしていく」
「どうやって?」
と、舞原さんがたずねると灰塚さんは苦笑する。
「うーん、それがなぁ……俺にもよく分からないんだ。記憶を本来の形に戻せばいいと言うんだが、こればかりは実際に向かってみないとどうなっているのやら」
「とりあえずやってみるしかないってことですね」
深瀬さんの言葉にオレはため息をつきたくなった。分離って何だよ。
「そうなるな。次に、新しく一人入ったから、編成を変えるぞ」
と、灰塚さんは土屋さんの席に座っていた新顔を見る。
「寺石だったな、その場で自己紹介してくれるか?」
「はいっ」
元気よく返事をして立ち上がったのは、高い身長のわりにあどけなさのある若い男だ。
「
誰ともなく拍手が上がり、オレもテキトーに手をたたいた。
灰塚さんが寺石へ「よろしくな」と笑いかける。寺石は返事をしてから再び席についた。
「さて、次に編成だが、まずA班。班長は変わらず俺で、班員は樋上と三柴」
オレはふと樋上さんへ視線をやった。出勤してきてからずっと暗い顔をしていた彼だが、視線は灰塚さんへ向いている。話はちゃんと聞いているようだ。
一方でうろたえたのは三柴さんだ。
「わわっ、僕がA班ですか!?」
「消去法だから安心しろ」
怪訝に思う間もなく答えが提示される。
「次はB班、班長は深瀬」
「えっ」
深瀬さんは驚いたようだが、オレは腑に落ちた。たしかに深瀬さんなら班長を任せられてもおかしくない。
「班員は麦嶋と寺石」
よっしゃー! また航太と一緒だ!
机の下でぎゅっと拳を握ると、麦嶋さんも同じように小さくガッツポーズをしていた。そういや、深瀬さんに片想いしてるんだっけ。
「C班、班長は舞原で班員は千葉と田村。以上だ。何か質問はあるか?」
「無いです」
と、オレが返すと他の何人かと声が重なった。
灰塚さんは全員の顔を見回してから言った。
「それじゃあ、さっそく業務を始めよう」