目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第106話 新編成

「すでにご存知のことと思われますが、先日、嵯峨野局長が辞任されました。新しい局長が決まるまで、私、虚構世界管理部部長の川辺良一が代理を務めさせていただきます」

 オレたちは黙ってスピーカーの声に耳を澄ましていた。

「先週の一件で、我が終幕管理局はしばらく業務を停止していましたが、調査の結果、一刻を争う事態であることが判明しました。あらゆる記憶分子が結合しているということです」

 航太が小さく息を呑んだのが分かった。

「影響については調査中ですが、このため、業務課の仕事内容を一新します。これまでは記憶の消去をしていましたが、今後は記憶の分離をしてもらいます。それぞれの記憶を本来の形へ戻すことを最優先とし、悪影響が出ないよう被害を最小限に留めるのが目的です」

「被害って……」

 思わずつぶやいたオレは、すぐにはっとして口を閉じる。やはりアカシックレコードの破裂による影響が出ていたのだ。具体的なことが分からないのがもどかしい。

「なお、他の部および課に関してはこれまで通りとし、記録課のみ通常業務ができないため廃止します。異動先は総務部の相田部長から――」

 局長代理の話がようやく終わったところで、主任の灰塚さんが声を出す。

「というわけだから、これからは仕事が変わるぞ」

 オレはあまり気乗りしない顔を向けた。

「局長代理の話にもあったように、記憶の消去ではなく分離をしていく」

「どうやって?」

 と、舞原さんがたずねると灰塚さんは苦笑する。

「うーん、それがなぁ……俺にもよく分からないんだ。記憶を本来の形に戻せばいいと言うんだが、こればかりは実際に向かってみないとどうなっているのやら」

「とりあえずやってみるしかないってことですね」

 深瀬さんの言葉にオレはため息をつきたくなった。分離って何だよ。

「そうなるな。次に、新しく一人入ったから、編成を変えるぞ」

 と、灰塚さんは土屋さんの席に座っていた新顔を見る。

「寺石だったな、その場で自己紹介してくれるか?」

「はいっ」

 元気よく返事をして立ち上がったのは、高い身長のわりにあどけなさのある若い男だ。

寺石竜馬てらいしりょうまです。よろしくお願いします!」

 誰ともなく拍手が上がり、オレもテキトーに手をたたいた。

 灰塚さんが寺石へ「よろしくな」と笑いかける。寺石は返事をしてから再び席についた。

「さて、次に編成だが、まずA班。班長は変わらず俺で、班員は樋上と三柴」

 オレはふと樋上さんへ視線をやった。出勤してきてからずっと暗い顔をしていた彼だが、視線は灰塚さんへ向いている。話はちゃんと聞いているようだ。

 一方でうろたえたのは三柴さんだ。

「わわっ、僕がA班ですか!?」

「消去法だから安心しろ」

 怪訝に思う間もなく答えが提示される。

「次はB班、班長は深瀬」

「えっ」

 深瀬さんは驚いたようだが、オレは腑に落ちた。たしかに深瀬さんなら班長を任せられてもおかしくない。

「班員は麦嶋と寺石」

 よっしゃー! また航太と一緒だ!

 机の下でぎゅっと拳を握ると、麦嶋さんも同じように小さくガッツポーズをしていた。そういや、深瀬さんに片想いしてるんだっけ。

「C班、班長は舞原で班員は千葉と田村。以上だ。何か質問はあるか?」

「無いです」

 と、オレが返すと他の何人かと声が重なった。

 灰塚さんは全員の顔を見回してから言った。

「それじゃあ、さっそく業務を始めよう」

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?