由佳たちが校門をくぐり、下駄箱で上靴に履き替え、教室に向かうと、廊下で
「あらら。また静子が女の子に捕まっちゃってるね」
「本当ね。モテる女は辛いわね」
静子は
特に静子は良家の子女で、立ち振る舞いがとても洗練されていたのだが、高身長ということもあって、より所作が颯爽として映り、いわゆる「カッコいい女性」として一部の女生徒から熱烈な信奉を寄せられていた。
その為、よくこうして女生徒たちに取り囲まれていたのだ。
「そろそろホームルームの時間です。皆さん、教室にお戻りなさい」
ゆっくりとしていて静かだが、真のしっかりした口調で静子は女生徒たちを諭した。
「会長! 会長は高校の夏祭りにはご参加されますよね?(女生徒A)」
「え? え、ええ。そうね。私は参加す──」
「参加するに決まってるじゃない!(女生徒B)」
「静子様は生徒会長なんだから、スピーチだってされるわよ(女生徒C)」
「本当でスカ? 御姉様のお話、ぜひ聞きたいデス(女生徒D)」
「そ、そう。聞きたければお祭りに来れば──」
「会長! 会長は浴衣でご参加されるんですか?(女生徒A)」
「え? え、ええ。そうね。いえ、私は制服で──」
「浴衣じゃないわよ! 生徒は制服で参加するように学校から言われているじゃない!(女生徒B)」
「静子様も去年は、制服で参加をされていたわよ(女生徒C)」
「つまんないデス。会長の浴衣姿をぜひとも見てみたいデス(女生徒D)」
物静かな対応で女生徒たちを諭そうとする静子だが、女生徒たちはお構いなしに静子を質問攻めにしていた。
「はいは~い。みなさん。ちょっとごめんなさいね。
副会長が生徒会長に用があるので通してもらいますよ~」
その様子を見かねた楓が強引に女生徒たちに割って入ると、その隙に由佳が静子の腕を引っ張って彼女を救い出した。
因みに、由佳は生徒会の副会長で、さらに狗巻は議長、楓は会計だった。
女生徒たちは口々に文句を言ったが、副会長の由佳にはあまり強く抗議できず、また朝のホームルームの時間も迫っていたので、すごすごと退散していった。
「もう。静子ったら。いつも言ってるでしょ?
もっとガツンと言って、はっきり断りなさいって」
「いや。しかしだね由佳……」
「なによ?」
「だから、それはつまり……」
「まどろっこしいわね。気にしなくていいから喋りやすい方言で言いなさいよ」
「……ほ、
先ほどまでの丁寧な言葉使いとは打って変わり、静子は
「そない言うたかてあの子らも悪気があってしとるんとちゃうし追い払うとかそんないけずを私はようせんよ!それに喋りがまどろっこしいってしゃあないやん!うちはこの喋りが嫌でがんばって方言でえへんように注意して話てんねんから!」
「静子、声でかい。周りに聞かれるぞ」
狗巻に言われて静子はハッと我に返った。
「ご、ごめん、由佳。かんにんやで」
「かめへんかめへん、だんないよ(構いません、大丈夫ですよ)」
由佳は静子の方言を真似して茶化した。
「もう。静子は優しくて気遣いばっかりして、自分の思ったことちゃんと言わないからストレスがたまるんだよ。
生徒会長だって自分で立候補したわけじゃないのに、周りの人が勝手に推薦して。
まあ、確かに静子って生徒会長っぽいイメージだけど、断り切れずに本当に生徒会長になっちゃうんだもん。私も心配で副生徒会長になっちゃったじゃない」
「かんにん、かんにんえ由佳」
「なんてね! 冗談よ! 静子のためだもん。喜んでやるわよ」
「え? う、うちのために…? 喜んで…? そ、そうなん…?」
その言葉に静子の顔はみるみるうちに真っ赤になった。
「おおきにやで、由佳。ほんまおおきに。
由佳がいっつもそうやってうちのこと気にかけてくれるん、ほんまに嬉しいんよ。
…で、でも、なんでなん?
由佳がそうやってうちのこといっつも心配してくれるんはなんでなん?
それってひょっとしてうちのこと───、
うちのこと、す、好きゆーこと───」
「よー。何の話?」
静子が湯気が出るほど顔を真っ赤にしてモジモジしていると、