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インコの仕返し

「ねえあいちゃん。インコとオウムの違いって知ってる?」

 ぼくはあこがれの愛子に話しかけた。愛子はビー玉のように丸くて愛くるしいまなこを見開き、まるでインコのように首をかしげた。

「ええと。インコとオウムの違い。わかんないよ。でも共通点なら知ってるよ」愛子は小さな花のように微笑む。「どっちもオシャベリをする鳥でしょう」

「九官鳥もしゃべるけどね」ぼくは自信たっぷりに話しはじめた。「まずオウムの方がインコよりも体が大きい。そしてカラフルなのはインコの方が多い。羽の冠をかぶっているのはオウムの方」

「へえ、久太郎きゅうたろうくんて博識だね」

「まあね。それでさ、いまアパートでインコを飼ってるんだ」

 ちょっと自慢である。

「本当、どんなインコ?」

「黄色い子。首をカクカク動かしたり、おもちゃで遊んだり、肩に乗ってきたり」

「わあ、楽しそう!」

「今週末、ぼくの部屋にインコを観に来ない?」

「行く行く!」

 やったね。ぼくは心の中でガッツポーズを決めた。これでやっと愛ちゃんと親密になれそうだ。

 ぼくは内向的な性格で、いままでに一度だって女性に対して告白をしたことがない。そこで考え出したのが、インコに代理告白させる方法だったのである。ぼくは立案してから、インコのピーコに毎日愛の告白を伝授した。もちろんちょっと恥ずかしいのだけれど。

「愛ちゃん・・・・・・好きです。好きです。愛してる」

 この呪文のような言葉をインコに毎日のように繰り返し聴かせたのである。あまりにも繰り返したせいで、ぼくはとうとう寝言でも同じことを言っていたみたいだ。

 その甲斐あってか、最近ピーコが話はじめた。

「アイチャン・・・・・・スキデス・・・・・・スキデス・・・・・・アイシテル・・・・・・」


※※※※※※


 その日、愛ちゃんが部屋にとうとう遊びに来てくれた。

「久太郎くん。男の子なのに、意外と綺麗にしているんだね」

 愛ちゃんはぼくのワンルームの部屋を物めずらしそうに見回している。

「まあね」

 ぼくは頭をかいた。実は昨晩大々的に掃除をほどこしたのだ。彼女は部屋に入るなり、さっそく鳥かごを見つけて駆け寄って行った。

「あ!これがインコくんだね。お名前は?」

 ピーコに言っても答えるわけはない。

「ピーコって言うんだ」

「何という種類なの?」

「オカメインコだよ」

「へえ。かわいいね」

「お茶淹れてくるから、ソファーにでも座ってて」

 ぼくはキッチンに立った。そのとき突然背後でピーコがしゃべり出した。

「アイチャン・・・・・・スキデス・・・・・・スキデス・・・・・・アイシテル・・・・・・」

 愛子の動きがぴたりと止まった。「え、なあに?」

「アイチャン・・・・・・スキデス・・・・・・スキデス・・・・・・アイシテル・・・・・・」

 でも今日のピーコにはこの続きがあったのだ。

「コレデアイチャン、ゲットダゼエ!」

 愛子が白い目でぼくを見つめている。「おい、やめろ」ぼくは思わずドギマギしてピーコに走り寄った。「あの、こいつ、ね、寝言いってるみたいだ」

「アイチャン・・・・・・スキデス・・・・・・スキデス・・・・・・アイシテル・・・・・・コレデアイチャン、ゲットダゼエ!」


※※※※※※


  後でわかったのだが、あれはぼくの寝言をピーコが忠実に再現したものだったらしい。

 しかも、オカメインコは“インコ”と銘打っていながら、実はれっきとした“オウム”だったのだそうだ。

 あれはピーコのささやかな復讐だったのかもしれない・・・・・・。でもまあいいか。そのお陰でぼくは愛ちゃんといまでは幸せに暮らしているのだから。

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