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Side-R⑤ 乙女心は波間を揺蕩う

 二つ目の契約の後、森はまたガラリと様相を変えた。

 ターコイズブルーだった空は、エメラルドグリーンへと塗り替えられた。お菓子の森に漂っていた甘い匂いは、今はもう欠片も残っていない。

 メタリックな輝きを放つ木。針金で形作られた葉と花。鈍色の金属と歯車で出来たカラクリの鳥が宙を舞う。砂糖細工の蝶々は、ガラス細工の蝶々に姿を変えていた。

 生き物の息吹が感じられない、作り物の森。


 二つ目のドームの奥には、もう一つ出入り口があって、そこからまた、次のドームへの小道が続いていた。さっきと同じ、一本道だった。これがゲームの世界なら、森の中は迷路のようになっていてもおかしくないが、現実は創作よりも優しいようだった。物足りないという人もいるかもしれないが、方向音痴な流風るかには、素直にありがたかった。もしかしたら、天の女神様のご加護なのかもしれないと、流風は都合よく思った。


 森の様子が変わったことには気が付いていたものの、ゆっくりと鑑賞する余裕もなく、流風は先を歩く青い背中を睨みつけながら、一人悶々としていた。

 これ以上、乙女心を弄ばれてなるものかと、二回目の契約はキリーの手を借りずに流風一人で行った。なのに、結局また、青くて冷たい乙女の悪魔に、心をかき乱されている。

 キリーが凶行に及ぶ前に、黄色いゼリービーンズの実を自分で食べて、無事に契約を終わらせた。それで、よしとばかりにキリーを振り返ってみれば。

 キリーはなぜか、残念そうな顔で流風を見ていたのだ。拗ねている、ようにも見えた。

 てっきり、これまでのように契約さえ無事に済めば「もうここには用はない。さっさと次へ行くぞ」と、クール騎士ぶりを見せつけてくると思っていたのに。


 ――――キリーは、どうして、あんな顔をしたんだろう。だって、あれじゃ、キリーが。キリーが、まるで…………。


 流風に手ずから実を食べさせられなかったことを、残念がっていたようではないか。

 キリーが流風に、実を食べさてやりたかった…………みたいではないか。

 最初の契約の時に、キリーが流風に手ずから実を食べさせてくれたのは、流風に説明して本人にやらせるよりもこの方が早いだろうという、効率を重視してのことだと思っていたのに。こんなところでモタモタしていないで、早く王女様のところへ行きたいから、余計な手間を省いただけなのだと、その後の氷塩対応ぶりで思い知らされたというのに。

 流風とキリーの間には、ラブなロマンスが発生する余地は一ミリたりともないのだな、と実感させられたというのに。

 だって。白リボン事件の時だって、そうだった。シチュエーション的には激アツに甘いのに、氷漬け直前な冷気を漂わせる騎士の態度に、少なくともキリーの方はそういうつもりでやっているわけではないのだということは、言われなくても理解させていただいたというのに。

 なのに、なんで今になって、そんな顔をするというのか。

 そんな顔をされたら、


 ――――もしかして、もしかしたら。少しはあたしのこと、女の子として意識してくれてる、のかな?


 そんな思いが、ふっと心をよぎってしまう。

 もしかして、騎士と王女様の間には、ラブなロマンス的な感情は一切なくて。騎士が王女様を助けに行くのは、乙女が憧れる系の理由ではなくて。ただ、騎士としての忠誠心からだけ、とか。

 そんなもしかしてを、つい考えてしまう。


 ――――もし、も。もしも、そうだとしたら。だとしたら、あたしは…………。


 平凡な自分なんかには起こりうるはずがないと、一度は却下した、恋愛冒険譚のヒロイン路線が復活しかけていた。

 そもそも、あの顔はズルイと思った。

 初めて見る、拗ねたようなキリーの顔は、年上の男性のはずなのに、どこか弟みがあった。正直を言って、それはかなり流風のツボだった。

 綺璃亜きりあに似ているとかいうこと以前に、クール塩対応からの弟みのある拗ね顔というのが、流風的には割とクリーンヒットだった。

 もしかしたら、自分はギャップに弱いのだろうか。綺璃亜の時も、確かこんな感じだったな、と流風はグラグラしつつも自分を分析する。

 あのクール塩対応ぶりは、騎士としての責務を全うするためのキリーの仮面であって、こっちのちょっと可愛げのある拗ね顔がキリーの素顔なんだとしたら。この後は、少し仮面が剥がれて、こんな感じに少し砕けて流風に接してくれたりしたら。

 そんなことをされたりしたら、もう。


 ――――ダメだ! そんなんされたら、お花畑になった脳みそがパーンして、花びら交じりのドピンクの脳しょうを森の中に巻き散らすことになっちゃう!


 乙女爆弾のスイッチを入れたのはキリーだったが、爆発寸前で解除してくれたのもまた、キリーだった。今現在、流風の先を歩くキリーではなく、過去のキリー。

 ケミカルイエローの契約の後、散々、流風に弟みを披露した後のキリー。

 思い出すだけで、茹だり過ぎて破裂寸前だった脳みそが、瞬間冷却されていった。

 契約の終わったドームの中で。想定外の出来事に混乱した流風が、二つのゼリービーンズが実った小枝を握りしめたまま、行動不能に陥っていたというのに。

 キリーの方は、見届けるなり、通常運転に戻った。


「終わったなら、次に行くぞ」


 いつものように、素っ気なくそう言い残して、一人でドームを出て行ってしまったのだ。さっきの顔は流風の幻覚だったのではないかというくらいの急変ぶりだった。

 その背中からは、甘さも弟みも一切感じられない。塩と氷を背負った、いつもの青い騎士の背中だ。


「……………………………………だよね…………」


 乙女テンションを急降下させて、流風は少々やさぐれながらも、青い背中に続いた。本格的に置いてきぼりにはされないだろうけれど、またいつどんな毛むくじゃらが襲い掛かってくるのかも分からない状況で、あまり離れたくはないからだ。

 視線はほぼ、前を歩く素っ気ない背中に釘付けだった。

 その、あまりの手の平の返しように、がっくりきたのは確かだけれど。

 でも、幻を疑うくらいの切り替えの早さだったけれど。それでも、アレは幻じゃない。

 ほんの少しの間だけ見せてくれた、キリーの素顔……かも知れない、顔。

 あれは、本物だった。

 そう思うと、胸の奥が、きゅうっと締め付けられる。頬が熱くなってくる。鼓動が、早くなっていく。

 そうして、爆発寸前まで熱せられたところで、青い氷塩水を頭からぶっかけられるのだ。

 何度目かの着火と冷却を繰り返して、すっかり疲労困憊してしまった流風は、恨めし気に青い背中を見つめる。


 ――――もしかして、わざとやっているんじゃ、ないんだよね?


 ついには、そんなことを疑いだす。

 クールを装いつつ、実は流風が一喜一憂する様子を楽しんでいるのでは、と疑心暗鬼になってしまう。

 そうだとしたら、本当に質が悪かった。

 間違いなく、乙女の敵ならぬ、乙女の悪魔だ。

 でも、あの時の拗ねたような顔が、演技だとは思えなかった。それに、前を歩く青い背中は、後ろの流風のことなんて全然気にしていない。前しか、この先で待つ王女様のことしか頭にない。そんな風な印象を受ける。

 だけど、それならそれで、どうしてあの時あんな顔をしたのかが、やっぱり気になってしまうのだ。

 恋と冒険の物語のヒロイン。乙女として、憧れはある。元の世界では、ヒロインなんて夢のまた夢だった。流風だって、自分の身のほどくらい、分かっている。

 でも、ここは異世界で、流風は天の乙女なのだ。

 それならば、平凡平均点少女の流風にだってワンチャンあるのではないかという期待が、心の奥底にほんのわずかに残っている。ほんのわずかだけ、残っている。ここでなら、もしかして、という期待を完全に消し去ることは、どうしたって出来ない。

 なのに、『でも、やっぱり、ヒロインなんてあり得ないよね』と期待を打ち消してしまうのは、期待を裏切られた時が怖いからだ。最初から予防線を張っておけば、傷は小さくて済む。やっぱりそうだったかって、自分で自分を慰めて納得させることが出来る。

 だからこそ、どっちつかずにも思えるキリーの態度が恨めしい。

 キリーがもっとちゃんと王女様一筋のクール騎士を貫いてくれれば、余計な期待はせずに済んだのだ。王女様と騎士、二人の恋を応援するキューピッドポジとして、少女マンガや恋愛ドラマを鑑賞している感じで、この冒険を楽しめたのに。

 なのに、キリーが。

 キリーが、リボンを結んでくれたり、流風にゼリービーンズを食べさせられずにがっかりした素振りをみせたりと、ちょくちょくと流風的に糖度高めのイベントを起こしてくるから、沈めたはずの期待がぴょこりと頭を覗かせてしまうのだ。

 うっかり、勘違いしそうになってしまうのだ。


 ――――しかも、さ。白リボンの時はまだ、あたしが勝手に重ね合わせちゃっただけで、キリー的には早く先へ進みたいだけの、無自覚乙女悪魔の可能性大だけど。さっきのゼリービーンズは、何? 何なの? あたしにゼリービーンズを食べさせたかったのになんだよ残念だな、以外にあんな顔する理由、ある!? 少なくとも、あたしには思いつかないんだけど!?


 あれは本当に卑怯だったと流風は唸り声を上げそうになる。乙女にあるまじき唸り声を。


 ――――もしかしたら?

 ――――でも、そんなわけないよね……。


 流風の乙女心はユラユラと、期待とあきらめの波間を漂い、顔を出したり沈んだりと忙しい。

 せめて、もっと自分が可愛い女の子だったら、もう少し自信を持てたのにな、とも思う。

 別に絶世の美少女とかじゃなくていいから、せめて普通より少し可愛いくらいだったら、天の乙女補正で、キリーが一目惚れしちゃった可能性があるのではないかと思うのだ。キリーが王女様を好きだったとしても、両想いじゃなかったりしたら、もしかして流風と結ばれる未来だってあるかもしれないと、もっと素直に期待したかもしれない。

 もしくは。

 流風がもっと天の乙女として頼りになれば、二人で協力して森を進むうちに、何かが芽生えてしまう可能性もあったのでは、と思う。でも、残念ながら。流風は女の子としても、天の乙女としても、かなりのポンコツだった。流風自身、そう思っている。今まで何とかなってきたのは、流風が小枝の魔法を操って解決したというよりも、小枝のほうが勝手に何とかしてくれたような印象がある。流風自身は、伝承の木と契約しているだけで、後は力が宿っている小枝を持ち運んでいるだけのような気がするのだ。

 キューピッドにすらなれない、ただの小枝の運搬役。

 恋に落ちるどころか、はずれの乙女を引いてしまったとがっかりされている可能性だってある。

 だとしたら、小枝の乙女呼ばわりされても仕方ない。

 いや、小枝の乙女としてすら、役不足な気がしてくる。


 ――――おおおおおお! でも、それなら! やっぱり、なんで! あんな顔するのぉー!?


 グルグルと迷走し、あてどなく波間を漂う乙女心は、結局はそこへ辿り着くのだ。

 天の乙女としての役目を果たすことや、元の世界で待つ綺璃亜のことは、海底深くに沈んでしまって、もう姿も見えない。

 キリー本人に、聞いてみたい。でも、聞けない。

 聞いたら、幻でも見たんじゃないのかとか言われてしまいそうで、怖くて聞けない。

 一体、どうしたらと悩みに悩んで一つの結論に行きついた。


 ――――次の契約の時に、はっきりさせよう。もしキリーが、またあたしに契約の実を『あーん』しようとしたら、どういうつもりでそんなことをするのか、聞いてみよう。そうしよう。うん。それがいい。そうしよう。よし、解決! 冒険に集中しよう。次の毛むくじゃらに備えよう。うん。


 そもそも、流風は深く考え事をするのに向いていないのだ。問題を棚上げして、すべて解決したような気になり、肝心の冒険の方へと意識を切り替えることにした。


 そして、まるでその時を、待っていたかのように…………。


 前方から、獣の唸り声が聞こえてきた。

 ハッとなって、少し先を歩く青い背中の向こうへ視線を移す。

 二人の行く先には、メタリックシルバーの毛皮に包まれた狼が待ち構えていた。狼は小道の真ん中に陣取っている。狼の向こうには、次のドームも見えた。

 金属製の茨のドーム。真新しい十円玉の色をしている。

 ドームに入り口はなかった。小道の先、通常なら入り口になっているはずのところも、完全に金属の茨で覆われてしまっているのだ。キリーの剣で切り払うことは、無理そうだった。

 つまり、小枝の乙女の出番ということだ。

 乙女思考に浸りきっていたので、いつ現れたのかも気づかなかったが、キリーはすでに剣を構えていた。

 ドームの前に、まずは狼を何とかしなければならない。

 サイズは、普通の狼のようだった。恐れていたような毛むくじゃらではなかったことに、少しだけ安心した。毛むくじゃらの虫は嫌いだけれど、毛皮系の動物はむしろ好きだ。毛むくじゃらと毛皮は、まるで違うものなのだ。

 おかげで、さっきよりは、まともに戦えそうだった。

 かといって、油断は出来ないのだが。流風への心理的影響以外では、むしろ危険度は上がっている気がする。毛むくじゃらクモよりも、狼の方が動きは素早そうだし、剝き出しの牙は毛皮と同じメタリックシルバーに輝いていて、切れ味が鋭そうだ。一噛みされただけで、スプラッタなことになるのが予想できた。ケガを直すための回復魔法は、多分使えない。ここは、慎重にいかねばならない。

 気を引き締めて、流風は小枝を構えた。

 試しに何か魔法を使ってみるべきかとも思ったのだが、ここで放つと前にいるキリーも巻き込んでしまいそうだった。

 狼は唸り声で威嚇してくるだけで、今のところ襲い掛かってくるような素振りは見せない。流風は、思い切って、もう少しキリーに使づいて、キリーの脇から小枝だけを前に突き出し、とりあえず使ったことのある氷の魔法を放ってみることにした。

 なんとなく、新しく覚えた方の魔法が効くのではないかという気もしたが、どんな魔法なのかが分からなくて不安なので、止めておくことにした。必要なら、また小枝が勝手に光って必要な方の魔法を使ってくれるだろうと、安直に考えてもいた。

 心を決め、そろりと一歩前に足を踏み出すと、それが引き金となったのか、狼がキリーに飛び掛かって来た。キリーは軽い身のこなしでそれを交わすと、狼の胴を剣で薙ぎ払う。血しぶきを予想して、流風は顔を背けて目を瞑る。

 予想に反して、剣が肉を裂く音ではなく、金属と金属がぶつかる音がした。


「小枝の乙女! 魔法を使え!」


 珍しく焦ったようなキリーの声が聞こえて目を開けると、毛皮を裂かれた狼が目の前に立っていた。毛皮の奥に見えるのは、傷一つないメタリックボディ。

 メタリック狼は流風を見ていた。その後ろで、キリーも流風を見ている。怪我はしていないようだった。

 メタリック狼に小枝の先を向けながら、流風は無意識に後ろに下がっていた。メタリック狼は動かない。代わりに、口を大きく開けた。口の奥には、先っちょが煤けたパイプのようなものが見える。赤いものが、チラリと揺らめいた。

 学校の成績は今一つな流風だが、伊達にゲームやアニメを嗜んでいるわけではない。

 それだけで、展開は読めた。この先の展開だけは、一応、読めた。


「み、みみみ、水色! 氷!」


 メタリック狼の口の中。煤けたパイプから、火炎放射器のごとく炎が噴き出してくるのと同時に、ケミカルな水色の光が小枝の先から放たれた。

 展開が読めていた割には、腰が引けているうえに声は上ずっていて、安定のグダグダっぷりだったが、流風がポンコツでも小枝はちゃんと仕事をしてくれた。

 ケミカルな水色の光に包まれて、炎はあっけなく消えた。小枝の魔法の方が力が強いのか、パイプの先が氷漬けになっている。炎の出入り口は全部、氷で塞がれていた。メタリック狼は唸り声を上げているが、次の一撃を放つことは出来ないようだった。

 メタリック狼が次の攻撃に移る前に、流風は追撃を仕掛けることにした。


「イ、イエロー! 電撃ー!!」


 小枝から、稲妻のような光が飛び出して、メタリック狼に襲い掛かった。

 直撃と同時に、ショートしたような激しい音が跳ねるように響き渡り、火花が飛んだ。メタリック狼の唸り声が止む。パチパチと音がするばかりで、メタリック狼は動かない。毛皮のあちこちから、煙が上がっていた。ずるり、と焦げた毛皮が地面へと滑り落ちていった。

 毛皮を被った機械仕掛けの狼は、小枝の電撃魔法によって活動を停止したようだ。

 キリーが剣の先でコツンと小突くと、ガラガラガシャンと音を立ててメタリックな体が崩れていく。

 金属の板と歯車と、ねじの山が出来上がった。

 機械仕掛けの狼は、ガラクタの山になってしまった。

 これだけの材料で、本物の狼のように動いたり出来るものだろうか?

 機械仕掛けの狼は、魔法仕掛けの狼でもあったのかもしれない。

 なんにせよ、脅威は取り除かれた。

 ほーっと息をついて、流風はその場にへたり込む。

 安心すると同時に、後悔が押し寄せてきた。


 ――――もう少し、カッコいい呪文を考えておけばよかった……。必死だったとはいえ、あれはないよ。せめて、イエローボルト……いや、それも違う。定番だとライトニングとか、イエローじゃなくてサンダーボルトならまだマシだったのか……。


 魔法の発動にあたって、あまり呪文は重要ではないようだったが、だからこそ、カッコよくて凝ったもののしたかったと思うのだ。

 流風的には、それなりに重要なのだが、傍からすればどうでもいいことで反省会を開いていると、スッと目の前に手が差し出された。


「次で最後の契約だ。行くぞ」

「え?」


 甘さも優しさもカケラも感じられないが、それでもキリーが流風に手を差し伸べてくれている。

 突然すぎて、事態についていけない。呆然としつつも、早くしろと視線で促され、流風は小枝を左手に持ち替えて、空いた右手を差し出した。キリーはその手を掴んで、ぐいっと流風の体を引き上げる。流風が立ち上がったのを確認すると、あっさりと手を放して、例のごとく一人背を向けて最終ドームに向かって歩き出してしまったが。

 それでも、どうでもいい一人反省会は、あっけなく終了した。もはや、流風は反省会を開いていたことすら覚えていない。

 キリーの感触が残る手を見つめ、冷たくそっけなく先を歩く青い背中を見つめ、それから――。

 きゅっと握りしめた右手を、胸に押し当てた。

 棚上げしていた問題が、再び流風の脳内を巡り始める。


 ――――ちゃんと、聞かないと。


 決意して、足を踏み出す。

 決意をした割には、足元はどこか浮ついていた。

 期待と不安と迷いが浮かぶ瞳には、けれど。

 流風本人も自覚していない、仄かな熱が籠っていた。


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