シバと李仁はマンションの一階にある喫煙所でタバコを吸っている。
慌ててシバの軽トラをゲスト専用の駐車場に停めたかったのだが外にあり、シバの荷台に載っている家財道具がカバーはしてあるものの、外の大雨のことを考えると屋内の李仁の車が停めてある駐車スペースがいいということになり車の移動をして李仁はへとへとであった。
外に停めたということもあり、李仁の服はやや濡れていて機嫌が悪そうにタバコを吸う。タバコはシバから貰ったものだ。
「悪いなー、雨ん中」
「冗談じゃないわよ……まだお隣さんがいい方で。明日菓子折り買って持っていかなきゃ」
「大変ですなー、高級マンションの人付き合いも」
シバは笑いながらタバコを吸う。悪びれた様子もなく。その態度に李仁はいらっとしながらも昔と変わりがない、そして剣道場で惚れなおした自分が馬鹿だったと後悔しているようだ。
シバはスマホを見てる。そしてため息。
「ダメやったわー」
「なにが?」
「新しい宿の候補その1、その2が同時にアウト」
「三日でほんと見つかるの?」
「……見つかる♪ 見つかる♪うふー」
シバはCMソングを口ずさみながらまたスマホで誰かにメールをしているようだ。
彼はそもそも両親が亡くなってから児童施設で育ち、高校の同級生の女性と長年交際し、結婚、そして3人の子供が立て続けに生まれるものの昔からの浮気がやめられないシバはエステ会社経営を立ち上げた妻に離婚届を突きつけられた。
ちなみに慰謝料、養育費の請求はないものの元妻は子供3人とともにハワイに移住し連絡はほぼ取れないとのことらしい。
「おとなしくしてりゃー、シバは今頃楽園の地でゆうがにすごせていたろうに……てあっちの方が無法地帯か」
「ははっ、確かにあっちの方が色々と楽しめそうだったなー。ヌーディストビーチ、ナイトクラブ、ナイスバディ!」
「懲りないわね」
「……て、そんなに元気は無いな」
シバはタバコを灰皿に擦り付けた。血の気が盛んだった刑事時代のあの頃とは変わりはないとは思っていたのだが年齢には勝てないのだろう。
「ほんと誰かいないの?」
「なんだよ、追い出す気かよ」
「……そんなこと言ってないけど」
シバが頭掻いて、うーんと言う。
「まぁいなくはないけど」
「いるんじゃん、連絡したの?」
「……したけどあっちは忙しいだろうし、それに」
「それに?」
シバは口籠る。何か訳ありのようだ。
「……そいつに子供いるんだよ」
「子供……人妻なの?」
シバは首を大きく横に振る。
「ばか! また人妻でバツイチ」
「……そういうのにも手を出すんだ」
「まだそんなに手を出してねぇよ」
「出してるんじゃん」
「……」
李仁は口数が少なくなったシバに対して笑う。
「……子供いてそういうのできねぇんだよ」
シバはムキになって大声を出したのと同時に喫煙室に他の住人の男性が入ってきた。男性はなにを言ってたかわからないようだったがシバが立ち上がって喫煙室から出た。李仁も追うように出る。
二人は部屋に戻るためにエレベーターに乗る。
「子供にしてるところ見せたくないって、そういうところしっかりしてるわね」
「……嫌だったんだよ、俺の子供の頃、まだ小さくても記憶に残ってる」
シバは俯いている。
「そうなんだ……」
李仁がミントタブレットを口に入れたとき、
「俺にも分けろよ」
シバが李仁にキスをし、舌を絡ませミントをその中で転がし混ぜ合わせた。
李仁は最初抵抗するが抱き寄せて溶けていくミントを二人で共有するかのように強くキスをする。
部屋の階にエレベーターが着いた。二人は体と唇を離す。……が。
「……車に忘れ物をした、着いてきてくれないか」
「またエレベーターで降りるの?」
「もちろん」
李仁が口の中にミントタブレットを再び入れ、シバの前で舌を出した。
「馬鹿じゃねぇのか」
「あなたこそ馬鹿」
「……湊音と二人きりはダメだけど俺と二人きりはいいのか」
「……ダメ」
と言いつつも二人はエレベーターが下降すると同時に再びキスをした。