教員からも話を聞くが、女子児童ほど有力な情報は得られなかった。
車に戻ると、里津は小難しい顔をしている。
「……さくらは、希衣ちゃんと遊びに行くとでも思ったのかな」
里津はシートベルトを着用しながら、ふとこぼした。
「……かも、しれませんね」
赤城は重々しく返すと、車を発進させる。
「だよね。凱くんが、危険な状況だってことは伝えてるはずだし、さくらは、それが理解できない子じゃないもんね」
赤城は小さく頷く。
さくらの危機管理能力はきちんと育ててきたはずで、それが備わっていることは、親である赤城が一番知っている。
それなのに、こうなってしまったのは、きっと。
「……川霧さんが相手だったから、警戒心が働かなかったのかもしれません」
姑息な手段に、思わずハンドルを握る手に力が入る。
「じゃあ犯人は、希衣ちゃんを利用してさくらを誘拐する、って作戦を立てたってことになるよね」
「ですね。なんとも許し難い作戦です」
赤城が同意しても、里津はまだ思考の迷路に迷っているようだった。
「里津さん?」
「……やっぱり、しっくりこない」
それはきっと、犯人の狙いについて。
希衣ではなく、さくらを狙った理由。
それが、どうしても理解できなかった。
「しっくりこないと言っても、実際に起きている以上は、もう受け入れるしかないのでは?」
そう言われても、里津は受け入れられそうになかった。
「私……希衣ちゃんが裏切り者なら、辻褄が合う気がしてる」
赤城は耳を疑った。
希衣を唯一の友達だと言っている里津の言葉とは、到底思えなかった。
「なぜ、そう思うんです……?」
意図せず震えてしまう声。
赤城ですら信じたくないと思っているのだ。
里津がどう感じているのかなんて、考えるまでもない。
「……希衣ちゃんが凱くんに助けてって送れば、凱くんは、迷わず希衣ちゃんのところに駆けつける。そうすれば、さくらのところから誰もいなくなる。希衣ちゃんは、この状況を作りたかったんじゃないかな」
冷静に話しているように見せて、その強い声は強がっているようだ。
「あくまで……可能性の話、ですよね」
「うん、可能性の話。希衣ちゃんが脅されてそうした可能性もあるから」
赤城としては後者を信じたいところだが、それは私情でしかない。
ゆえに、赤城も里津と同じように、可能性として、それを胸に刻んだ。
「それにしても、随分と落ち着いていますね」
いつもの里津ならば、信じたくないと駄々を捏ねていただろう。
しかし、今目の前にいる里津は、ただ静かに推理を語った。
その姿が、赤城からしてみれば、以外だった。
「……若瀬に吹っかけられてたから。希衣ちゃんが犯人側なら、犯人の思惑通りにショック受けるだろ?って。でも、だからこそ、希衣ちゃんが裏切ってるかもって考えてるのもある」
里津は不服そうにしながら、言った。
すでに植え付けられてしまった、最悪なシナリオ。
その通りに進んでいるかもしれないという予感が、里津の思考回路を操作しているような気がしていた。
若瀬のたった一言でその軌道に乗ってしまっていることにさえ、里津は苛立ちを覚えた。
「僕としては、凱の浅はかな判断、行動が気になるところですが……」
赤城はそう言いながら、車を駐車する。
視線の先には、署の前に立つ凱がいる。
「それは本人に問い詰めるとしましょうか」
赤城たちに気付いた凱は、真剣な面持ちでいた。