「はぁ……もうこんな時間なんだね。一日早すぎでしょ」
「そうですね」
徐々に太陽が沈み暗くなる。
2人はパルフェを食べた後もサキの立てた予定通り進めて楽しんだ。時間が経つのが早く気がついたら空が暗くなっていたのだ。
サキは満足していて帰ろうとしていたが、蓮は待ったをかけた。
「……最後に観覧車乗らない?」
「はい?」
サキは首を傾げ、蓮は唖然とする。サキの反応を見て、忘れているなと思った。
「……もしかして、メイドさん忘れてる?」
「何をでしょう?」
「まだ、俺にとっての一大イベント残ってるんだけど」
やれやれと言わんばかりに蓮はため息をする。
その仕草にムッとしたサキは目を細める。
「プレゼント。まだ、渡してないんだけど」
「……あ」
頭から抜け落ちていたサキは声を漏らした。
遊園地に誘った後、一条に服を買いに行ったり。絶叫マシンを調べてどう効率的に回るかも考えていた結果、忘れてしまったのだ。
「今、あって言ったよね。メイドさん案外抜けてるんだね。自分のこと完璧メイドって自負してたのに」
「違います。忘れてなんかいません」
「えぇ?」
苦笑いを浮かべる蓮にサキは首を横に振る。事実だが、サキはそれを認めたくなかったのだ。
ーー私って面倒な性格なのでは?
頑固で変なプライドが邪魔をしてしまう。
今日1日を通してサキは自分自身の知らない一面を多く知る機会があった。
はしゃぐと何か忘れてしまったり、少しでも感情的になるといつもできてるはずのポーカーフェイスが崩れたり。余裕がなくなると素が出てしまう。
だが、嫌ではなかった。気を使わないで、素で接しているのは楽だったから。
普段から大人と接する機会の多いサキは常に仮面を被り自分を諌めている。だが、蓮と一緒に過ごす時は取り繕うことなく自分らしくいられる。
「ど、どうしたのメイドさん?」
と、ここまで考えたところで蓮から話しかけられ我に帰る。
なんと返答しよう。そう考えたサキはいつも通りの返しをしてしまう。
「……私に何をしようというのですか?」
「……え?」
蓮はポカンとする。サキは言葉を紡ぐ。
「……観覧車で逃げ場のない空間に連れ込んで。……私に」
「ち、違うからね!言ったじゃんプレゼント渡すだけだって!」
「それは本当なのですか?」
「ほ、本当だって!ほ、ほら。雰囲気作りとか大切でしょ?変な誤解を招く発言しないでよ」
「……冗談ですよ?なんでそんな動揺してるんですか」
「う……」
思わず蓮は苦笑い。初めは蓮のペースだが、巻き返されてしまった。
この揶揄いを揶揄いで返すのはサキなりの照れ隠しの現れだ。
そのことを自覚しつつもサキは小さく深呼吸をする。
「もう、閉園時間まで近くなってしまいましたし、いきましょうか」
「うん」
蓮は黙って頷いた。2人は小走りで観覧車に乗り込んだ。
「高いですね」
「メイドさんってさっぱりしてるよね。ここはもっとロマンチックなことを言わないと」
「私に世間一般の感想を求めないでください」
サキと蓮は観覧車に乗り込むと向かい合うように座る。徐々に上へ上へ高くなる。
夕焼けに照らされる観覧車、物音ひとつない密室で男女2人きりというのは雰囲気が良い。
プレゼントを渡すにはもってこいのシチュエーションだろう。
観覧車に乗ってからしばらく経つのだが、2人の間には沈黙が続く。
蓮は俯いていた。おそらく緊張してしまっているのだろうとサキは判断した。
「あ、あの。メイドさん」
「……はい」
少し緊張していることを悟られたくなくてサキはゆっくりと返事をする。蓮の声は震えていて緊張しているのが伝わってきた。
サキは雰囲気を壊したりしない。蓮のペースで話を進めてくれるのを待つ。
蓮は意を結したのかゆっくりと視線を上げる。
「隣に行ってもいいかな?」
「……空いてますし大丈夫です」
蓮はサキの隣に移動する。こういう、雰囲気を大切にする気遣いは蓮の良い部分だなとサキは感心していた。
「や、やばいよメイドさん」
「ご主人様、どうされたのですか?」
雰囲気が完璧でいざ、プレゼントをくれるのだろうと考えた矢先。声も手もブルブルと震えている蓮にサキは異変に気がつく。サキは未だ俯いている蓮の顔を覗き込んだ。
手は震えていて、顔は真っ青だった。
「観覧車高すぎでしょ。怖すぎてめっちゃやばい。お願い助けて」
「……は?」
サキは状況が飲み込めず口をポカンと開けたのだった。