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第14話

 「YANAGI ファミリーパーク」は流水が創設した遊園地だ。

 最新の技術をフルに使ったアトラクション。成人の大人が悲鳴を上げるようなアトラクションから、子供が楽しめる緩やかなアトラクションなど、対象の年齢層は幅広い。

 だが、そのほかにも根強い人気があったのは今時の写真映えするスイーツやスポットなどもある。

 時代の変化と共に柔軟に変わっていった。

 人気があるところは残し、新しい部分を積極的に取り入れる。総資産が多い故に失敗を恐れずトライアンドエラーをくり返す。

 賛否両論が多いが根強いリピーターが多いため、売上は常に右肩上がりである。

 サキは日本に来た時、ちょうど開園する当日に一度だけ流水と訪れたことがあった。その時に食べたスイーツが「YANAGIゴールデンパルフェ」で、遊園地創設以来から存在するメニューである。





「そっか。じいさんとの思い出のパルフェなんだ」


 2人はキッチンカーの前に並べられている椅子に腰掛けた

 サキが気になっていたパルフェは家族で食べるようで普通のパルフェに比べて3倍近くも大きい。

 パルフェは流水と2人で食べた思い出のスイーツだ。

 蓮は席を立ち上がる。


「なら、せっかくだし一緒に食べようよ」

「私少しお腹一杯ですが」

「大丈夫!俺まだ余裕あるし、デザートは別腹だっていうでしょ?」


 蓮は財布を持つと買いに行ってしまった。

 サキは腹八分目ほどで食べられないと考えた。

 蓮は昼食を食べ過ぎている。いつも食事を作っているサキは蓮の胃袋事情を熟知しているため、パルフェを食べきれないかもしれないと考える。


 だが、蓮はその制止を聞かずに買いに行ってしまった。

 正直、サキは断ろうとしたが、食べたいと思った。


「……気を使わせちゃったかも知れませんね」


 サキはキッチンカーのキャストと話している蓮を見ながら呟く。


「めっちゃ美味しそうだよこれ!」


 それからしばらくして大きなパルフェを持ちニコニコと歩いてくる蓮が戻ってくる。その姿に頬がほころびるサキだった。

 2人は一つのパルフェを食べ始める。


「……ふふ」


 サキは思い出し笑いをする。


「どうしたの?」

「いえ。昔のおじい様を思い出してしまいまして。私がパルフェを食べた話には実は続きがあるのです」

「へぇ。それは興味あるね」


 一度口に出した後は、思い出が脳裏によぎる。サキは蓮に話す。


「頼んだまでよかったのですが、当時小さかった私は1人分も食べきれなかった。残りはおじい様が美味しい美味しいと、食べたのです」

「じいさんは甘いもの好きなんだね」

「いえ。おじい様も得意ではなかったんです。ですが、おじい様は私を困らせまいと無理をして完食したのです」

「……それが嬉しかったの?」

「はい。当日遊園地に来たのも私を喜ばせようとしたそうで。パルフェもなんとなく私が眺めていたから買ってくれたんです」


 蓮はうんうんと頷きながら傾聴する。


「おじい様はとても不器用な方でしたが、自分なりに私との仲を深めようとしてくださった。パルフェの件でなんて優しい人なんだろうと、そう思ったのです」

「そうなんだね。……確かにじいさん不器用だけど、優しいね」


 蓮はサキに共感する。

 蓮は家族のことを楽しそうに話すサキの姿によほど思い出に残ったんだろうなと思っていた。

 実際、蓮と流水とは言葉を交わした回数は多くない。それでも、サキを思っていることは伝わっていた。

 少しだけしんみりとした空気になってしまった。サキはハッとしてスプーン持つ。


「せっかくのパルフェ、いただきますか。いくらでしたか?」


 サキは財布を出そうとするが、蓮は「奢りで良いよ」と言う。

 せっかくの厚意にサキは甘えることにした。

 蓮とサキは食べ始める


「……美味しい」

「昔と味変わってたりするのかな?」

「……どうでしょう?結構前のことですので」

「だよね」


 そんな会話を交えつつお互い一口ずつ口に運ぶ。サキは二口目を食べようとして……手が止まる。

 ちょうどアイスとチョコクリームが乗っているスプーンと蓮を交互に見る。蓮はサキと目が合うと首を傾げる。


「……どうしたの?」

「いえ。なんでもないのですが。何故構えるのですか」

「いや、なんか企んでそうで」


 その視線に気がついた蓮は少し警戒した。

 サキはムッとした


「せっかくの食べさせて差し上げようと思いましたのに。そんなに身構えられるのでしたらやめます」

「……え?」


 予想外の言葉に固まる蓮をよそにサキはスプーンを自分の口に運ぼうとする。


「ご、ごめんなさい。まじでごめんなさい」


 蓮は慌てて謝罪をする。その必死すぎる表情にサキはニンマリと笑みを浮かべる。


「……それは人にものを頼む時の態度ですか?」


 サキは悪い癖が出てしまっている自覚はある。だが、慌てる蓮を見ていると、ついつい揶揄いたくなってしまう。

 蓮は席から立ち上がると背筋をピンと伸ばす。そのまま腰を90度に曲げて頭を下げる。


「食べさせてください!お願いします!」

「わ。わかりましたから。席に座ってください」


 必死すぎて蓮の声は周りに聞こえるほどだった。視線が集まるのを感じる中、サキは恥ずかしさのあまり座るように促す。

 蓮は席に座ると慌てるサキを見て笑う。


「メイドさんも慌てることあるんだ。動揺してるところ初めて見たよ」

「……」


 してやったりとした顔を蓮がする。

 蓮にサキを動揺させるための意図はなかった。ただ、必死で誠意を見せただけだが、結果的に今の現状になったのだ。


「さ、口を開けてくださいませご主人様。あーん!」

「……え?」


 サキは別に怒っているわけではない。精一杯のスマイルを浮かべてスプーンを蓮の口に近づける。

 その言葉は周りにも聞こえているわけで。男の嫉妬の視線や女からは「彼女にご主人様呼び強要させてるの?」「最低すぎるわ」と声が聞こえる。

 もちろんサキはわざとだ。

 蓮に揶揄われるくらいなら、道連れにしてやるという魂胆があった。

 もちろんやっている本人のサキも恥ずかしいのは自覚している。それでも、蓮に負けるのだけは嫌だった。


 客の視線が集まる中、蓮はサキに差し出されたパルフェを食べた。


「……ど、どうですか?」


 お互い恥ずかしさのあまり顔が少し赤い。

 恐る恐る確認したサキ。蓮は飲み込んだ後感想を口にする。


「……な、なかなかのお手前で」


 その言葉の意味するのはパルフェの感想か、サキの返答については定かでない。

 でも、2人はこの空間を早く抜け出したかった。

 2人は急いでパルフェを完食してその場を後にしたのだった。



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