目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第13話


 サキの住む屋敷からは駅を二つ進むと目的地である遊園地「YANAGIファミリーパーク前駅」に到着する。

 サキは到着後、YANAGI ファミリーパークの入場ゲート前設置型時計を眺める。


「……早く着き過ぎてしまいました」


 現在9時20分。サキは浮かれていた。流水と来た時以来である。だから、事前に下調べをしていた。集合は10時なのに早く着き過ぎてしまった。


「……少し気合い入れすぎではないでしょうか?」


 時計から視線を落として自分の服装を見る。

 サキの装いはカジュアルな服装だろう。クリーム色のミディドレスにベージュ色の細いウエストベルト。

 小さな黒色の鞄を肩に通す。

 髪型は普段纏めているが、今日は背まであるウェーブのかかったロングヘヤー。

 来ている服装は先日一条がお節介を焼いて購入した服装の一つ。

 一条は朝から早起きをしてサキの部屋に押しかけてきた。

 結果はサキも鏡を見て見惚れてしまうほどだったが。

 オシャレに無頓着だったサキだが、今後は少しだけ意識してみても良いかもと考えたのだった。


「……あれは」


 心の中で感謝を一条に伝えた後、サキは周囲を見渡す。すると少し離れたところにサキのことを見て硬直している蓮がいた。

 ポカンと口を開いている。

 サキは蓮に声をかける。


「あの、ご主人様?」

「……は?!も、もしかしてメイドさんなの?」

「もしかしても何も本人ですが?そんな間抜けな顔を朝から晒しているご主人様」

「その言葉の切れ味はメイドさんか」

「その判断の基準の意味が分かりませんが。それで、何で突っ立ってたんですか?」


 正気を取り戻した蓮の不思議な言動に首を傾げるサキだった。


「いや、天使が舞い降りたと思ったんだよ」

「……は?」


 意味深なことを真顔で言われキョトンとする。

 察するに蓮はサキの装いに見惚れてしまっていたらしい。

 そのことを聞いて嬉しくなったサキは少しだけ頬が上がる。


「あ、もしかして褒められて喜んでる?」

「……はい?」

「ご、ごめんなさい。だから、その笑顔を向けないで。足が竦んじゃうから」

「失礼ですよ?」


 実際に嬉しかったが、無意識に笑顔で威圧をする。自分の失態を指摘されたのが少しだけ悔しかったからだ。

 蓮はすぐに謝罪をしたのだった。その姿にサキは小さくため息をこぼすと蓮の手を引っ張る。


「もう、何してるのですか?早く集まれたのでしたら行きましょう。時間は有限なのですから」

「メイドさんもしかして浮かれてる?」

「否定はしません。今日は絶叫アトラクションを全て制覇するのですから、急いでくださいね」

「お、メイドさん乗り気じゃん」

「予定は立ててきました。これ通りに回れば余裕です」

「でも、並ぶ時間もあるし無理じゃない?」

「いえ、この優待チケットならばプレミアムパスで入れるので問題ありません」

「え?……ちょっと待って。それって結構高額だよね?」

「この遊園地作ったのおじい様です。有り余ってると思います」

「今さらっとすごいこと言ったよね。YANAGI ファミリーパーク……あ、そういうことか!」


 正直、サキははしゃいでいた。前回は身長制限だったが、今回は違う。

 せっかく来たからアトラクション制覇をしたかった。

 蓮はさらっとすごいことを言われて驚いたが、流水ならば何の不思議ではないかと結論づけた。

 2人は小走りで入園したのだった。





「……ご、ごめん。まさか、半日でダウンなんて」

「こちらこそすいません。まさかご主人様がこんなにもひ弱だったとは」

「そ、それは少しひどいよ」

「冗談ですよ。気を配れず申し訳ありません」

「き、気にしないで」


 蓮は窶れてしまった。はしゃいで入った2人だったが、絶叫アトラクションを待ち時間なしで乗り回していた結果、蓮がダウンしてしまった。

 現在2人はパーク内の屋外フードコートで休息とっていた。蓮はもたれるように机に両腕を組み額をつける。サキは申し訳なさそうに見つめていた。蓮がふと視線を上げると少しシュンとしているサキが目に入る。


「まぁ、少し休んだらまた乗りに行こうよ!」

「え?」

「まだ時間はあるし、次はどれ行く?」


 落ち込んでいるのがわかった蓮は顔を上げそう提案する。

 アトラクションに乗ることに集中していたせいで忘れていたが、今日はサキの誕生日なのだ。

 今日の主役を落ち込ませてはいけないと考えた。蓮はパンフレットを広げながら「これまだ乗ってないよね?」と提案してくる。

 サキは気を遣ってくれていることをすぐに察した。嬉しく思いながらも、時間がお昼時であることを確認して、サキは別の提案をする。


「……わかりました。ですが少しだけお昼を挟みませんか?ちょうど良い時間ですし」

「……あ、そういえば」


 時間は12時を回っていた。蓮は無理をしているし、もう少し休憩を挟んだ方がいい。時間的にもちょうど良いのだ。

 サキはスマホを取り出し、パーク内のメニュー見せる。


「何食べます?」

「そうだなぁ」


 そうやって2人でメニューを見て2人は注文を済ませたのだった。

 2人が頼んだのはハンバーガーとポテト。ジュースのジャンクフードだった。

 それぞれ食事を済ませて片付けた。そして、いざ移動をしようとした時。ふとサキは一つの看板に注視する。


「……YANAGIゴールデンパルフェ」

「ん?どうしたの?」


 次のアトラクションに向かおうとした2人だが、サキがふと視界に入った看板を見ると立ち止まる。

 サキはどこか懐かしそうに顔を綻ばせていた。


この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?