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第12話

 どう顔向けすれば良いか考えていたのだ。もともと、サプライズを計画してきたが、それもバレてしまった。不運が重なりサキに心配をかけてしまった。

 シュンと落ち込んでいる蓮をみてサキは再度優しいため息溢す.


「嘘ではないんですね。てっきりご主人様のいつもの変態プレイを実行しようとしているのかと思いましたよ」

「……へ?どういうこと?」


 訳もわからない蓮は顔を上げる。

 サキは同年代の友人はいない。付き合いもなく、今の蓮に気の利いた言葉をかけることも慰めで寄り添うこともできない。

 やり方がわからない。

 だから、いつも通りのやり方で接することにした。


「放置メイドプレイ。よかったですねご主人様。やっと念願のプレイが出来ましたから」

「放置?……いや、そんなことは」

「とても寂しかったですよ。5時間も放置されて。まさか、ご主人様がこんなことを仕掛けてくるなんて。全く、変態ですねご主人様」


 ニンマリと笑を浮かべたサキは言葉を紡いでいく。

 蓮はあたふたしてしまうが、目が合うなり揶揄われているのだとわかる。

 そして、何となく意図も察した。励ましているのだと。


「……メイドさん、性格悪いよね」

「お褒めに預かり光栄です」

「褒めてないからね。……でも、ありがとう」

「揶揄われて喜ぶって。ドM趣味の変態なんですね」

「だ、だから違うからね!……ああ、もうこの話終わり!」


 いつものサキのペースだとわからと蓮は無理やり流れを打ち切る。

 蓮は持っていた黒い鞄から、グラスグリーンの包装された手のひらサイズくらいのものを取り出し、蓮はサキに押し付けるように渡した。


「これは?」

「プレゼント!さっき話してたやつ。近くなったらあげようと考えてたけどあげる!」


 突然の行動にサキは目を丸くする。

 だが、サキはそれを受け取ることはしなかった。

 今のやり取りをするだけで安心する。

 一緒にいるだけでこんなにも胸高鳴る。蓮は自分のことを想ってくれて、プレゼントまで用意してくれた。

 サキは首を横に振る。


「拒否します」

「……え?あ、安心してよ。変なもの入ってないし、実用性のあるものだから」


 何を勘違いしているのか……と考えたサキだったが、言葉足らずであることをする。

 側から見れば拒否しているようにしか見えない。


 サキの誕生日まであと数日。

 今のように勢いに渡されるのは気分的に嫌だった。

 それに、今のこの気持ちが良い余韻に浸りたい部分もある。

 プレゼントは何を用意してくれたんだろうと。自分のことを考えて蓮が一生懸命に選んでくれたもの。

 それを楽しみに考えるだけで嬉しくなる。

 だが、今のサキにはそれを素直に伝えられなかった。否、素直になれない。


「私、放置メイドプレイをされたことまだ怒っています」 

「……どうすれば許してくれるの?」


 蓮は許してもらえたと思ったが、急にシュンと落ち込んでしまったサキにどう対応すれば良いかわからなかった。

 不運が重なったが、サキは良かったと思った。自分の気持ちに気がつけた。

 当たり前の日常だが、かけがえのないことだったと。

 だから、サキはチケットを取り出した。


「私の貴重な時間を無駄にしたご主人様様には責任をとっていただきます」

「えぇ、ちょっと怖いんだけど。……これは?」

「おじい様からいただいたものです。悪いと思っているなら、13日に私とここに行ってください」

「それって……デー」

「デートではございません。単なる暇つぶし、またはチケットの消費です」

「そ、そうなんだ」


 サキの意図は読めないものの、蓮は渋々チケットを受け取る。

 サキ自身、なぜこんな回りくどいやり方でチケットを渡しているのやら。お互い納得できず首を傾げてしまう。ふと、目が合うと10秒ほど沈黙があった。


「ふふ」

「ぶ……あはは」 

「では、当日楽しみにしておりますね」

「派遣の予定が14日でその前日だけど仕事方は大丈夫なの?」

「ええ。ちょうどお休みをいただいていますので。あお、おじい様は日中仕事が立て込んでしまっているとのことです。誕生日会は夜に改めて開いてくださることになってます」

「なるほどね。分かった」


 お互い納得できず、訳がわからない状況にふと笑ってしまった。

 サキは蓮の疑問を察して補足した。蓮も聞くつもりだったので答えてもらって納得したのだった。

 ただ、サキは今自分にある気持ちを何となく察していたが、今は考えるのはやめた。

 自覚してしまっては、今の関係が変わってしまうと恐れて。

 2人はその後連絡先を交換した。デートの約束を集合の時に現地集合だと今日の二の前になりそうだからという理由から。

 こうして2人のデート改め暇つぶしが決定したのだった。



 その日の晩。


「ちょっとサキ!デートに仕事着で行こうとするとかアンポンタンでしょ!」

「え、先輩ちょっと何言ってるかわからないのですが」

「ああ、何で服がないのよ。年頃でしょうに!もっと服を買いなさい!今から行くわよ!」

「えぇ……」


 サキは屋敷に帰るなり、一条になぜか表情からバレてしまった。

 問い詰めもあり、白状したサキは今日の一件を伝えた。すると、可愛い普段を持ち合わせておらず、無頓着すぎるサキに呆れた一条はお節介を焼かれたのだった。

 仕事が終わってから急いでレディースのアパレルショップに駆け込んで数着購入してのだった。


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