駅の改札口を出て、サキと蓮は公園へ向かう。歩く途中、蓮は道路側を歩いており、それを自然しているのは流石だなと思うサキだった。
「ついたね」
「そうですね」
公園についたサキは同意した。少しぎこちないのは緊張している故だ。
お互い歩く時は無言であった。蓮はこれからプレゼントを渡すことを考え緊張してしまった。3度目の正直とはまさにこのことだろう。
1度目は勢いで渡そうとしたが、断られた。2度目は観覧車で渡そうとしたが、高さに負けてダメであった。そして今回、雰囲気も悪くない。
公園はバスケットコートの半分くらいで、背もたれのないベンチ一つとブランコがあるだけの小さな公園だった。
2人はベンチ椅子に腰掛けた。
蓮は意を決して鞄の中からグラスグリーンの包装された箱を取り出す。
「これ……よかったら」
「……ありがとうございます」
サキは渡された箱を受け取ると、蓮と箱を交互に見て声を発する。
「開けてみてもよろしいですか?」
「あ、うん。気に入ればいいんだけど」
辿々しい会話が続く中、サキはプレゼントの包装が開けると丁寧に中身を取り出す。
「……これは?磁気ネックレスですか?」
黒く細長い箱を開けると出てきたのは取り外しできる部分に銀色のステンレスのリングがついている漆黒の磁気ネックレスだった。
サキは首を傾げる。蓮は磁気ネックレスを渡した訳を話す。
「そうだよ。柳さんてよく、仕事終わりに肩回してるじゃん。肩こり悩んでるのかなって。これなら実用的かなって思って」
「……なるほど」
サキは納得する。
プレゼントを見た時、疑問を上げたが、普段自分のことを見てくれていると知り、嬉しかった。
肩凝りに悩んでいたことは確かにその通りだった。嬉しさのあまり唇が震える。
それを悟られたくないので俯いてしまう。
「あの。どうかしたの?」
蓮は心配そうに声をかけた。
サキはこのままでは悟られてしまうと考え言葉を紡ぐ。
「……正直、氷室様のセンスを疑ってしまいます。異性に渡すプレゼントが磁気ネックレスって。ナンセンスも甚だしいです」
「……え?」
「肩こりに悩んでいるって……私の胸が大きいからそれが原因だと少し考えていませんでしたか?」
「そ……そんなことないよ」
「声少し裏返ってましたね。視線も泳ぎすぎです。全くどうしようもないくらい変態さんですね」
「えぇ……。な、なんかごめん。気に入らなかったのなら、別のもの今度渡すよ。ごめんね」
「気に入らないとは言っていません。大切に使わせていただきますよ。変なこと言わないでください」
「……はい?」
サキの一貫性のない言葉に蓮は失敗したなと考えプレゼントを返してもらおうと手を伸ばす。サキは大切に胸に抱える。
支離滅裂としている態度に蓮は戸惑うのだった。
「これはご主人様が、私のことを考え。贈ってくださった。それを大切にしないなどありえませんよ」
俯いでよくわからなかったサキの表情だが、蓮はなんとなく喜んでくれているのだけはわかった。
というより動揺していつものサキのペースではないことはわかった。
蓮はその姿に温かい笑みを浮かべる。
もう少しこの可愛いサキを眺めていたいと思うのだった。
サキもまた、今日一番胸が温かくなる。
「メイドさん。ハッピーバースデー」
「……はいご主人様」
「俺のこと氷室って呼ぶんじゃないの?ご主人様呼びに戻ってるよ?」
「氷室様こそメイドさん呼びになってますけど」
「……確かに」
呼び方が戻っていることだけ指摘をした。
2人ともお互いが考えている以上に緊張していたらしい。似た者同士だなと感じていて、目が合うと顔が赤いのを見合い、自然に笑が溢れた。
「また、明日ね」
「はい。また明日お伺いします」
プレゼントを渡し終えた2人は帰路に着く。蓮はサキを屋敷に送ると家に帰ったのだった。
「ふぅぅ」
解散したサキは大きく深呼吸をした。
屋敷は明かるい光に漏れていて、どこか安心感を持てる。
我が家に帰ってきて落ち着いたことでやっと気持ちの整理がついたのだ。
今日一日中胸は温かいままだった。蓮と一緒にいるだけで、言葉を交わすだけで……彼の優しさに触れるたびに胸がときめく1日だった。
流石のサキもこれは認めざるを得ないだろう。
「私は……蓮くんが好きなんですね」
改めて実感したサキ。
サキは蓮のことが好きだ。再会したときは最悪だったかもしれない。でも、彼の優しさに触れるたびに心が満たされていく。
今感じている気持ちは今まであった。でも、居た堪れたくなり、揶揄うという別のやり方で逃げていた。
今日一日過ごして、やっと素直になれ自覚した。
だが、今は気持ちに蓋をする。蓮は自分のことをどう思っているかわからないから。少なくともサキはこの関係を続けたいと思ったのだった。