これから一緒に暮らす事になる以上ぼくにはぼくの生活がある。
そこだけは何とか守りたいけどダートさんはそういう所気にしないで入りこんで来るんだろう。
「という事でだ、一緒に暮らす上で決めたいルールがあるっ!」
何故彼女がルールを決めるのだろう。
ここはぼくの家なのに、でも何となくそうなる気はしていた。
「ルールですか、例えばどういうのですか?」
「俺の家族は毎日一緒に飯を食うんだっ!だからこの家でも毎日一緒におめぇの飯を食うっ!」
思いの外普通で安心する。
けどそれだけなのか……他にも何かありそうな気がして警戒してしまう。
彼女は異世界から来てぼくと違う文化で生きて来た人だから生活や常識も違う筈だ。
今は問題無くても何処かしらで違いが出るかもしれない。
でもここはぼくの家なのだから、ぼくもルールを決めよう。
「えっと…、それはわかったのですが。ぼくからもいいですか?」
「おぅ、いいぜ?」
「この家は、ぼくの診療所も兼ねているので診療中は表に出ないように……「いや、それは無理だろ。俺はお前の護衛も依頼されてんだから一人にするわけねぇだろ」
上から被せるように正論を言われると何も言えなくなる。
真面目なのか不真面目どっちかにして欲しいけれど、こういう人なんだろう。
それならこうすればいい
「分かりました。それならぼくが雇った助手という事にするのでそれで良ければ診察中側にいいですよ。」
「ん?そんなんでいいのかよ……、それ位お父様……いやなんでもねぇ、親父の元で同じような事してたからそれで構わねぇよ。決まりだな」
笑顔で八重歯を見せながらにししと笑う彼女を見て困惑してしまう。
「えっ?」
「あっ?んだよ?」
断られると思っていたから思わず言葉が出てしまう。
しかしお父様か……、もしかして元の世界では良家の出自なのかもしれない。
食事の件もだけどこちらに来る前は暖かい家庭にいたのだろうか、そう思うと師匠がやった事に心が痛む。
「あぁいえ、断られると思ってたので……」
「にししっ…そりゃあ残念だったな」
それにしても本当に良く笑う人だ。
それにこの感じだとこちらがどんな条件を出しても変な内容でなければ気持ち良く笑って許してくれそうに感じてしまうから、そういう時はぼくが折れるべきだと思う。
「それ以外はぼくから言う事は無いです。ありがとうございます。」
「お?もういいのか?」
「えぇ、ぼくは大丈夫です。」
「そっか……、つまらねぇな」
一体何がつまらないのか突っ込んではいけない気がする。
後はもういいだろうし、夕飯は……ちょっと早いけどさっき食べたから良いだろう。
そういえば大事な事を聞き忘れていた。
「後は一緒に暮らすのは良いのですが。この家にはベッドは一つしかないので……」
「あっ?そりゃ一人で暮らしんならそんなもんだろ?」
「いやそういうの言いたいわけじゃなくてですね…ダートさんが使っていいですよ。ぼくは診察室のソファーで寝るので」
診察室には簡易ベッドがあるけれどあれは患者が使うもので、清潔を保っておきたいから使うわけにはいかない。
だからぼくはソファーで我慢しよう。
「んなもんお前が使えよ、俺は一日位なら床でも寝れるし家具は後で揃えればいいだろ?」
「あぁ、いえ流石に女の子を床で寝かせるわけには……」
「だからぁっ!俺が良いって言ってんだから好きにさせろや!」
……こうなってしまったらダメな気がするし彼女の言う通りにした方が良さそう。
それに家には空き部屋が少しあるしそこを彼女に使って貰えばいい。
それに明日になったら村にある雑貨屋に行って色々と買い揃えよう。
あそこなら日用品然り色々とあるし大抵の物は揃うはずだ。
「って事で俺はもう寝んぞ!飯も食ったしねみぃんだわ」
「あ…えぇ、わかりました」
そう言うと彼女は空間収納から毛布を取り出すとその場で横になって横になる。
ここでそのまま寝るという事なのだろうけど、リビングで寝始めるとは思わなかった。
「って事でおやすみっ!朝まで起こすんじゃねぇぞ!」
「えぇ、おやすみなさい」
……そういうと彼女は寝息を立て始める。
本当に賑やかな人で、良く笑い表情がころころと変わる人だ。
取り合えずぼくは今日取った薬草類の下処理をしてから今日は寝よう。
明日からは今までと違う生活をする以上早めに寝て体力を回復させた方がいい。
そう思い、ダートさんを起こさないように注意しながら作業を終わらせ明日に備えて寝るのだった。
早くこの非日常になれてしまおう。