異形のアンデッドの腕とケイの大剣がぶつかる金属音とダートの空間魔術を使った障壁で残り3本の腕の攻撃を防ぐ音が静かな森に響き渡る。
攻撃の隙をついてアキの魔術で作られた矢が突き刺さるが動きが鈍る事無く強靭な4つの腕が暴力の嵐を起こし一撃必殺の凶器が降り注ぐ。
「んー、これはうちが入ったら足手まといやね……」
「でもこのままだと何れぼく達が負けるだけじゃ」
「という事なので、先程レースが使った短剣を回収しといたんよ……これを今からあの
アンデッドに刺してくるから後は頼むわ」
コルクはそういうと短剣を構えて走り出すと水の魔術で分身を作り出し二手に分かれると、異形のアンデッドに向かって飛び掛かる
しかし左右の頭の内の片方がコルクの方を見ると左右の2本の腕でそれぞれを捕えて宙に浮かべて締め上げて行く。
「あぁぁぁっ!こんのぉっ!」
コルクが絶叫をしながら短剣を投げて相手の胸に突き刺すとぼくに向かって早くやれと目線で合図を送る。
それに答えるように治癒術を使い強引に接がれた腕を内側から切り落とし捕らわれたコルクを解放した。
異形のアンデッドはそれでも彼女を再び捕えようとするけど、大剣と二人の魔術がそれを妨害して逃げる隙を作り後退する時間を稼ぐ
「っ……カハッっ!……ごめん皆うちは戦えそうにないわ」
「お父さんっ!お母さんっ!……どうして皆ぼく達に酷い事をするのっ!?」
今迄異形のアンデッドの裏に居て、一言も話す事の無かった死人使いの少年が声を荒げてぼく等の事を睨みつける。
その眼に映る憎悪の色が相手を傷つける為の悪意ではなく大切な家族を守る為の色をしていて困惑をしてしまう。
「父さん母さんってこれってまさか……死人使いの親御さんっすか!?でもそんな切り札があるなんて聞いてないっすよ!」
「……ルード・フェレスは死霊術を使う魔術師としては有名ですが……それ以上の事は特に無かった筈です」
「よくもっ!よくもぉっ!」
怒りで我を失っているのだろう……、異形のアンデッドの動きがそんな彼を守るかのように死人使いの前に立ち両腕を左右に伸ばして彼を体全体で守るように覆い隠す。
けど治癒術は身体を治せるという事はそれと同じ位に身体を壊す事に適正がある。
それがアンデッドという既に生命を無くした肉体なら抵抗も無く術を通す事が出来るから彼等を効率良く倒すのはぼく達の領分だ……ぼくは戦うのが苦手だから例外だけど……
「えっ?お父さん……お母さん?」
「うわぁっ……これがあるから戦場で治癒術師に会いたくないんすよ……生者死者問わずに人の形をしてるならこれっすもんねぇ……」
目の前で継ぎ接ぎだらけの異形なアンデッドの接合部分が全て切り離されただの屍へと戻って行く。
それを見た死人使いが漆黒の瞳を虚ろにして立ち竦んでしまう。
「これで戦うの苦手言われても説得力ないと思わん?ダーもそう思うやろ?」
「えっと……強くてかっこいいと思うよ?」
「あんた……自分の思いを自覚出来るように色々と話したんはうちやけど盲目過ぎやろ……」
「何でそんな事言うの?……コーちゃんの意地悪っ!」
自覚ってまだ戦いが続いているのに何の話をしているのだろうか……、ぼくが見て来た冒険者は皆戦いに関して緊張感が無い人が多い。
師匠曰く、冒険者は迷宮の探索や戦いが日常となってしまっているから危ない場所ほど素面になるとは言うけど素人のぼくからしたらちゃんとしてくれないと怖くなる。
「……あのまだ戦い中なんすから雰囲気壊すの止めて欲しいんっすけどね……って事でアキ先輩俺もう限界なんで止めの方お願いしますよ」
「えぇっ任されました」
「あの止めを刺す前に待ってもらっていいかな」
ケイが全身の力を抜いて地面に倒れて寝息を上げ始める。
それと同時に弓を構えたアキを咄嗟に死人使いに止めを刺す事を止めてしまう。
どうして彼がこうなったのかを知らずに生命を終わらせてしまうのは違う気がしたから……
「レースさん、止めるという事は何か理由があるのですか?」
「彼の事について聞いて貰いたい事があるんだ……」
さっきの少年の眼を見て感じた感情の違和感を伝える。
何故彼が大事な家族に対する思いを爆発させたのか……討伐命令が出る程の犯罪者であるならそんな感情を抱かないと思うんだ……。
それを聞いたアキは何かを考えるような仕草をしてから弓を構えると死人使いの方を射抜く、死人使いは悲鳴を上げて肩を押さえて蹲ると血を流して動かなくなった。
「アキさんっ!どうしてっ!?」
「いいですか?レースさん、これは仕事であってルード・フェレスが何を考えているのか何を思っているのかは関係無いのです……私とケイは死人使いを討伐する為に居ます……その意味を理解してくれますか?」
「……つまりどうしてもこんな幼い少年を殺す意思を変えないと?」
仕事なのはわかっているけど、どうしてここまで小さい子供を容赦なく殺す事が出来るのか。
栄花騎士団だか何だか知らないけどぼくは彼等の事が嫌いになりそうだ……。
「えぇ……それが私達の仕事なので……でもまぁ、私達も正直言いますと子供が死ぬのを見たくないので小細工をさせて頂きました」
「小細工?アキさんあんた何したん?」
「この栄花に行く情報は一定量の血液を失い生命反応が微弱になると死んだ事と同じ扱いになり、このように情報が消去されます」
そういうと端末をぼく達に見せて、【死人使い:ルード・フェレス 死亡】と情報が更新されたのを見せてくれた。
つまり……冒険中に死亡したと近い状態になると生存が絶望的と判断されて死んだ事になるという事なのかもしれない……。
「レース……あの子を助けてあげる事って出来る?」
「出来る限りの事はやってみるよ」
死人使いに近づくと彼に触れて治癒術で傷を塞ぎながら状態を確認する。
このままだと出血性ショックを起こしてしまい命を落とす危険性がある……、幸い傷は塞がっているからこれ以上血液を失う事はないけど、血を失い過ぎている以上輸血をしなければ危ない。
彼の胸に手を当てると、ぼくの魔力の波長を彼に合わせて血液に変換して行き失った血液を補充していく……徐々に顔色が良くなって行き容態が落ち着いて来た。
それを見たぼくは、大量の魔力を使ったせいもあり眩暈がしてその場に座り込む。
「私達は最高幹部の中でも穏健派と呼ばれる派閥の人間なので、皆が私やケイみたいだと思わない方が良いですよ?……特にお兄ちゃん……いぇハスって言う男は感情的ですからね……」
「へぇ、アキさんってお兄さんおるんやねぇ」
「……今はそんな事どうでもいいじゃないですか、それよりもコルクさんこの子にこの魔封じの魔導具を付けて先にレースさんの診療所に行って待ってて貰えますか?」
「ん?うちが?それなら空間跳躍が使えるダーの方がええやろ……道中が危険だから家に帰したって言えばええ」
確かにそれなら話の筋が通っていると思うから疑われる事はないだろう。
アキはまた何かを考えるような仕草をした後に、寝息を立てているケイを見て呆れた顔をしてから死人使いに腕輪の形をした魔導具をはめる。
「確かに……それなら人と遭遇する事も無いと思いますし……お願い出来ますか?」
「えっえぇ…分かりました……。コーちゃん、レースまた後でね?」
ダートはそういうと魔力を指に灯して空間を切り開くと、その中をもう一度切り開きここと診療所を繋ぎ合わせその中を死人使いを背中に背負い通って帰って行く。
……彼女に暗示の魔術を使わせずに済んだ事への達成感と、戦闘が終わり緊張が解けた体を休める為に姿勢を正して落ち着いていると、肩をコルクに叩かれる。
「あんな?レース……疲れてる所悪いんやけどな?あのアンデッドに掴まれた時に腕の骨やられて泣きたい位痛いんよ……継いでくれへん?」
「あっ、それならケイの事もお願いします。歩ける程度で結構なので」
……ぼくも結構魔力を使ったから辛いんだけどな……と思いつつ治癒術を使って二人を治して行く。
コルクは骨が綺麗な折れ方をしているけど、ケイは所々が複雑な折れ方をしている為暫く安静にした方が良いだろう……ケイの場合は完全に治そうとすると骨が歪に繋がってしまう可能性があり危険だ。
そんな事を思いながら休みながら治癒を行ない…終わった頃には日が暮れ始めており引き上げる時間になっていたのだった。