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第24話 雪の魔術

 コルクが盗み聞きしてたって言うのは別に疚しい事をしていなかったから良いけど、問題はダートの方だろう。

今のは違くてと何か凄い言い訳みたいな事を言い続けているけど、正直ぼくには分からない範囲の話だから下手に口を挟まずに落ち着いたタイミングで会話に入ろうかな……


「だからね?カルディアさんに紹介したいっていうのは、そういう意味が……無いわけじゃないけど違うのっ!」

「おぉ?何が違うん?お姉さんが聞いたげるから全部言うてみ?」

「あのね……レースの前だと言いづらいから後でいい?」

「……ん?それならぼくはダートに作って貰ったのを見て試したい事があるから離れるよ」


 そういうとぼくは彼女の部屋から出る事にした。

魔術の練習をするなら外に出た方が良いと思って玄関に向かうけど、ダートの部屋の方でドアが閉まる音がする。

大事な話があるみたいだからぼくなりに気を使ったのに何をしているのか気になるけど後で本人が話したいなら伝えてくれるだろう。


「外に出てみたは良いけど、どうすれば魔術を使えるようになるのかな」


 治癒術を専門にして来たから、ぼく一人だったら魔術を使えるようになるには師匠の元に帰るしか方法が無かっただろうけど、ダートが近くに居てくれて彼女のおかげで新しく戦う為の力を得る事が出来ると思うと嬉しく感じる。

師匠に治癒術を教わっていた時も楽しかったけど嬉しいという事は無かった……知らない事を知る楽しさはあったけどそれは自分の為だったし……、それと違って大切な人を守る為の力を得てそれを彼女から教わる事が出来たというのが理由だと思う。

……自分で言うのもあれだけどぼくは単純な思考をしているのかもしれない。


「ダートから貰った紙には雪が出来る原理が書いてあるけど……これを魔術にするには?」


 雪は氷の粒がくっつきあって集まり出来る物で、空から気温が低い時に降る物が雪と言われるとあるけど……それなら水属性の派生系なのではと思う。

確か定期的に届く師匠の手紙に……基本六属性の後に派生属性が新たに追加される事になったとかでその一つに氷属性と言う物があった筈だ。

この場合、雪と氷は原理が同じ筈だけどどうして分けられているのだろうか……とはいえ闇属性の一部が基本属性からの派生属性に言う物に変わったという事は原理が解明されたという事はいずれ雪もそうなるのかな。


「えっと……雪は水蒸気から生まれる氷の結晶が集まった物で、雪の内部にある水分の量で決まり、サラサラした粉のような雪から、水分を多く含んだ重い雪があると……、それなら何故雪が地面に降るとあんなに滑るのだろう」


 このぼくが思いついた疑問もこの国の魔術師達なら当然思いついているだろうし、既に色々と研究されている筈だ。

だけど何故か未だに解明されていないのは何故だろうか。

もしかして……水蒸気と言う事は熱を意味するから火属性の分類だ……それを水属性の派生である氷属性で冷やして雪にするという事はこの属性に2つの要素があるという事なのかな……


「でも……それならどうやって水蒸気を運んで水分を固めて雪にするんだろう。……いや?確か寒い時は上から冷たい大気が落ちて来るからってあったような、つまり大気中の水蒸気と言う熱を上空の詰めたい空気に触れさせる事で凍らせて育てている?……それだとあの空にある雲の中では魔術で言う所の火と水に風属性と3属性の魔力で形成されている?」


 もしそうなら雪と言う物が仮に雪属性として新たにカテゴリー分けする場合派生属性では無く混合属性と言う物になるのではないかと思うけど、仮にぼくの考えが合っている場合非常に難しい原理で構成されているのが分かる。

ただ何となく闇属性として扱われている理由も想像が出来てしまう。

それにぼくがある程度の原理を理解出来るのはその雪を属性として扱う事が出来るからで、そもそも雪を魔術として扱える術者が稀なのもあってこの魔術が闇として扱われているという事なのかもしれない。


「とりあえずイメージが出来たから使って見ようか」


 頭の中で雪が出来るイメージをして魔術としての形にする。

その結果ぼくの頭上から粉のような雪と水分を多く含んだ雪の2種類の雪が降りだした。

これ位なら以前から出来たけど、これを更にぼくの特性に合わせて固定するとどうなるのだろう……。

初級魔術なら特性が分かりやすいと言っていたけど、中級や上級だと分かりやすいとは言っていない。

つまり中級以上を使う場合は、魔術以外にも意識を特性にも向けないといけないのかも?


「もしそうなら、雪はこうやって降らせる事が簡単に出来るけど固定化されない……つまりこの魔術は中級以上の力があってそこに固定を乗せるなら?……物質が空中に固定されて静止するイメージをすれば……あっ!」


 降り続ける雪をぼくの前に固定されるイメージをした瞬間に身体から大量の魔力を放出する感覚に襲われて眩暈を感じ思わず片膝をつく。

どうやら魔力を使い過ぎてしまったようだ。


「……これは雪ですか、珍しい魔術を使うのですね」

「アキさん……」


 声が聞こえて顔を上げると目の前に、驚いた顔をしたアキがいる。

確かに珍しいとは思うけど、栄花でも使う人が少ないのだろうか……


「それにしても魔力を外に放出するのが苦手な人が多い治癒術師でもあるあなたが何故魔術を?」

「戦える力が欲しくて、魔術をダートに教わったんだ……二度と彼女を傷つけないように力を付けようと思って」

「そう……ですか、それは良い心掛けですね。それにどうやら魔力の放出も問題無くできてるようですし、それなら私の先輩で氷の魔術を扱う刀使いの男性がいるので暇な時にこちらに顔を出すように連絡を入れておきます」


 どうしてアキはぼくにそこまでしてくれるのだろう。

出会って間もない人に手をかしたりする必要はない筈だし、そこまで彼女の信頼を得た記憶はない。


「……そんな疑った顔をしないでください、ただ交際相手の女性を必死に守ろうとするあなたの姿を見て力になりたいと思っただけです。……それに私の兄に昔言われたのですよ誰かの為に強くなりたいと願う人に悪人はいないから力になってやれと、つまりダートさん、あなたは私が力になりたいと思った相手です」

「あ、ありがとう……、でも訂正するようで悪いんだけどぼくは彼女と付き合ってないよ」

「またまた御冗談をあの距離感でそれは無いでしょう?あるとしたらそれは……あぁ私の配慮不足でした。レースさんは【叡智】カルディアのお弟子さんですから何やら事情があってもおかしくない……謝罪致します」


 アキが急に頭を下げて謝り始めるけど、そんな理由ではない。

ただ彼女は異世界人でぼくはこの世界の人だ。

何れダートが元に世界に帰れるようになった時、あちら側に帰ってしまうだろう。

周りに何を言われても交際し結ばれる事は無いんだ。


「あ、いえ……そういえばケイさんは?コルクから二人で来ると聞いたんだけど」

「あぁそれでしたら別行動をしています。ケイの性格的に落ち着いた会話は難しいですし、それなら昨日開拓作業を行った場所を調べて貰いその足で隣国の【マーシェンス】に潜入して貰った方が良いと判断しました……あんなうるさい人ですけど何故か潜入は得意なんですよ」

「……分かりましたけど、腕の方は治さないで良かったの?」

「それなら魔導具で作られた義手をあちらの国で作って貰うそうなので問題ないと思います」


 魔導具と機械の国で新たな腕を作るならぼくが禁忌と言われた治癒術を使う必要は無いか……。

あそこなら開発されたばかりの最新技術もあるだろうし魔力と体内の電流を感知して動く魔導具の義手も高性能な物がある筈だ……。


「このまま立ち話も良いのですが……そろそろレースさん達の家で死人使いルード・フェレスに関するお話しを聞きたいので入ってもよろしいですか?」

「それならリビングで待ってて貰っていいかな、家の中にダートとコルクがいるから呼んで来るよ」

「えぇ、ならお言葉通り待たせて貰います」


……アキはそういうとぼくと共に家の中に入りリビングの椅子に座り本を読み始める。

彼女を待たせ過ぎるのは良くないから急いで呼んだ方がいいと思ったけど大事な話をあっちもしているならドアをノックして来客が来たことを知らせた方がいいだろう。

そう思い扉の前に立ち軽く叩こうとすると『さっきも伝えた通り私は世界の人間じゃない……それを受け入れてくれたコルクの気持ちは嬉しいけど、レースに知られるのは怖いの嫌われちゃいそうで……』『そんな事無いから安心しぃ?それにそうなってもうちはあんたの味方だから大丈夫やで』……と言う声が聞こえて途中で手が止まる。

出来ればその秘密を一番最初に聞くのはぼくが良かったと思ってしまい胸が痛んでコルクに対して嫉妬の気持ちを抱いてしまう。

――あぁ、どうして自覚してしまったのだろうか……自身の心の醜さが嫌になりそうだ。


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