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第10話 戦闘指南

 治癒術師の象徴とも言える長杖とコルクに貰った短剣を手にアキラさんの元へ戻ると彼はぼくの事を見てから氷の魔術を使い同じ形をした氷の杖と短剣を作り出して何度か振り出す。

そして暫くして何かに納得したのか小さく頷いた後口を開いた。


「長杖とは治癒術師らしい武器だが……その短剣は何だ?」

「短剣は護身用として使ってます」


 ルードとの戦闘で役に立ったのも理由ではあるけど、近接戦闘が苦手なぼくには必要だと思う。

正直長杖を武器として扱う事が出来れば短剣を使わなくても良いのにと思うし他の治癒術師のように長杖を振れば棒術になり突けば槍術に変わる変幻自在の獲物に出来ない時点で近接戦闘に向いてないのは自分で分かっている。


「……貴様の動きだと短剣を持ったとしても扱い切れずに自分の身を傷つけるだけだから止めておけ、扱えない武器を持つ事程危険な事は無い」


 不安はあるけど言われた以上は守った方がいいだろう。

ぼくは短剣を邪魔にならないように一旦家に戻って置いてくると再びアキラさんの元へ戻った。


「準備は出来たようだな……、では試しに長杖を武器として扱って見ろ」

「……わかりました」


 ぼくが出来る範囲で横に振ったり突いてみるけれど、上手くできているのか分からなくて不安になる。

アキラさんは動きを見て何かを考えているのか、先程から一言も発する事無く動きを見続けているし本当にこれで良いのだろうか。


「成程大体の事はわかった。突きの動作は人並み以上だと感じたが……正直に言うと貴様に武器を扱う才能は無い、例え鍛えたとしても達人には成れないだろう」

「そう……ですか」


 自分で自覚していたとはいえ他の人から直接言われるというのは心に来るものがあってかなり辛い物がある。

それでもぼくは強くなりたいんだ……ダートを守れる位に、例え達人になれなかったとしても彼女を守れる力を身につける事が出来るならそれでいい。


「そんな顔をするな……強くなる事に捕らわれると目的を忘れるぞ。」

「ならどうすればいいんですか?」

「武器を扱う才能が無いのなら道具としての使い方を極めればいい」

「道具としての……?」

「例えば杖と言う物は魔術の威力上昇や治癒術の効果を上げる効果があるのだが……そうだな、魔力の動きを補助してくれる道具だと思えばいい。試しに肉体強化の循環する流れをイメージしてみろ、あれも魔力を使う以上は補助してくれる筈だ」


 言われた通り身体に魔力を循環させて、肉体を強化していくイメージをすると一瞬にして体全体が軽くなり羽が生えたかのような感覚を覚える。

確か肉体強化の効果はその人の生まれ持った資質によって違うらしいけどぼくの資質はどっちなのだろうか……


「なるほど貴様は戦士型か、私と同じタイプなら教えやすくて助かる」

「……この後はどうすればいいですか?」

「そうだな、最初はこれだけ出来れば上出来だから肉体強化を解いて良い」

「わかりました」


 ぼくは言われた通りに肉体強化を解除するとアキラさんが氷で作った長杖を構える。


「今からレース、貴様が将来出来るようになるだろう技を見せてやろう」

「……技ですか?」


 アキラさんはそういうと長杖の先端に氷の魔術で槍の穂先を作り出して踏み込みと同時に勢いよく突き出す動作をしたと思ったら、その動きを何度も繰り返してどんどん加速させていく。


「貴様は先程言った通り突きの動作は人並み以上だ。……今は武器を扱う事に関する適正は無いが、肉体強化を使い続けて体を鍛えて行けば徐々に武器を扱うのに必要な身体が出来て行くだろう」

「……なんだか難しそうですけどやってみます」

「焦らずやり続ければ問題は無い……、それにだ私が教えている以上は必ず強くしてやる」


 アキラさんはそういうと氷の長杖を魔力に戻して空気中に霧散させると、懐から紙を取り出して何かを書き始める。


「とりあえず貴様が今現在やるべき課題はこの紙に書いておいたから、毎日しっかりとやるように」

「アキラさん、ありがとうございます」


 紙に眼を通すと魔術指導の時に教わった事を更に分かりやすくまとめてあって、ぼくがこれからどういう練習をすればいいのかのスケジュールを書いてくれている。

戦闘指南の方は、肉体強化を使って突きの素振りを練習するように書いてあるから両方頑張ってみよう。


「では今日はここまでだ次の魔術指導と戦闘指南は一週間後に行う、それまでしっかりと練習しておくようにな」

「はいっ!」


……アキラさんはそういうと氷で作ったかまくらの中へと戻って行った。

暫くして『やはり、ここは寒いな……』という声が聞こえて思わず吹き出してしまう。

これは夜寝る時だけでも良いから診療所のベッドを貸してあげた方が良いかもしれない、先生になってくれる人は凍えさせるわけには行かないから食事などにも誘ってみようかな。

ぼくはそんな事を思いながら、ダートが帰って来る事を待つ事にした。


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