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第14話 勝負の行方

 ぼくの眼でも辛うじて追う事が出来るけど正直言って異次元の戦いが繰り広げられている。

2カ月前に【死人使い】ルードと戦った時も栄花騎士団の最高幹部が二人いたけどここまでの戦いをしていた記憶はない。


「ダート、君にはこの戦いがちゃんと見えてる?」

「勿論見えてるよ?……それがどうしたの?」

「どうしたっていうかさ、ケイやアキと一緒に戦った時はこんな凄い戦いが起きてるとは思わなかったんだけど……ぼくの記憶違いかなって」

「あの時は多分、私達に動きを二人が合わせてくれていたんだと思う」


 そう言われると確かに納得してしまう、それ程までに目の前で起きている戦闘のレベルが高い。

距離を詰めて炎の槍を突き出すジラルドの攻撃を体を半歩ずらす事で躱し、死角から短剣で切りかかるコルクを魔術で地面から氷の柱を出現させて牽制しつつクロウの両腕から繰り出される剛腕の一撃を刀で受けて受け流している。

しかも個人的に凄いと思うのは、氷属性と相性が悪い火属性相手なのに慌てる事無く落ち着いて対処しているという事だ。


「あぁっ!あの時は当たったのに今回は攻撃が中々当たらねぇっ!」

「以前は当たっても問題無い威力だったが、ここまで火力を上げられたら当たったら怪我だけではすまないからな」

「それって、昇格試験の時は手を抜いていたって事かよ!」

「たかが試験で心器を使う必要があると思っているのか?切り札と言う物は必要な時に使うからこそ意味があるものだ……。そういう意味では数年で私に最初から使わせる程にまで練度を上げて来た事に驚かされているがな」


 アキラさんはそう言うとジラルドの周りを氷の壁で一瞬にして覆うと上から勢いよく水属性の魔術を流しこんで行く。

炎で氷を溶かされてしまう前に水属性の魔術で炎を消して無力化してしまえばいいって事か……、考えは単純だと思うけどそれ故に通ると強い気がする。

ただクロウが拳で氷の壁を殴って壊してしまうから折角ジラルドを無力化しようとしても意味がない。


「……小賢しい事をする」

「だそうだぞジラルド、俺達はどうやら彼が思っていた以上に成長していたらしい」

「あぁ、嬉しいったらありゃしないぜ!」


 ジラルドが再び槍を構えると同時に、アキラさんの前方にコルクが現れて短剣で斬り付けるけど刀で防がれると同時に身体を一瞬にして凍結させられてしまい動けなくなってしまう。

その防御した隙を狙い飛び掛かったジラルドが炎の槍で薙ぎ払うけど後ろに下がって避けられてしまい後一歩の所で届かない……と思った瞬間に凍結されたコルクの姿が水に変わり地面に落ちると同時にアキラさんの肩に短剣が深く刺さりよろめく、その隙を逃さないと言うように接近したクロウが獣人の能力を使い、両腕を狼の腕に変えて鋭い爪を光らせながら何度も殴り付ける。

……流石にこれは勝負が合ったのかもしれないと思っていると、殴られている筈のアキラさんの姿がどんどん薄くなって行き氷像へと変わって行き粉々に粉砕されてしまった。


「とはいえ、貴様ら二人なら然程苦戦はしなかっただろう……、三人揃ってやっと私に届いていると言っていい」


 ぼくの眼には一瞬で移動したようにしか見えなかったけど、ジラルドの後ろに現れたと思うと刀で彼の事を深く切り裂いていた。

あの斬られ方だと出血が激しくなり早く処置をしなければ大量の血液を失い出血性ショックを起こしてしまい死んでしまうかもしれない。

そう思い焦ったけど斬られた部分は氷で塞がっていて出血をしていない……どうやら気を使ってくれたようだ。


「これで貴様は無力化出来たな……だが私の奥の手を使わせたのは褒めてやろう」

「その割には余裕じゃねぇかよ……」

「顔に中々出辛い性分でな……これは貴様等が頑張った褒美だ、特別に私のもう一つの切り札を見せてやろう」


 アキラさんはそういうと刀を地面に突き刺して何かを唱え始める。

彼クラスの実力者になると魔術は無詠唱が多い筈なのに……いったい何をするのだろうか。

詠唱が進むと同時に彼の足元から広範囲に氷の結晶を象った魔法陣が現れ青白い輝きを放ちながら周囲の気温を恐ろしい速度で下げていく。


【――死よりも静謐な氷の安息の元に眠れ、アイスレクイエム】


 術名を唱えると、魔法陣から氷の棘が無数に飛び出して立体的な氷の結晶を作り上げていく。

その姿は美しい氷の芸術のようで見ている者を魅了すると同時に触れた者をその中に閉じ込めて生命活動すら凍結させてしまうだろう。

そんな言い知れぬ恐怖を感じる中、ジラルド達がどうなったのかを見ると三人の周囲を避けるように魔術が展開されていて当たらないようにされているのが目についた。

でも……これが本当の殺し合いだったらどうなったのだろうかと思うと恐ろしくなる。


「ダート……これって実戦だったらどうなってたと思う?」

「間違いなく全員死んでたかな……圧倒的な実力差ね」


 ダートから見てそう感じるなら余程実力の差が開いていたんだと思う。

ぼくから見ると4人とも凄い強いとしか思わえないのが悔しい、強くなれば同じ目線になれるのだろうか。


「確か貴様等が勝ったら心器の使い方を知りたいだったか……後一歩の所で惜しかったな」

「嘘つけぇ!ぴんぴんしてるじゃねぇか!」

「あの奥の手は致命傷を受けた時にダメージを氷像に移して自身は安全な場所へと転移する魔術だ……つまり私の命に届いたという事だ」

「へぇっ、それなら実質的にはうちらが勝ったんやないの?」

「俺もそう思うのだが違うのか?」


 コルクとクロウは二人でアキラさんに詰め寄るけど、それに対して何かを考えているような顔をして暫くした後に口を開いた。


「確かにこれが殺し合いなら私の勝ちだが……これはそうではない模擬戦で命のやり取りではない」

「と言う事は?」

「私の命に届いた時点でこちらの負けだな……認めよう。私の負けだ」

「……まじで!?」

「あぁ、貴様等にも心器を教えてやる」


……アキラさんがそういうと三人は笑顔を作り【やったぁ!】と大声で手を叩き合って賞賛を声を上げた。

あんなに実力差があったのに皆で協力して勝利を収める事が出来たのを見ると仲間って凄いんだなと思わせてくれる。

ぼくも強くなったらダートを守れる仲間になれるだろうか……、そんな事を思いながら彼等の勝利を眺めていた。


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