――ぼくは彼等の顔を見て暫く黙った後に、ゆっくりと聞きたいと思っている事を言葉にする。
「二人に聞きたい事があるんだけどいいかな……」
とは言え勇気を出して聞いてみる事にしたけど答えを出してくれるのだろうか。
そんな疑問がぼくの中にはあって、聞いたとしてもそんな事位自分で考えろと言われたら終わりだ。
ジラルドやアキラさんがそんな事をするような人だとは思わないけど……
「俺達に答えられる事なら何でも来いよっ!……で?何が聞きたいんだ?」
「えっと……、ダートが本当にぼくの事を好きだったとしたらこれから先彼女にどうやって接すればいいのかな」
「そんなの簡単だろう……レース、貴様は貴様らしくありのままの自分を見せてやれば良い下手に意識する必要も無いのだからな」
「まぁ、そりゃそうだな……それに好きな女の前で意識して変にかっこつけても相手からしたら直ぐにバレるし仮にバレなかったとしても男の方がボロを出してかっこ悪くなんだから堂々としてりゃいいんだよ……まぁそれが難しいんだけどなぁ、好きな奴の前だとついつい良い所見せようとしちまうしさ」
「まぁ……そこに悪い見本がいるからな見て学べば良い」
悪い見本って言われても、ぼくからしたら二人は充分尊敬に値する人だと思う。
こうやって聞いているだけでも学ばせて貰えるし色々と感じる事がある。
「悪い見本って……ならアキラはどうなんだよ。嫁さんの前でかっこつけたりしないのか?」
「私の場合はかっこつける理由何てものは無いからな、人付き合いが苦手なのもあるのもあるが……言葉で喋るよりも心の中で喋っている事が多いタイプだ。まぁそれ故に人と会話をする時に相手に伝えた気になってしまい失敗する時もあるが……その時はしっかりと相手に謝罪をすればいい。それにだ、私のその短所を一緒に居て補ってくれるパートナーがいるから頼れるところは頼るし、相手が頼ってくれるなら出来る限りの事は精一杯にやる……それだけだ」
「いや……、自分で悪いと思ってる所あるなら直す努力位しろよ」
「努力をしようとは思わないな、自分で理解しているからとはいえ必ずしも直す必要があるとは限らん、こういうのは私が親交を深めたいと感じる相手に指摘された時だけ気を付ければいい……それにだ、無理して直そうとすると自分自身を歪めて苦しむだけだからな」
「……えっと、つまり二人は何が言いたいの?」
二人の会話がぼくの聞いた事から離れて言っている気がして心配になる。
言い合うのは別に構わないんだけどそういうのは後にして欲しい。
「おっと悪い、つまりだレースは自分の気持ちばかりで相手の事をちゃんと見ていない所は直した方が良いと思うし分からない所は今みたいに幾らでも聞くようにしたら良いんだ」
「この男と話していると調子が狂うな……、レース貴様は指摘をされてどう思ったか答えてみろ」
「言われた時はショックを受けたけど……言われた以上は直したいって思ったかな、それでダートの気持ちを今よりも理解が出来るならしっかりと直したい」
「そうか、なら私達に言われた事を忘れるな……、後これは一度しか言わないから覚えておけ、自分が今どうしたいのか、貴様がダートとこれから先どうなりたいのか、そしてその先にお前がどうありたいのかを考えてみろ……そうすれば貴様なりの答えが出せる筈だ」
ぼくがどうしたいのか……、それはダートと一緒に居たい。
彼女とどうなりたいのか、それは勇気が出たら結果は分からないけど気持ちを伝えて先に行きたいと思う。
その先にどうありたいのかと聞かれたら、ダートを守れる位に強くなりたい……これがぼくの答えだろうか。
「……顔つきが変わったが、答えを早く出し過ぎではないか?」
「何言ってんだよアキラ、若い奴はそんくらいでいいんだよ。俺達みたいに歳を取ると感情が動きづらくなるだろ?だからレースが出した答えを尊重してやろうぜ」
「歳をって私はまだ……、まぁ良いそんなところだ試しに自分で出した答えを言って見ろ」
「ぼくは、ダートの事が好きだしこれから先も一緒に居たいから彼女を守る為の力が欲しい……、本来のダートは戦う事に向いてない人だし今迄は自身に暗示をかけて性格を変えて無理して冒険者をして来たんだ。そんな無理をさせたくないし、せめてぼくやコルクの前でだけは彼女が彼女らしく自然体で居て欲しいと思う……だからぼくはその彼女とその環境を守る為の戦う力が欲しい、ダートがこれ以上無理して戦ったりしないようにっ!だから強くなりたいんだっ!」
口を開いたら言葉が止まらない、ぼくはここまで自分の気持ちを口にする人間だっただろうか。
頭の中は冷静なのに気持ちや言葉が溢れてしまう。
いったいぼくはどうしてしまったのだろう……、ぼくがそう思っているとジラルドがぼくの肩を軽く叩いて笑顔で話しかける。
「レース、お前ちゃんと自分の気持ちを口にして言えたじゃんそれでいいんだよ。その気持ち伝わったぜ?俺は応援するから何かあったらいつでも頼ってくれよな」
「貴様の意志や覚悟は今ので理解出来た。その気持ちがあるのなら、心器を使えるようになったとしても折れる事は無いだろう……、現状に立ち向かい、今の自分と戦う意志や覚悟がある者を私は決して見捨てたりはしない」
「……何で二人はぼくにここまでしてくれるんですか?」
二人がどうしてそこまでぼくを気遣ってくれるのかが分からない。
彼等からしたら他人だろうに……
「そりゃ、年下を導くのが人生の先輩ってもんだろ?俺も昔やらかしては先輩冒険者に色々と助けて貰ったから当時して貰った事を真似してやってる自己満足だよ」
「私の場合はそうだな……レースを見ていると嫁に合う前の私を見ているようで気が気でないのがあるのもそうだが、貴様の事は嫌いではない。それにだ、これから先も魔術の指導や戦闘指南をしていく以上はお互いの関係は良好に保った方がいいだろう?」
「結局の所……二人がやりたいからやってるだけな気がするんだけど?」
「別にいいだろ?それにそれが俺達冒険者ってもんだ、いつ死ぬか分からない仕事をしている以上は俺は自分が後でこうすれば良かったって言う後悔をする生き方はしたくないからな」
「私はやりたいだけだがな……、ところで直ぐに戻ると言っておきながら大分話し込んでしまっているがいいのか?」
確かに大分時間が立ってしまっている。
もしかしたらダートが心配しているかもしれないから早く彼女の元に帰ってあげないと……
「やっべ……、でもあっちにはミントとクロウがいるから大丈夫じゃないか?」
「……あの男なら私達がここに向かうと同時に依頼書のような物を持って一人で町に戻って行ったぞ?」
「まじかよっ!依頼何て聞いて無いぞ!?……戻ってきたら詳しくあいつに聞かないとな……、取り合えずそういう事なら早く戻らないとな」
……ジラルドとぼくが急いでかまくらを出ようとすると、アキラさんが『待て、紅茶を淹れたのに飲まずに出て行くのか?』と呼び止める。
そういえば貰ってから一口も飲んでなかったな……。
ぼく達は急いで飲むと『急いでいるから仕方がない故に今回は見逃すが次はもっとゆっくりと味わって飲むように』とアキラさんから小言を言われてしまうけどその顔は何処か笑っているように見える。
そんなやり取りをしてから三人で出ると、ダートやコルクの前に黒い腰まである髪を持っていて黒いロングコートを着ている見慣れない人物の後ろ姿が見えて誰だろうと思っているとアキラさんが心器の刀を抜いて『ミュカレーっ!何故貴様がここにいる!』と声を荒げながらその人物に切りかかるのだった。