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第20話 暗闇の魔導具

 ミュカレーがダート達の元へ向かい風の刀で切りかかろうとした時だ。

ジラルドが体全体のバネを使って立ち上がると彼女を正面から殴り倒す。

地面に勢いよく叩き落とされた彼女は直ぐに起き上がり後ろに下がって距離を取る。


「よぉっし!気絶したふり成功っ!、コルクっ今の内の俺の槍を取って来てくれっ!」

「そういうと思ってあんたが動いた時に持って来たよ……受け取りぃ!」


 あの伸びていたように見えたのは二人の演技だったのかと思いながらアキラさんと向かっているとコルクがジラルドの隣に槍を投げ渡す。

それを焦った顔をして掴むと姿勢を低くして構えた。


「ばっかお前っ!投げたら危ないだろっ!」

「取れたんやからええやろっ!それよりも来るでっ!ダートはそこで自分の身を守ってときぃ!」

「うんっ!」

「あなた達、まともに戦った方が良いんじゃない?」


 ミュカレーがそういうと懐から魔導具らしき物を取り出すと魔力を通して頭上へと放り投げた。

いったい何なのか皆分からないのか一瞬反応が止まってしまう。

そして頭上を覆うようにして暗闇が世界を覆って行く……これはまさか自分の得意な場を作り出す為の魔導具なのか。


「これでこの場は私の物、もうあなた達には勝ち目がないわ」


 外から僅かな光が入るおかげで辛うじて周りが見えるけどミュカレーの姿は髪色と服装のおかげで溶け込んでしまってわからない。

これはどうすればと悩んでいると、ジラルドの悲鳴が聞こえてそちらの方を向くと倒れ込んで動かない人影が見えた。


「脚は貰った……後は三人」

「レースこのままだと全滅するっ!……貴様の魔術で上から雪を降らせろ!」

「馬鹿ね……たかが雪で何が出来るというの?」


 ぼくはアキラさんに言われた通り空から雪を魔術で降らせる。

すると不思議な事に外から入る光を反射して周囲が徐々に仄明るくなっていく。


……そういえば聞いた事がある、確か雪が良く降る地域では夜なのに外が明るく見えると、つまり雪の中で光が乱反射する事で周囲が明るくなるという事なのかもしれない。

普段ならこの明るさでは不安になるだけだけど、ミュカレー姿が雪のおかげで見えるようになったというのは良い効果だと感じる。。

後はアキラさんに任せてぼくはジラルドの所に行った方がいいだろう。


「それで良い……これだけ見えるなら充分だ」

「やられたわね……、でもいいの?あの子さっき私が脚を切り落とした人のとこ行ってるけど」

「まずいっ!レース止まれっ!」

「……え?」


 アキラさんの声に反応して止まろうとしたけど遅かった。

ジラルドに近づいたと同時に見えない風の刃がその場に留まっていて、それに触れてしまったぼくの両脚が切り飛ばされてしまい彼と同じ場所に転がる。

体中に火が走るように痛い、失った部分が多すぎて大量の血液も失われてしまってこのままだと出血死に至ると分かっているのに余りの痛みに脳がパニックを起こしてしまってそれどころではない。

ただ急に痛みの感覚が無くなって症状が落ち着いて行く……何が起きたのかと両脚を見ると氷で傷口が塞がれていた。


「レースっ!何で来たんよっ!」

「怪我人を治して戦線復帰させようと思って……ってコルク、腕がっ!」


 ジラルドの近くにいたコルクを見ると右腕を肘から切り落とされたのか存在しない。


「これか?……ジラルドを支えようとしたら巻き込まれてもうたんよ。……何ていうか嫌な奴やなあいつ、怪我人を餌に仲間を呼び寄せて一人一人確実に仕留めに行くなんて最悪や」

「直ぐ作り直すから待っててっ!」

「ばっか!あんたこんな複数の人の前で……って言いたいけど今はそれしか出来そうにないから頼むわ……後ジラルドの方もお願い、このアホには死んで欲しく無いんよ」

「分かってる……、でもその前に何かハンカチか何かがあったら口の中で強く噛んでおいて」

「……わかった」

 ぼくはそういうと二人に手を当てて意識を集中して行く。

そして損傷個所から徐々が肉体を再生して行くイメージを二人の身体に与えて行った。

こうする事で二人の中にある、本来あるべき姿に戻って行くけど問題は意識がある状態でやると凄まじい痛みに襲われる筈だ。

骨が出来てその上に血管、神経と肉が伸びていく感覚はきっと本人にしか分からない程の激痛だと思うしその時に意識がある場合は痛みに声を上げる事が出来なくなり顎に強い力が加わってしまう為に歯に異常な圧力がかかり折れてしまうだろう。

意識の無いジラルドは脚が作り直されて行く中で悲鳴を上げる事は無いけど、コルクは必死にハンカチを噛み締めて小さな悲鳴を上げ続けている。

暫くして二人の身体が戻った頃には青白い顔をして脱力しているコルクの姿があった。


「あん……た、こんなに苦しいなら先に言うてよ」

「本来起きてる人に使う術じゃないからね……、次はぼくにやるから悪いけどコルクぼくの口にローブの袖を突っ込んでくれるかな」

「……これでいい?」

「ふぁふぃがと……ッ!?」

「その前に安全なとこに引きずるから我慢しぃや……」


 コルクがそういうと痛みで右腕に力が入らないだろうに両腕を使って見えない風の刃が無い所に引きずってくれる。

自分に使う場合は相手の魔力に波長を合わせる必要が無い分即座に効果が出るけど予想以上だった。

骨が伸びる過程で脚を覆っていた氷は砕けたけどその衝撃で痛みが戻り、更に神経を直接触れるような脳が焼き切れそうになる痛みに気が狂いそうになる。

その上を肉が覆って行くくすぐったい感覚に体が跳ね上がり意識が飛びそうになったけど、ここでこの術に使う魔力を制御出来なくなってしまうと治療が止まってしまうから意識を失わないように必死に奥歯を噛み締めて耐え続けた。

暫くしてぼくの脚が戻ったけど、体力を使いきってしまい身体の力が入らない、正直言ってこの術を作り上げた人を今すぐ殴りたい気持ちになる……と言っても作ったのはぼくなんだけどさ……。

こんなに苦しいならそりゃ禁忌指定されるだろう。


「ぼくが思っていた以上に……ヤバいねこれ」

「分かったなら今回は大目に見たるわ……」

「ありがとう……、そういえばダートは何処に行ったの?」

「うちとジラルドの近くに居た筈なのに何処に行ったん……」


……ぼく等がそうダートを探して周囲を見るけど見当たらない、もしかしたら彼女も何処かで倒れているのかもしれないと焦り始めた時だ。

アキラさんが居る方角から『よくも、よくもレースをっ!』とダートの声が聞こえて来て、それと同時に吹き飛ばされたアキラさんが飛んで来る。

そしてぼく等の姿を見ると『ここは私に任せて貴様らはそこで大人しくしていろ』と言い残して戻って行った。



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