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第22話 新しい家

 戦いが終わり意識を失ったダートをアキラさんと一緒に彼女の部屋に運ぼうとしたけど、家の中は割れた窓が散乱していて薬草を干していた部屋は暴風でバラバラになっていた。

さすがにこんな状態で休ませるわけにはいかないからどうしようかと悩んでいたけど……


「それならうちが町の職人に頼んであんたらの家の修理をしてもらうから、それまで町の空き家を借りたらええやん……金なら沢山あるんやろ?」


 と言うコルクの話を頼りに町に向かおうとしたけど、血を失い過ぎて未だに眼を覚まさないジラルドをその場に残して置くわけにはいかないしどうしようかと悩んでいると……


「それなら私が奴の面倒を見るから早く行け……もし住む場所が見つかったら端末を使って連絡しろ」


アキラさんはそういうと、地面に横たわったままのジラルドを肩に担いでかまくらの中に入って行く。

……あの中にずっといると風邪引きそうだけど任せろって本人が言っているんだし頼らせて貰おうかなと思ってダートを背負うとコルクと二人で町に向かった。

町に向かった時間が遅かったのもあって着いた頃には夕方になっていて、こんな時間に空き家を紹介してくれる人が居るのだろうかと思っていると、服屋のおばさんのマローネの家に入るように言われたから入らせて貰う。


「マローネさん、そろそろ店じまいなのにごめんなぁ?ちょっと相談したい事あるから客間使わせてもろてええかな」

「あらぁいいわよぉ?……ってダートちゃんに何があったの?」

「二人の家にモンスターが現れてな?何とか撃退したんはええんやけどダーが無理しすぎて倒れてしもうたんよ……それだけならまだ休ませればええと思うやん?でも家がボロボロになってもうてこりゃそれどころじゃないわって感じでな?だからこういう時に町の顔役やってるマローネさんの力を借りよ思うて来たんよって事で出来れば二人の家の修理が終わるまで住める空き家を紹介してくれへん?」


 コルクの話を聞いたマローネが急いで客室に向かうと布団を敷いてここに寝かせるように言ってくれる。

そこにゆっくりとダートを寝かせると椅子に座るように言われたので二人で適当な場所に座らせて貰う。


「それなら町の中央にそれなりに大きい空き家があるわねぇ、そこなら部屋も沢山あるから暫く滞在する間そこを仮の診療所に出来るから丁度良いと思うんだけど……あのね?これは提案なんだけど家の修理に大量のお金を使うよりもこの際家を買ってしまえばいいんじゃない?その家なら白金貨十枚買えるのよねぇ」


 いきなり家を買えと言われて一瞬反応に困ったけど確かにそれもいいかもしれない。

ダートと一緒に町に行く時間を考えると引っ越した方が良いと思う。

だってその方が行き来が楽だし何よりもコルクやマローネが近くにいるのは彼女の精神面的にも良い筈だ。


「それに汚い言い方だけど先生が結構お金を溜め込んでるのおばちゃん知ってるからこれ位一括で出せるでしょ?……でもそうねぇ白金貨十枚って大金出せと言われても悩んでしまうわよねぇと言う事で日頃ダートちゃんにお話し相手になって貰ってるから特別に白金貨八枚におまけしてあげるわよぉ?」

「……白金貨は金庫に普段保管しているから支払いは明日以降でいいかな」

「そうやって即決出来る人はおばちゃん好きよ?……先生、あなたダートちゃんにしっかり感謝しなさいよ?先生だけならおまけ何てしてあげなかったんだから」


 ダートに以前から町に出て色んな人と関わった方がいいって何度も言われていたけど、日頃の行いってこういう時に出てくるのか……。

でも確かにそうだ、今迄自分から人に関わろうとしてこなかった影響はでかいと思う。

定期的に交流がある人と無い人だとどっちが信頼されるのかと言われたら間違いなく前者だろう。


「……ありがとうございます、マローネさんそれでお願いします」

「あら驚いた、先生に初めて名前をちゃんと呼ばれたわねぇ……レースちゃんも少しずつだけど成長してるのね。」

「マローネさんにも初めて名前を呼ばれた気がするよ」

「そりゃそうよぉ……名前を呼んでくれない人の名前を言う必要何てないじゃない?あなた今迄失礼な事してたんだから自覚しなさい?」

「レース、今迄自分がやって来た事ってこうやって返ってくるんやで?逆にこれからの行動でも変わるんや覚えとき?」


 確かに二人の言う通りだ。

今迄周りに悪い印象を与えて来たツケが回って来たのだろう。

でもそれでもマローネさんはぼくの事を助けてくれている、それがダートが今迄周りに与えて来た良い印象のおかげもあるだろうけど単純に彼女の善意から来るものだろう。


「マローネさん、今まで大変失礼な事をしてしまい申し訳ございませんでした」

「……あなた本当に変わろうとしているのね、白金貨一枚にしてあげる」

「え?……本当に良いんですか?」


 ぼくが驚いてマローネさんの顔を見ると優しい笑顔を浮かべていた。

この人のそんな姿を今迄見た事無かったから困惑してしまう。


「いい?これは私からのアドバイス、信用はお金で買えるけど信頼はお金では買えないという事を覚えておきなさい、今回あなたはお金では買えない信頼を勝ち取ったの、おばちゃんはあなたの変わろうという努力を信頼するし尊重するわ」

「マローネさん……、ありがとうございます」

「別にいいのよぉ、じゃあちょっと待ってなさい今鍵と家までの地図を持ってくるからねぇ」


 マローネさんはそういうと椅子から立ち上がり客室を出て行く。

彼女が戻って来るまでの間にダートの姿を見るけどまだ目を覚ましそうにない。

……早く彼女の声が聞きたいし笑顔が見たい。


「待たせちゃってごめんなさいねぇ、これが鍵と地図よ……あぁそういえばあの家以前住んでた人が二か月前に家具を残して出て行っちゃってね?これからレースちゃんとダートちゃんの家になるんだし抵抗が無いなら使っちゃっていいわよぉ?」

「わかりました……ありがとうございます」

「遅くにお邪魔してもうたんに、色々と面倒見てくれてありがとなぁって事で早速行くよレース!早くダート背負って!」

「うん、早く休ませてあげたいから行こうか……ただ町の中に詳しく無いから道案内お願いするよ」

「あいよー」


……ぼくはコルクに道案内を頼むとダートを背負ってマローネさんの家を出ると、三人で新しい家に向かう。

大きい町では無いから思っていたよりも直ぐに着いたけど、普通の一軒家がちょっと大きくなった物を想像していたから目の前にある物に驚きを隠せない。

だって三軒分の大きさだなんて聞いて無かったからどんな顔をすればいいのか分からない、本当にこんな立派な建物を白金貨一枚で買わせて貰って良かったのだろうかと思いながら新しい家に入るのだった。


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