クロウに少しの間、血液の流れが止まる事を説明すると魔力を同調させて行く。
そして体内の血液の流れを『固定』して止めると、彼の身体がびくんっと跳ねる。
ここからは時間の勝負だ、体内に入り込んだ部分の空間を切り取り外に取り出すイメージをしながら魔力を流す。
「……血管内の毒に侵された血液を外の空間と繋げる事で外部に摘出、そして壊死した分を切り取り外部に転移した後に作り直し」
血液の流れが止まってから十五秒が経過しクロウが意識を失い力無く地面に横たわる。
それに合わせて、壊死した部分を空間魔術で転移させ、血液の通り道を外の空間に繋げて固定を解除する。
すると何もない空間から大量の血液が勢いよく吹き出し大地を赤く染め上げた。
その後ゆっくりと、血管内に空気が入り込まないように注意しながら空間を閉じると、クロウの魔力を血液に変換しながら、外部に転移させた身体の一部を作りなして行く。
……ここまでの流れが一分も立っていないから脳などに障害は残らないはずだ。
『へぇ、空間魔術を使って二回目なのに上手くやるじゃねぇかっ』
「……原理が分かれば思いの外簡単だったから、治癒術に応用したけど魔力の消耗が激しいからあんまり多用はしたくないね」
『魔術と治癒術の同時使用とか普通はしないからしょうがないだろ……、俺が知ってるだけでもあのババア位しか知らねぇよ』
ババア……?、そういえば師匠の事をダリアが初対面の頃からそう呼んでたのを思い出して少し懐かしくなる。
とは言え、ぼくが師匠と同じ事を出来たのか、多分心器がないと出来なかった事だと思うけど少しだけ嬉しくなるけど思った事がある、これってもしかしたら魔術も複数同時に使えるのでは?、例えば地面を雪にした後に、風の魔術を使って地吹雪を起こす術を雪と風を同時に使ってみたらどうだろうか。
そんな考えが浮かんで試して見たくなったから戦闘中のダート達の方を見ると、彼女は指先に魔力を集中して必至に空間魔術を使いポルトゥスとアンの援護をしていた。
彼女に攻撃は当たる直前にスケルトンを転移させて攻撃を防ぎ、こちら側の攻撃に合わせてアンを棺の中や上やケイスニルの死角に当たるだろう部分に転移させていた。
「でもなんか……、普段よりも魔術を使うのに苦労しているような」
『そりゃそうだろ、今迄暗示の魔術で生まれた俺が居たから戦闘する時に気持ちを切り替えられていたけど、ダートの中にはもう俺がいねぇからな、戦闘に対する恐怖がフィルター無しで来てんだ負担が集中を乱してんだろ?』
「ならダリアを、ダートに届けたら?」
『まぁ、フィルター程度にはなってやるけど……、今回だけだぞ?』
「……ありがとう、じゃあ今から空間魔術を使ってダートの方に跳ぶからお願いするよ」
ダリアが今回だけはダートに力を貸してくれるらしい。
その気持ちに感謝しながら、魔力を心器の剣に魔力を込めて空間を繋げるイメージをしながら空を切ると彼女に声を掛ける。
「ダートっ!、ダリアを渡すから受け取ってっ!」
「レースっ!?それにさっきから空間魔術を使ってるから何事かと思ったけど……いつから使えるようになったの!?……それに、ダリアって誰!?」
「取り合えず今はこの剣を手に取ってっ!」
「わ、わかった!」
繋げた空間を通りながらダートに近づくと、ダリアを彼女の手に渡すと同時にぼくの頭の中にあった空間魔術の原理が思い出せなくなる。
……これは、彼女を持っていなくても使えるようになる為に定期的に使って練習した方がいいかもしれない。
「この心器がダリアだ、もう一人のダートの新しい名前だよっ、声は聞こえないと思うけど手に持ってる間は戦闘の手助けをしてくれるらしいから使ってっ!」
「ダリア、そうダリアね、わかった……、それにしても何か不思議な感じがする……、私の中から生まれた人の筈なのに私じゃないみたい、それに何だか持ってると心が落ち着く……、これは今なら出来るかもしれないっ!」
『……そりゃ俺はもうおめぇじゃねぇからな、同じように扱われたらむかつくっての、あぁそうだ、俺の心器の能力を説明してくれると助かるわ、ただ空間魔術の話は俺とレースの秘密な?』
「ダート、この心器の能力を説明何だけど、呪術を使う時に、今迄詠唱を唱えてたと思うけど、この剣で相手を傷つけても呪術の効果を出す事が出来るようになるってダリアが伝えてくれって」
「そんな能力が……?教えてくれてありがとうダリア……、私は今からアンさん達に合流するから、レースはここで待っててね、正直言うと一緒に居たいけど、戦いにこれ以上の人数が入ると同士討ちが起きる可能性があるからごめんね?、でももし何かあったら治癒術での治療をお願いすると思うから、その時は空間魔術で飛んで来て欲しいな」
ダートはそういうと空いてる方の手で指に魔力の光を灯すと空間を切り拓いてケイスニルの背中の上に跳ぶと、ダリアを使って蠍の尾を横に切るとその背中から更に跳びポルトゥスとアンの近くに現れた。
「アンさん、ケイスニルに呪術を掛けたからこれで有利になると思う」
「……わかったわ、ポルトゥス良いわね?」
「ほほ、腕が鳴りますぞぉ」
三人の姿を見て、忌々し気に牙をむき出しにして喉を鳴らす。
そして勢いよく地面を前足で叩くと大きな声で叫ぶ。
「てめえら、さっきから俺の尻尾ばかり狙いやがってうぜぇんだよっ!」
「見た目の割にあんなに柔らかい尻尾が悪いんじゃないかしら?」
「るせぇっ!……てめぇら俺の奥の手を見せてやるよっ!これで終わらせてやるっ!」
「ほっほ、活きが良い獣は良く吠えますなぁ」
……ぼくもあの中に入って戦えるようになりたい、でも今あそこに入ったら同士討ちの可能性があると言われた以上は下手な事が出来ない。
じゃあどうすればいいのだろうかと悩んでいると……、ポルトゥスに飛び掛かったケイスニルの蠍の尾が突然自身の背を貫き、空中で姿勢を崩しそのままの勢いのまま地面に落下した。
「ぐぅっ!、何だこれは何がっ!……がぁっ!」
「……これは随分と恐ろしい呪術ね」
「ケイスニルが攻撃の姿勢に入ったら蠍の尾で自害するように呪術を掛けたんです。」
「面白い使い方をするのね……、同じ魔術を使う者同士ダートあなたとは良いお友達になれそうだわ」
「それよりも毒が効いて苦しんでますぞ、今の内に止めを刺しますぞ」
……ケイスニルが獣の姿から、人の姿に戻ると喉を抑えて苦しんでいる。
確かにこれなら彼に止めを刺してあげた方がいいだろう、必要以上に苦しませる必要性はない筈だ。
ポルトゥスもそう思っているのか、鎖に繋がれた棺を持つと頭上で回し勢いを付けて叩きつけようとした時だった。
ケイスニル前に青い色の炎が現れたかと思うと彼の全身を包み混んだのだった。