家に戻るとクロウをぼくの部屋のベッドに寝かせてから、皆でリビングのソファに座ってお互いに何があったのかを話していたけど、正直一番驚いたのはダートとカエデが栄花に行った後に新しい治癒術が使える人が二人来てくれる事になった事と、基本自分の意志を持たない筈のアンデッドが意志を持ち自由に動いている事だ。
「取り合えず、グランツの事を話したりそっちで起きた事は聞いたけど、アンさんに色々と言いたい事があるんだけどいいかな」
「……別に構わないけど、いったい何が聞きたいのかしら?」
「あのアンデッドは何ですか?」
「ほほ、私がどうか致しましたかな?」
目の前で黒い外套を着て、棺の中から取り出した三角巾を被ってエプロンを付けてぼくに紅茶を淹れてくれているスケルトンを指差して言う。
何故彼がそんな事をしているのかといると、話をしている最中にアンが棺のネックレスを外して後ろに投げながら『喉が渇いたわね……、ポルトゥス紅茶を淹れなさい』と言ったかと思うと、棺が元の大きさに戻ると彼が中からティーセットを持って出て来て今に至っている。
「あれは私の使役するアンデッドよ」
「レース様には自己紹介がまだでしたな、私はマチザワとも……」
「ポルトゥスっていう名前でね?、私の遠いご先祖よ」
「あの……私はマチザ」
「あ、もういいけど、ポルトゥスさん宜しくお願い致します」
「……こちらこそ、宜しくお願い致しますぞ」
彼が自己紹介をしている最中に、アンが上から被せるようにポルトゥスと言い直してるのを見ると触れない方が良いのかもしれない。
そう思っていると、ポルトゥスが近付いて来て耳元で囁くように『私の名前は、マチザワと申します……』と言ったかと思うと……
「いやぁ、アン様は確か砂糖は入れないのでしたな、ダート様にレース様は如何なされますか?」
「ぼくは普段入れないからそのままでいいかな……」
「あの、私は少しだけ砂糖を入れて貰えますか?」
「畏まりましたぞっ!」
誤魔化すようにぼく等に言うと、慣れた所作で砂糖を少しだけ入れてダートにカップを渡すと棺を開け中に入ると気配が消えて物言わぬ屍へと戻る。
「……それで話の続きなんだけど、私とヒジリ以外に寮に入れるのは後一人位なのよね?当てはあるの?」
「当てはないかな」
「……そう、それなら暫くは姫ちゃんとヒジリ、後はあなたとダートを入れた五人ね」
「早めに後一人、人員を補充できるように努力します」
ぼくがそういうとアンさんは暫く何かを考えるような仕草を取ると、ふと何かを思い出したかのように立ち上がり、ポルトゥスの入っている棺を開けて中から通信端末を取り出して誰かに連絡を入れる。
通信中の音が鳴った後に端末をテーブルに置いたかと思うと、小さなアキラさんの姿が現れた。
『……何故アンがそこにいる?』
「何故って、これからこの診療所でヒジリと一緒に働く事になったから、あなたも一緒に働きなさい」
『なんだと?』
「それなりに治癒術が使えるでしょう?……それに昨日あなたが言ってたじゃない、レースくんに色々と教えているけど物覚えが良い自慢の弟子だって言ってたじゃない?、弟子が困ってるなら手を貸してあげるのが師匠の役目だと思うけど?」
『アン、レースの前で言うとは何を考えているっ!』
アキラさん……、ぼくが居ない所でそんな事を話しているのかと思うと恥ずかしくなる。
ダートがそんなぼくの姿を見ておかしそうに笑うと、良かったねと頭を撫でてくれるけど、これは恥ずかしさの追い打ちだ。
「何を考えて居るって、あなたが素直じゃないから変わりに言ってあげてるんでしょ?……で、やるの?やらないの?」
『考えさせ――』
「考えさせてくれはなしよ、それに将来的にレースさん達に私達の任務に付き合って貰うのでしょう?それなら尚の事恩を売るべきだと思わない?、それともそんな事を考えられない位に、私が選んだ男は頭が悪いのかしら?」
『あぁもうわかったっ!やれば良いのだろうやればっ!レース、明日からだっ!明日から診療所を手伝うから待っていろっ』
アキラさんのその言葉を聞いて満足したのか、アンが通信を切るとポルトゥスが入っている棺の中に端末を戻す。
そして満足げな顔をした後にぼく等の方を見て口を開いた。
「という事だから、人数が集まったから宜しくね……、後部屋は同じにして欲しいわ」
「別にそれ位ならいいですけど、何で同室なんですか?」
「……あら?知りたいの?」
「レ、レースっ!二人は夫婦なのよ?それ位分かってあげてっ!」
夫婦でも別室で暮らす人もいる気がするんだけど、ぼくの認識が間違っているのだろうか。
そんな事を思いながらダートの方を見るけど、何やら顔を真っ赤にした彼女が言わなくても分かって欲しいと言わんばかりにぼくの方を見る。
「あなた達にはまだ早い話だけど、夫婦には色々とやる事があるのよ……、まぁいずれ分かるわよ」
「あ、はい……」
「……じゃあ私は帰るわね、必要な荷物は姫ちゃん以外のはこちらで準備していくから安心してちょうだい……」
「わかりました。アンさん明日から宜しくお願い致します」
……アンはそう言うとポルトゥスの入っている棺を小さくしてネックレスの形にすると首に掛けてリビングから出て行こうとする。
その最中、ダートに何やら耳打ちをしていたけど、顔を真っ赤にして『そういうのは夫婦になってからにします』と言っていたけど何を言われたのだろうか。
そんな事を思いながらクロウが目を覚ますのを待つのだった。