カエデがそう言うと何も無い空間から人数分の朝食が現れテーブルの上へと置かれる。
何が起きたのか理解出来ず固まっていると……
「そんな驚かなくてもいいと思うよー?」
カエデ達が座っているソファーの後ろの空間が歪んだかと思うとそこからソラが現れる。
片手にはテーブルに置かれているのと同じ朝食を持っていた。
「驚かなくてもいいって言われても……」
「俺の魔術で周囲の風景を映し出してただけだよー、こんな感じかな」
彼は空いている方の手を前に出すと、指先から空気に溶けるように消えて行く。
これはいったいどうやっているのだろうか……
「ぼくの特性は幻影、それを風の魔術に合わせればこういう事も出来るって事だよー、感が良い人にはバレちゃうけど潜入向きなんだよねー」
そう言いながら彼は再び全身を消して行くと……
「じゃあ俺は仕事があるから姫ちゃん説明宜しくねー」
「はい……、私達も後で行くので偵察の方宜しくお願い致します」
「はいはーい、じゃあランは副団長の護衛ちゃんとするんだよ?」
「任されたの、おにぃもちゃんとお仕事してね?」
扉がゆっくりと開くと音も無く閉じて行く。
……偵察って何の事だろうか。
「では、私の方からコルクさんの救出に対する説明があるのですが、時間が無いので朝食を食べながら聞いてください」
「……わかった」
朝食が持って食べやすいサンドイッチと飲み物だったのは、そう言う事だったのか……、手に取って見ると塩胡椒で美味しく焼き上げたであろう物や、野菜を挟んだ物に、生クリームと果物が挟まれたデザートの三種類があり、最初にお肉の方を食べてから、野菜で口の中をさっぱりとさせて果物の甘みと酸味でお腹を満たすと良さそうだ。
飲み物は珈琲で、食後にゆっくりと飲んで落ち着けるようになっていて作ってくれた人の気遣いが感じられる。
「まずですが、現在王城前に冒険者とギルド職員達が集まっていて王へと抗議を行なっています、こちらの方は冒険者ギルドの職員が城勤めの騎士に襲われた事が原因となります、私達が逃走した後にヒジリさんが予め用意していた勲章等を使い情報を操作した結果ですね……、そしてジラルドさんを無傷で連れて来る依頼の件ですが、本来なら受理されるまで二、三日掛かる所何が起きたのか当日中に張り出されDとEランクの駆け出し冒険者達が首都内を捜しているようですが……」
何とも言い辛そうな顔をしているカエデを心配したのか、ダートが彼女の方を見て口を開く。
「ですがって、カエデちゃんどうしたの?」
「少々行動が乱暴なので、先程出て行ったダリアちゃんでしたよね?あの子が心配で……」
「んー、ヒジリさんがいるなら大丈夫じゃないかな」
「だと良いんですけど、取り合えず現状首都の治安は荒れている状態ですのでこのタイミングを上手く使って王城に潜入しようと思います、その為にソラさんにはジラルドさんとクロウさんをもしもの為の護衛に付けて偵察に行って貰いました」
「護衛って、ジラルドは大丈夫だと思うけどクロウの方は昨日の事もあるし大丈夫なの?」
昨日重傷を負った彼が護衛に作って大丈夫なのかと心配になるけど、ミコトさんに治して貰ったとは言えまだ本調子じゃない気がするんだけどな……
「カエデちゃん……、その二人が護衛って大丈夫なの?」
「はい、ジラルドさんには変装をして貰っていますし、クロウさんの方は何ていいますか、すこぶる体調が良いらしいと言いますか今迄出来なかった全身の獣化が出来るようになったらしくてテンションが凄い事に……」
「……クロウには悪いけど、何か不安しかない」
「そこは多分大丈夫だと思うの……、何かあるならおにぃが止めると思うから問題ないの」
問題無いと言われても……、ぼく達はソラさんの事を深くしらないから信用していいのか分からない。
「ランちゃん……レースさんやお姉様からしたら昨日知り合ったばかりのソラさんや、今日初めて顔を合わせたランちゃんの事を信用しろって言われても無理があるからね?」
「でも、おにぃは凄いから大丈夫なの」
「そういう考え方は止めよう?、そろそろちゃんとお兄ちゃん離れしないとね?」
「……わかったの」
「ランちゃんは良い子だね、……えっと続き何ですが食べ終えたら王城へ向かおうと
思います、手筈では私達が到着する前に潜入経路を確保してくれている筈なので」
取り合えずぼく達が皆と離れていた間に色んなやり取りがあったのは分かったけど、いきなり当日結構と言われても難しい物がある。
とは言えコルクを助けるのは速い方が良いと思うからしょうがないのかもしれない。
「カエデ、潜入の件は分かったけどどうして今日なの?」
「理由は勿論あります、長期間この首都に滞在をした場合国の兵士達やこの国の民間人顔を覚えれる可能性があるので……、そうなると潜入が困難になります」
「つまりまだ顔を覚えられていない今なら潜入しやすい?」
「はい、レースさんの言う通りです、私達はまだ顔を覚えられていませんし、ソラとランの両名は彼の特性を使って今迄姿を偽装していたので問題無いです、ジラルドさんやクロウさんも彼がいれば問題無く潜入出来るでしょう……ですが、問題は潜入した後です」
「後っていうと?」
潜入って言うんだからコルクを助けて脱出するまで見つからない事だと思うんだけど違うんだろうか……。
「王城内に入るまでは問題無いと思うのですが、その後レースさんはソラさん達と行動して頂いてコルクさんの救出、お姉様は私と一緒に来て頂いて後々合流するだろうヒジリちゃんと一緒に城内で騒ぎを起こして陽動です」
「陽動って潜入なのにどうしてなの?カエデちゃん」
「はい、外が騒ぎになっている中での少人数の潜入とは言え城務めの騎士が多く城内で待機している筈です、その場合いくらソラさんの特性を使ったとしても見つかってしまう可能性は充分にあるので陽動が必要になります」
「なるほど……、でも私で大丈夫?長い間前線を離れていたから正直戦力になれるかというと」
「空間魔術を使いこなせる人がいるというのは充分貴重な戦力なので問題ありません、陽動である以上戦う必要はないですし仮に戦闘になったとしてもヒジリちゃんやランちゃんが対処しますからお姉様は空間跳躍を使う事に専念してください」
「……わかった」
ダートは安全な所にいられるみたいで良かったけど……、その代わりにぼくの方の責任は重大だ。
ぼくは戦闘になった時に戦力になるのだろうか……
「あ、カエデちゃん……、ダリアの事なんだけどあの子はどうするの?」
「ダリアちゃんは、レースさん達と合流して貰います、空間魔術がお姉様と同じ練度で使えると思うので分けておいた方がいいでしょう、レースさんもそれでいいですか?」
「うん、そう言う事なら……」
「ありがとうございます……では皆朝食を食べ終えたようですし行きましょうか」
……話ながら食べていたからいつも以上に食べるのに時間が掛かってしまったけど、ソラ達の事を考えると丁度良かったのかもしれない。
朝食を食べ終えたぼく達は皆で部屋を出ると宿を出て王城へと向かうけどその道中に、見覚えのある白い髪の女性とすれ違った気がしたけど、ミコトさんは教会に幽閉されていた筈だからきっと見間違えだろうと思いながら目的地に着いたのだった。