モノクルをかけた女性が姿を隠しているぼく達の方を見ながら警戒している。
前方には敵がいて、後方からは毒々しい色をした霧が噴き出していて周囲を染め上げて行く。
「ソラさん、この人は悪い人じゃないから幻影を消して大丈夫だ」
「君には昨日話したと思うけど、彼女は指名手配されている元Aランク冒険者の『死滅の霧 スイ』だよ?大丈夫っていう証拠はあるのかな?」
「……それは俺の勘だ」
自信満々にそういうジラルドを見て何とも言えない不安に襲われる。
もしその勘が外れた時の事を考えると正直頼りたいとは思えない。
「勘って……、外れたらどうするの?」
「外れたらその時はその時だろ、全員で攻撃して一気に倒しちまえばいいと思うぜ?それに……」
「それに?」
「冒険者の勘は外れないっ!何故ならそれは経験から来る勝利の方程式だからなっ!」
「レース諦めろ……、彼はそう言う人間だし冒険者は冒険をするものだ」
……何ていうかぼくには理解が出来ない世界だ。
クロウも何だか楽しそうな顔をしていて止めるどころか、ジラルドの意見を尊重してるからどうしようもない。
「悪いけどやるならジラルドくんとクロウくんだけにしてくれないかなー。俺達を巻き込むのは止めてよね?」
「ならしょうがねぇな……、俺の勘が外れた時の為にクロウもここに残っててくれないか?俺が出てスイと話してくるからさ」
「……わかった、お前が言うならその意見に従おう」
ジラルドはそのまま武器を持たずに幻影の中から飛び出すとスイの方へと歩いて行く。
彼女はその姿を見て一瞬身構えるが出て来た人物を見て警戒を解く。
「よぉ久しぶりだな」
「まさかこんな所であなたに会う事になるなんて思わなかったわね……、もしかして私が言った通りに仲間を集めて来たの?」
「おぅ、ちゃんと集めて来たぜ?これでやっとミントを助けられる」
「そう、それは良かったわね……、でもね?あなた達はここから先には行けないわ?」
「それってどういう……?」
スイの後ろから毒々しい紫色の霧が噴射され辺り一面が染め上げられて行く。
それがジラルドを包み込もうとしたタイミングでソラが幻影を消すと、風の魔術を使い吹き飛ばした。
「ジラルドくんの勘が外れちゃったねー」
「あぁ悪い、最悪の結果になっちまった……」
「その割にお前は楽しそうだな?」」
「そりゃそうだろ、俺の今の実力をお前とレースに見せられんだから嬉しくもなるって」
ジラルドは申し訳なさそうにそういうが何処か楽しそうな顔をしている。
彼を見たクロウが呆れたような顔をしているけど、誰だってそんな顔をするだろう自信ありげに勘で動いてこうなったのだから……
「どう見ても相性が悪くてどうしようもないわね……、毒を吹き飛ばす人がいるし、私が助けた彼と後一人ならどうとでも出来たんだけどそれ以上に相性が最高に悪いのはあなたね」
スイがぼくの方を見てそう言うと毒を噴射されるのを止めて両手をあげる。
さっきまでの流れだと今から戦闘になると思っていたのだけれどどうしたのだろうか……。
「私の心器を使ってあなた達を見て分かったのよ、猫の獣人やそちらにいる犬の獣人は幸いな事に毒で無力化出来るのが分かったけど、そこの……えっとミントの婚約者のジラルドだったわよね?彼は私の毒が効かないように薬を体内に入れてるから意味がないから力づくで来られたら簡単に弱い私は負けるしそれは私が弱いだけだからいいんだけど……、問題はあなたよあなた本当に何なの?」
「何なのって言われても……?」
「あのね?私の心器は見た相手の肉体と精神の状況を分析して、その時に最も効果がある毒を教えてくれる物なのそれなのに幾ら分析をしても毒が効かないって出るのよ!?そんなのどうしようもないじゃない!」
指差しながら怒った顔で近づいてくるスイの勢いに気圧されそうになるけど、ぼくに毒が効かないって言われてもそれは多分血清を作って治療してしまうからだと思う。
そういう意味では確かに彼女からしたら天敵なのかもしれない。
「それはまぁ、ぼくが治癒術師だから?」
「だからってねぇ……、普通は毒に掛かっても直ぐに治療なんて出来ないのよ?なのにこの心器のモノクルには直ぐに治療されるって出るのおかしいでしょ、バカらしくなって来たわよもう」
そう言って彼女は項垂れるが、おかしいと言われても出来てしまうんだから言われても困る。
周りの治癒術が使える人は今迄皆出来たからこれが普通では無かったのだろうか……?
「それよりさー、戦う気が無いなら聞きたいんだけどどうして指名手配中の君はここにいるの?、王城内にいる事はジラルドくんから聞いて知ってたけど周りに倒れてる騎士達と言い何か怪しいんだけどー?」
「それは詳しくは話せないのだけれど大怪我を負った私の父親を治す為にマスカレイドの元から離れてこの国に来たのよ……、騎士や兵士が倒れているのはミントをここから外に連れ出して自由にする為に一カ月間念入りに王城内勤めの人達に毒を仕込んで弱らせて私でも倒せるようにしたのよ、彼女を自由にする事でこの国唯一のSランク冒険者【教皇 ミコト】に合わせてくれる約束をしてくれたからんね」
「そうなんだー、でも何で教皇に?彼女に君のお父さんを合わせてももう意味がないと思うけど?」
「あなた……、意味がないってどうしてそんな事言えるのよ」
「それはねー、君のお父さんの身柄はぼく達栄花騎士団が確保して既に治療済みだからだよ」
……ソラがそう言うとスイは驚いて眼を大きく見開くと言葉が見つからないのか黙ってしまう。
彼女からしたら置いて来た父親が人質に取られているという事だからしょうがないのかもしれない。
そう思っているとソラが悪戯な笑みを作り『取引に応じてくれるなら、君のお父さんの安全は保障するけどどうするー?』とスイに交渉を持ちかけたのだった。