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第14話 ミュラッカの気遣いと朝食

 あの後夕飯を食べて暫くした後にいつも通りサウナに入ったけど普段とは違う、独特な甘い香りがして違和感があったけど……、暫くして気持ちが昂ってしまい大変な目になった。

しかも困った事に、ミュラッカの指示でダートと二人で入る事になりサウナウェアを着て入る事になって、お互いに気まずい雰囲気になってしまいこの気持ちをどうしようという複雑な感じになったけど、間違いなく彼女なりの久しぶりの二人きりだからという気遣いだったんだと思う。

とは言え明日の事を考えて気持ちを抑えて部屋に戻ると何故か二つあったベッドが一つしかないという、ミュラッカに対して何やってるの?と言いたい気持ちを抱きながら二人でそのまま眠る事にしたけど……


「どうしてこうなったんだろうか……」


 ダートの寝相が悪い事を忘れていたぼくが悪いんだろうけど、どうして今度はぼくに抱き着くような感じで眠りに付いているのかが分からない。

しかも何故かぼくの腕を器用に頭の下に置かれているせいかいつかのように腕が痺れて感覚が無かった。


「……レース兄様、昨日は色々と楽しめた?」

「ミュラッカ、君に言いたい事があるんだけどいいかな?」

「何かしら?」

「余計な気遣いはしないでいいよ、ぼく達にはぼく達のペースがあるから」

「……それはごめんなさい、出来れば早めに後継ぎを作って貰おうと思ったんだけどどうやら余計な事をしてしまったみたいね」


 本当にミュラッカは何をしているんだ。

少なからず結婚するまではそういう事をする気は無いし……、栄花騎士団からの協力要請が終わるまでは作る気もないし、もし終わる前にダートとの間に子供が出来たとしたら、大変な時期に彼女を置いて遠くに行く事になる……、そんな事をぼくはしたくない。


「分かってくれたならいいよ……、それよりもどうしてぼくが起きるのを椅子に座ってそこで待ってたの?」

「それに昨日父様と話して決まった事を伝えるついでに朝ご飯を三人で食べたいと思って……」

「そっか……、それならこの状況から助けて貰ってもいいかな」

「んー、微笑ましい光景だからそれはちょっと、だってダート義姉様凄い幸せそうな顔してるんだもの」

「そう言われたら助けてと言いづらくなるけど、話をするならちゃんと座った方が良いと思うんだけど?」


 ミュラッカは残念そうな顔をするとダートの身体を揺すって起こそうとするけど、全然起きそうな気配がない。

どっちかというと抱き着く力が強くなって少し苦しい位だ。


「……しょうがないわね」


 ミュラッカがベッドに近づいて唐突にダートの服を持ち上げて背中を出すと、服と身体の間に魔術で雪を作り出すとそのまま服を降ろす。


「ひぃやぁ!?」

「ダート義姉様起きましたか?」

「冷たいっ!なにこれなに!?」


 飛び起きたダートがベッドから下りて慌てているけど、ミュラッカが魔術で作った雪を消したのか、途中で落ち着いて床に座り込んでしまう。


「まさかここまで驚く何て……」

「……ミュラッカ、起こすなら優しく起こして?びっくりして心臓止まっちゃう」

「それなら次からはちゃんと一人で起きてくださいね」

「レース、ミュラッカが虐める……」

「まぁうん……、今回ばかりはしょうがないよ」


 助けて欲しいってお願いしたのはぼくだからこれに関してダートを庇うのは違う気がするけど、まさかあんな起こし方をするとは思わなかった。

ミュラッカはそのまま椅子に座るとテーブルに置かれている朝食の方を見ると……


「ダート義姉様も眼を覚ましたし、朝食を食べながらお話しをしましょう?折角運んで貰ったの料理が冷めてしまうもの」

「……うん、レースも横になってないで一緒にご飯食べよ?」

「そうだね」


 やっと腕の痺れが取れたから起き上がって椅子に座ると、人数分の肉と野菜がたっぷりと入ったシチューと柔らかいパンが置いてある。

これはストラフィリアでは良くある朝食だけど柔らかいパンは貴族て王族しか食べる事が出来ず、国民は硬いパンをシチューで柔らかくしながら食べる事が多いらしい。

ダートは不思議そうな顔をしてスプーンを手に取ると、シチューを口に入れて直ぐに驚いた顔に変わるけどいったいどうしたんだろうか。


「優しい味で、体の芯から温まる感じがして凄い美味しい……」

「えぇ、美味しいですねダート義姉様」

「朝からこんな美味しい食事を食べられる何て凄い……」

「ふふ、おかわりもあるので沢山食べてね?、えっとそろそろ昨日父様と話した内容を伝えたいんだけどそろそろ良いかしら」


 ぼく達は食べながらその問いに無言で答えるとミュラッカは姿勢を正して説明を始める。

内容的にはミュラッカと共に地図の場所へ行き、ルミィとダリアの救出そして可能であればヴィーニ王子を生け捕りにする事。


「大体は分かったけど覇王ヴォルフガングは来ないの?」

「父様なら準備をしてから行くとは言ってはいたけど、それに……」

「ミュラッカ?」

「あぁいえ、昨日父様が無くなったら私が覇王を継承するって話とやりたい事を伝えたら【俺の死後の事はミュラッカ、お前に全てを任せる、ヴィーニの事は直々に俺が始末をする】と言っていたわ」

「……そっか」


 多分だけどあの人は自分なりのけじめを付けようとしているんだろうけど、それで親が子の命を奪うのはかなり心苦しい決断だと思う。

それに既に自身の死後の事も考えているという事は、あれ程強い人でさえも死から逃げられない程の戦場になるという事だ。


「でもぼく達だけで先に行くってなると、あっちにはゴスペルがいると思うから戦力的に厳しいんじゃないかな?」

「ゴスペルは問題無いと思います……、ヴィーニは彼への命令権を既に失っていますから、でも何故か彼の元から離れずに側にいる理由が私には分からないけどね」

「命令権が無いと知れただけでも良かったけど、それでもルミィとダリアが危険な事に変わりはないから食べ終えたら直ぐに行こう」

「そうね、それに朝食を食べ終えたらカエデ様達に王城の前に用意した馬車の中で待ってて欲しいとお願いしてあるし、あちらもそろそろ食べ終えてると思うから行きましょうか」

「あ、じゃあ私食べ終えた食器まとめて部屋の外に置いとくね」


……そうして食事を終えたぼく達は外へ行く準備を整えてミュラッカと共に外に用意された馬車に乗ると、既にカエデ達が乗っていて、空中に心器のガラスペンを使って何かを書いては悩んでいる姿があった。

いったい何をしてるのか気になって聞いてみると、【ミュラッカ様が同行する事になったので作戦を組みなおしててます】と説明してくれたけど見ても何を書いてるのかが分からない。

ただぼくとダートの名前があるという事はぼく達も彼女の作戦に組み込まれているのだろう。

そんな事を思いながら、ゆっくりと動き出した馬車の中の揺れを感じるのだった。

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