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第20話 帰って来た現実とぼくの妹

 眼を覚まして周りを見ると屋敷の中で、ぼくとダートが一緒に使う事になった部屋にいた。

そして眼に涙を浮かべて心配そうな顔をしてこっちを見つめているダートの姿に理解が追い付かないでいる。

確かさっきまでミュラッカに実力を見たいから戦って欲しいと頼まれて戦闘をしていた筈だけどその後どうなったんだっけ……、確か真っ暗な空間にいて誰かと話した気がするんだけどちゃんと思い出す事が出来ない。

誰かと何か大切な話をした記憶があるんだけど……、取り合えず今は現状を把握する為に上半身だけでも起こしてみたら……


「レース良かった!……、ミュラッカが気絶させて部屋に運んだら急に呼吸が止まって、私死んじゃったかと思って、居なくなっちゃうかもって!」

「……えっと?」

「レースゥっ!」


 なんだこれ……、ぼくの呼吸が止まったって本当に何があったんだろう。

ダートがここまで取り乱す姿を見るのは出会ったばかりの時に異常種の魔物と戦って怪我をした時以来だ。

あの時のような気持ちを彼女にさせてしまったんだと思うと申し訳ない気持ちになるけど、現状が把握出来ないからどうしてあげればいいのか今のぼくには分からない。


「ダート義姉様落ち着いてください……、カエデ様からこの世界の成り立ちを聞いているのでしょう?」

「でも……、でもっ!」

「この世界の成り立ちは私達王族も勿論存じております、ただ今回の彼はたまたま世界の理に触れてしまったからあちら側へ引き寄せらただけです」


 この世界の成り立ちに、世界の理に触れた?いったい何の話をしているんだろうか。


「えっと、二人は何の話をしているの?」

「……すいませんレース兄様、今から話す事が分からなくてもいいので二人共今は黙って聞いていて貰える?」

「……わかった」

「うん……」

「では――」


 ミュラッカがこの世界の成り立ちについて説明してくれるけど、様々な世界から切り取られて転移させられた結果生まれた世界だという事は初めて聞いた事で理解が追い付かないし、神々の事は教会の人間が全世界に広めているからそういうのが居たんだと知ってはいるだけで、何をしようとしたのかどうして滅ぼされたのかまではお伽噺の中でしか知らなかったから不思議な気持ちになる。

それがこの世界のお伽噺の中で語られる内容とは少し違う所ではあるけど、過去の英雄で現在のSランク冒険者【天魔】シャルネ・ヘイルーン、そして【死絶】カーティス・ハルサーの二人の事だと思うと現実味が増す。


「じゃあ……、【斬鬼】キリサキ・ゼンという人は?」

「それは栄花騎士団団長のキリサキ・ガイと副団長であるカエデ様のご先祖様ね……、彼だけは普通の人間だったからそのまま寿命で無くなったと伝えられてはたけど……」

「……ん?言い辛そうだけどどうしたのミュラッカ」

「実は……、以前東の大国【メイディ】との間で薬品の取引が上手く行かず、国民と貴族達が痺れを切らして攻め入り戦争に発展してしまった事があったのですが、その際に彼っとそっくりな人物が現れ当時戦いに参加していた【福音】ゴスペルと戦いになり引き分けになった事がありまして」

「あのゴスペルが……?」


 この国唯一のSランク冒険者である彼が引き分ける程の相手がその場に出て来たという事実に驚きを隠せない……


「それだとさ、両国の戦争に参加していた人達の被害が大きかったと思うけど大丈夫だったの……?」

「大丈夫じゃなかったわ、お伽噺の中にあるように一太刀で両国の兵士や騎士……、農兵に至るまで一瞬にして壊滅状態に陥って最早戦争どころじゃなくて、生き残った人達がそれぞれの国へと平静を失って逃げる大騒ぎよ、ただ幸いゴスペルが居たから両国の軍がたった一人の手で殲滅させられることが無かったのが救いだったわね」

「……つまり彼がいなかったらあの場には誰も残らなかったんだ、そんな危険な人がどうして現代に?」

「分からないわよ、でもあれは災害だったわ……、まぁその話はそれ位にしてレース兄様が引き込まれたという事に関してなんだけど――」


 ぼくの心器の能力である【空間移動】の力はどうやら、世界に穴を空けて本来生物が通る事が出来ない世界の外側を移動する能力みたいで、そのせいで何者かに感知されて引き込まれたらしいけど……


「それならダートの使う空間魔術も危ないんじゃ?」

「……あれは魔術として既に形になっている物だから大丈夫みたいよ?、何でも点と点を繋いで移動しているだけだから、人で例えると薄く皮膚を破いた感じみたいね」

「そうなんだ……」

「えぇ、ただ過去に何人かレース兄様のような能力を持った、異世界から転移して来た人や転生したという人が引き込まれては亡くなっているのよ……、ただたまに戻って来る人がいるけど正気を失っている事が多くて、だからレース兄様が正気を保って生きて戻ってくれて本当に良かったわ」


 ミュラッカがぼくに抱き着いて来る。

一瞬驚いて身体がびくってしたけれど、小刻みに震える彼女にハッとして安心させる為に優しく抱きしめて背中を優しく叩いてあげると、安心したのかそのまま泣き出してしまう。


「えっとダート……、どうしよう」

「どうしようじゃないのっ!それだけレースの事を心配したんだからっ!私も同じくらいっ!」

「ほんとだわっ!やっと会えたのに、ずっと会いたいと思っていたレース兄様がまた居なくなるって思ったら怖かったのよっ!」

「えっと……、ごめんね?」

「謝るなら今日はこのまま大人しくしててっ!」


……ミュラッカが抱き着いている方とは反対の方からダートが抱き着いて来る。

その反動で上半身がベッドの上に倒れて仰向けの状態になってしまうけど、二人が力強く抱き着いて来ているおかげで身動きが出来ない。

取り合えず、二人が泣き止んで落ち着くまで背中を叩いたり頭を撫でてあげようと思っていると、ぼくも何だか気が抜けたのか目蓋が重くなって行く。

そういえば今日は朝から乗り物酔いになった体調を崩したり、戦闘を行なったりして結構体に負担をかけていたから限界が来たんだろうなと感じて、今度は深い眠りへと落ちて行くのだった。

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