母さんが消えた後にこそこそと何処かへと行こうとしているマリステラを見て、この人は逃げる気なんだなって感じる。
彼女がいったい誰で何で母さんと会わせてくれたのか分からないから聞きたい事が沢山あるけどまずは……
「それであなたは誰なんですか?」
「……いや、あーしはもう帰るんで」
「急に出て来たと思ったら帰るって何考えてるの?」
「あ、これ何言っても質問攻めされてどうしようもなくなる奴じゃん」
「質問攻めも何もこっちの聞きたい事に答えて貰ってないんだけど」
何でマリステラはそんなに嫌な顔をしているのだろうか。
そこまで触れて欲しくないのかもって思うけど、なら何でこんなことをしたのかという疑問がどんどん浮かんで来る。
「あーしはただお母さんの暴走を止めに来ただけよ、あの人が動くと世界に良い影響がないんだもの……、あなた達の事は本当についでだからほっといて欲しいわけよ」
「ついでってどういう事なの?」
「外で起きてる事を見たら協力せざるおえないでしょ?もう、ここ数年働きっぱなしで疲れてるから休みたいのにどうしてこうも厄介事ばかりなの?やんなっちゃうわよ」
「それって自分から問題抱え込んで辛くなってるだけじゃないの?」
「あなたねぇ……、仮にもこの世界の管理をしてる側にそんなこと言う?」
この世界の成り立ちを聞いてはいるけど管理者がいる何て聞いた事が無い……。
なのにこのマリステラと呼ばれる女性はこの世界を管理しているというけどいったいどういう事だ?
「管理ってどういう事なの?」
「……あなたはもう世界の成り立ちを知ってるから教えてあげる、この世界は六つの世界から切り取られて生まれた継ぎ接ぎの世界でそれぞれの神様達の力で維持されていた訳よ、その神様全員をお母さんやお父さん、そしてカーティスおじさんが討伐したわけなんだけど、そうしたら不安定な状況だった世界が壊れそうになっちゃったのよね」
「あ、そこは説明してくれるんだ」
「うるさいわね、愚痴も込み何だから黙って聞きなさいよ……、でね?徐々に繋がりが弱くなって崩れそうになった世界をどうしようかってなった時に、五大国の中で神々の器になれる人物を選出してその人達の中に、それぞれの国を繋いでいた神様の力を封じて人柱にする事で崩壊を止めたんだけど」
「そんな事お伽噺には無かったんだけど?」
お伽噺だと世界が救われて終わりだった筈だけど、本当はそんな事になってたんだなぁって思ってしまう。
でもまぁ実際の所過去にどんなことがあったとしても、今のぼく達が生きているこの世界がこうして存在出来ているのは過去の人達の頑張りによるんだろうな……
「こんなのお伽噺話に書いたらこの世界ヤバいじゃんで終わるでしょ!?、全くもうっ!でさ、その人柱の人達が後に五大国の王族となってそれぞれの国を治めるようになったんだけど問題があってねぇ、王族しか神様の能力を継承出来なくなったり能力が低い子が王位を継いで力を継承すると、その神様に身体を奪われてしまうという事が起きるようになったのよ」
「それってミュラッカに聞けって母さんが言ってなかったっけ?」
「言ってたけど、あなたもその王族の一人なんだから何れ聞くんだからそれが遅いか早いかよ、まぁそうやって身体を奪われて復活しそうになった神様を人柱と一緒に再度滅ぼして来たのがあーしって事、まぁ最近は王族の人達も色々と察したのかそういう事を起こさなくなったから楽だったんだけど、そうしたら次はSランク冒険者の【黎明】マスカレイドと【叡智】カルディアが協力してこの世界に穴を空けて、外の世界と一時的に繋げちゃうわ、それを見たお母さんが『元の世界に戻る方法を見つけた』とか言ってマスカレイドの元へ行って世界の禁忌を犯しちゃうわで、全然休めないのよ」
「あぁ……」
何ていうか師匠達がやらかさなかったらこの人がここまで忙しくなる事が無かったのかもしれない。
そう思うと弟子として申し訳ない気持ちになる。
「それ以降過去に行く為に世界に穴を空けて失敗したり、未来を見る為に強引に穴をこじ開けようとしてダメージを与えてくれたりでこっちの胃に穴が開きそうなの、で今度はあなたが『空間移動』という能力で世界に穴開けたでしょ?それを感知したお母さんが目的達成の為にこうやって暴れてるわけで、しかも【次元断】の能力はダートっていう異世界人が持ってるし、【時空間】に干渉する能力はダリアと言うあなたの子供が持ってるんでしょ?いい加減にして欲しいわよ、お母さんに対する超ご都合主義展開止めてくれる?あなたもしお母さんが異世界への扉を開けて強引に通ったらどうなるか分かってるの?」
「何ていうかごめん……」
「……謝らないでいいわよ、これはあーしの八つ当たりだから、もし異世界への扉を開けて強引に通ろうものならまだ塞ぎ切れてない穴や、治ってない傷が広がって世界が完全に壊れちゃうわ……、それに向こうの世界にも迷惑が掛かるでしょ……、だってお母さんは【自分に酷い事をしたあっちの世界を滅ぼして、今の自分は元の世界に居た時よりも幸せな人生を送っている】って見せつけたいだけなんだもの、多分だけどお父さんが亡くなって実力で止めてくれる人がいなくなったから暴走しちゃったんでしょうね」
「何て自分勝手なって思うけど、マリステラさんは止めたりしなかったの?」
「無理よ、あーしの魔力適正は高いけどお母さんや本気を出した王族より弱いし、魔力特性何て【精神干渉・能力反転】位で当てれば強いけど確実に当てられる自信がないしー」
自信がないって言われても王族達を倒せる程だからかなり強いと思うし、それ以上に特性が二つある時点で異常な気がする。
「何で特性が二つも……?」
「んー、魔力適正と能力値の合計が二十になったら増えるけど、適正は余程の事が無ければ変化しない数値だから教えられないかなぁ……、でもこの世界でSランク冒険者と言われている人やそれと同じ強さを持つ人達は、何らかの方法でその数値を越えて限界へと至った存在だから聞いてみた方がいいかもね」
「……そもそも数値が何か分からないんだけど?」
「それはまぁ栄花騎士団の団長さんか、あなたに対して絶賛初恋中のカエデちゃんに聞けばいいんじゃない?」
「……カエデがぼくに?そんな事無いと思うよ」
マリステラが残念な人を見るような顔をしているけどいったいぼくが何をしたというのか……
「あなたはほんとダートしか見てないのねぇ……、まぁそんな事だからもう話は終わりにするわよ」
「終わりってまだ……」
「続きは現実であーしに会う事が出来たら話してあげる、あーしが拠点にしているのは東の大国【メイディ】にあるからその内遊びに来たらいいわ……、まぁその時は【滅尽】焔の炎姫にマリステラは何処にいる?って聞いてみたらいいかもね、って事で外での戦いが終わったみたいだから時期に目覚める時間よ?」
「……え?」
……マリステラが言うように暗い世界が明るくなって行き、夜空と月が輝いて地面が雪に覆われた世界が広がっ行く。
それと共に心器の長杖が突き立てられていて美しい光景が視界に映るけど徐々に視界がぼやけて行き意識が遠くなる。
これが目覚めるという事なんだなぁって思っていると遠くの方から『ここで聞いた事は出来れば誰にも言わないでね、あーしと君の約束だよ』という声が聞こえたと同時に意識が再びなくなるのだった。