レースを取り戻す事が出来た後、何処か落ち着ける場所で話をしたいというカーティスさんの提案で無人のようになってしまった村の中をトキがレースを背負って歩いて宿として使っている屋敷に戻ると、ミュラッカとシンが死絶傭兵団の団員を縛って拘束していた。
「えっと、これはどういう事かな?……事と次第では実力で仲間を解放しなければいけないんだけど」
「カーティス様……、彼等にどういう指示を出しました?」
「安全な場所に行くようにと指示をしたけどそれがどうしたんだい?」
「この村で大きくて安全な建物と言えば、民宿として使われているこの屋敷位です」
「という事は、彼等は誰も居ないと思ってこの屋敷に侵入した結果捕まったって事か……」
カーティスさんが困ったような顔をするとミュラッカの方へと歩いて行く。
「あ、親父ーっ!屋敷に入ったら何か不審な人物がいて追い出そうとしたら掴まっちまったっ!」
「だんちょーっ!助けて―」
「パパ……、あ、いえ団長っ!私がいたらぬばかりに……」
「ボスっ!こいつらつえーぞっ!俺が手も足もでねぇっ!やるなら本気出した方がいいぞっ!」
カーティスさんの姿を見た傭兵団の人達が助けを求めるけど、私達からしたらいきなり押し掛けて来た不審者でしかないと思う。
でも……、赤い髪の人はやるなら本気を出した方がいいとか、虹色の髪の女の子は何かパパとか言ってるし……、それに彼と同じ髪色をした女性は親父って……、しかも三人以外の団員が殆んど小さい子供ばかりで傭兵団というより保護団体みたいな印象を受ける。
「あなたが、死絶傭兵団団長のカーティス様ですか?」
「うん、君は誰だい?」
「私はストラフィリアの第一王女ミュラッカ・ミエッカ・ヴォルフガング、覇王ヴォルフガング亡き後に王位を継ぎ覇王の座に就くです」
「王位を継ぐだって?時期覇王はヴィーニじゃないのかい?」
「ヴィーニ、私の弟である第二王子は王位を継ぐ気は無く……、父である現覇王ヴォルフガング・ストラフィリアを亡き者にしようとしています」
彼女の言葉を聞いた瞬間、カーティスさんの纏っていた雰囲気が変わり全身からどす黒い魔力を纏うと一瞬にして倍以上の巨大な蛇へと姿が変わると、口を開いて鋭い二本の毒牙を出してミュラッカに向かって尻尾を地面に叩きつけながら独特な威嚇音を出す。
それに反応する様にミュラッカの前に出たシンが、手の平から血のような色をした剣を出現させると守る様にカーティスさんへと向けて構える。
「小娘……、その発言は真実か?」
「はい、私の名に掛けて真実だと誓います」
「ならば、領主館にいた【ルミィ・ヴィティ・ヴォルフガング】と【ダリア】と名乗る少女は何故あそこにいた?」
「……私の妹である第二王女ルミィと、第一王子レースの娘であるダリア王女はヴィーニの手によって誘拐されて囚われてしまったのです」
「あのような幼子達を誘拐して実の父を殺害しようというのか……、俺達はとんでも無い奴に雇われていたようだ」
蛇の身体でどうやって声を出しているんだろうって思うけど、カーティスさんは尻尾を器用に使って囚われている団員さん達を虹色の髪の子だけ残して頭の上に乗せると……
「あれ……、パ、いえ団長、僕、あ、私は!?」
「サリア、君はミュラッカ王女を裏切者のヴィーニの元へ連れて行ってあげなさい」
「連れて行ってあげなさいって!私戦うの苦手なんだけどっ!ねぇってばっ!」
「戦うのが苦手だからミュラッカ王女に預けるんだよ、信用と信頼がない傭兵団の中で戦える者を残していつ命を狙われるのか分からない不安を残すよりも、戦う能力が低い人物を残した方が彼女に危害をこちらが与える気が無いという意思表示になるだろう?……、それに君は副団長で次期団長でもあるんだから何れ要人に雇われる事もこれから増えるんだ、今の内に慣れておきなよって事で、蛇の身体だとこの寒さは厳しいしこのまま南西の大国【メセリー】に先に行くから、やる事が終わったらサリアもおいでね」
「そんな無茶振りっ!そんなっえ?これほんとに僕置いていかれる流れってちょっともーっ!馬鹿団長ーっ!」
死絶傭兵団の団員達を乗せたカーティスさんが凄い速さでサリアと呼ばれた女の子を置いて行ってしまうと、彼女は縛られたまま器用にその場に座り込むと落ち込んだように黙ってしまう。
「あの……、サリアさん急に道案内を任されて不服かもしれませんが、明日になったらヴィーニの元へ行きたいのでお願い致します」
「ん、分かったけど、その言い方正式な依頼として判断するので死絶傭兵団お財布担当事、この副団長である僕サリアちゃんが後で内容にあった依頼内容の見積もりを作るので目を通して欲しいですね」
「えぇ、分かりました、ではあなたのお部屋を用意するので今日はそこでおやすみください、シン様行きますよっ!」
「あ、あぁうん」
「ダート義姉様達は、村で何かの騒ぎが起きた事はこの屋敷からでも見えたので分かってはいるけど、どうしてレース兄様が意識を失っているかの説明が欲しいから、レース兄様を部屋で寝かせたら私の部屋に来てください」
……ミュラッカはそういうと嫌な顔をしているシンの手を取って屋敷の中へと戻って行く。
その光景を見たサリアが思わず『あの二人ってどういう関係なの?』と呟きながら二人に付いて行くのを見た私達は、ミュラッカに言われたようにレースを部屋に運んで寝かせると彼女の部屋へと向かうのだった。