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第5話 二人の指輪

 師匠上がってきた後、『何でそんなところで立ち話してるの?、リビングがあるんだからそこで座って話しなさい』と言われてしまう。

確かに階段を上ってすぐの場所でついつい話し込んでしまったけど、もし下から誰かに覗き込まれて居たら無音で口を開いたり閉じたりする異様な光景が広がっていた気がする。

でも患者さん達は診療所の奥に入れないようになってるから大丈夫だろうけど、それでもちょっとだけ軽率な行動だった気がする。

そんな事を思いながら皆でキッチンに移動すると、四ヶ月位無人だった筈のそこは埃一つない程に綺麗に掃除されていて綺麗なままだった。

もしかして師匠達が掃除してくれていたりしたのだろうか……、もしそうだったら申し訳ない気持ちになりつつも嬉しい気持ちになる。


「二人共驚いたでしょー、あなた達がいない掃除して貰ってたのよ?」

「掃除して貰ってた?」

「えぇ、スイちゃんに治癒術を教える以上はこれくらいやって貰わないとねぇー」

「家政婦さんのような服を着せられて涙目になっている姿はかわいそうでしたね……」

「ソフィちゃん考えてみなさい、私から治癒術を教わる事が出来るのよぉ?しかも無料で、それを考えたら掃除くらいして貰って当然だと思うのよねぇ」


 スイにはぼくが居ない間に苦労を掛けたようだから、今度改めてお礼を言いに行かないといけない気がする。


「……師匠、スイに治癒術を教えるのはもう止めていいよ、彼女にはぼくが教えるって約束してるからさ」

「あらそう?、ならお任せしちゃおうかしらね、だってあの子最近私の顔を見ると怖がるから全然進まないから困ってたのよぉ、それよりもレースちゃん……、その髪色なのだけど偽装の魔導具はどうしたのかしらぁ?」

「あぁ、トレーディアスで色々とあって壊れちゃってそのまま……」

「そうなのね……、それなら今ここで作ってあげるから左手を出しなさいダーちゃんもね?」

「え?私もですか……?」


 ぼく達は師匠に言われるがままに左手を出すと、何故か薬指に綺麗な宝石が1つだけはめ込まれた指輪を付けると心器の鉄扇を顕現させる。


「師匠これは……?」

「お義母様?」

「ちょっと黙ってちょうだい今から複雑な作業をするから……、私はソフィちゃんやレイドみたいな細かい魔力の制御はそこまで得意ではないの」

「カルディア様はめんどくさがって魔力の量でゴリ押してしまいますからね……」

「出来ない訳では無いのよぉ?でも、性格が合わないだけなの」


 それぞれの指輪に回路が刻まれていく。

それは規則的に計算されたようになっていて、魔導具を作成した事のないぼくには何がどうなって言るのか分からないけど、これが偽装の効果を発動させる術式が刻まれた回路なのだろう。


「今術式を二つずつ刻んでいるからこのまま動かないでねぇ?、レースちゃんには偽装と術の発動を補佐する回路を、ダーちゃんには魔力を通す事で結界と治癒術が発動する回路ね?、あなたは魔力だけは私と同じレベルに至ってはいるけど治癒術に関しては覚える事が難しい性格をしているもの……、だからマーシェンスでレイドが魔科学の研究の末作り出した魔導具作りの技術を使わせて貰ったのよぉ、あそこでは魔力を通せば誰でも一定レベルの治癒術が使えるのよ?」


 宝石と指輪にそれぞれの回路が刻まれると、まるで波のように引いては押し寄せて行くように感じる美しい模様に感じて思わず見とれてしまいそうだ。

ぼくのについてる宝石は透き通った緑系の色に光の反射のせいだろうか六方向に光の線が通ってまるで星のようになっていて引き込まれそうな不思議な感じがしてしまうし、ダートの方はバラのように綺麗な色をした石が付いていて、左手の薬指に付けられた指輪に見惚れているかのように見つめて動きが止まってしまっていた。


「これは二人にプレゼントする結婚用の指輪よ?、まだ正式な夫婦では無いけど何れ一緒になるのだもの」

「結婚用の指輪っ!?お義母様から用意して頂くなんてっ!」

「いいのよ?だって、レースちゃんのペースに任せると何時までもこの子用意出来ないだろうし、待ってるダーちゃんの方は辛いでしょう?だからこういうのは男に逃げ道を作らせない方がいいのよぉ?ねぇソフィちゃん?」

「……指輪の宝石の方は魔王である私からお二人へ送る贈り物です、カルディア様が指輪の準備をしていると言いだした時はこの人何言ってるの?と思いましたけど」

「でも私の無茶なお願いを聞いてトレーディアスから、二人の誕生石を用意してくれたのには感謝してるわよ?、レースちゃんにはダーちゃんの誕生石である【スターベリル】を、ダーちゃんには【ロードナイト】を付けてあるのよ?どんな時も二人が一緒にいられるようにって意味を込めたのぉ」


 誕生石が何かは分からないけど、もしかしたら意味のある物なのかもしれない。

でもなんか聞いたら行けないような気がして黙っていた方がいい気がする。


「お義母様っ!、そこまで考えてくれる何てありがとうございますっ!……でもちょっと聞きたい事があるのですが」

「ダーちゃんどうしたの?」

「……もしかしてレースって先月で19歳になりました?」

「……まさか知らなかったの?ちょっとレースちゃん!?どうしてダーちゃんに教えてないの!?」

「どうしてって言うタイミングが無かったし、それに先月はストラフィリアの一件があったから単純に言うのを忘れてたわけで……」


 この場にいた三人が『こいつまじで言ってんの!?』と言いたげな顔をしたかと思うと、一斉に溜息をつき……


「まぁ……、レースちゃんはこんなのだけどダーちゃん宜しくね?」

「ダートさん何かあったらお姉さんが相談に乗りますから、いつでも王城やこの都市の領主館に来てくださいね?」

「はい、ありがとうございます」

「レースちゃん、ダーちゃんの事を大事するのよっ!?絶対よ!?、一応だけど未来のお嫁さんの誕生日は知ってるのよね?」

「1の月の22だったよね、コルクから教えて貰ったから覚えてるよ」


 この都市に診療所を移して暫くした後にコルクが訪ねて来て教えてくれたから覚えている。

当時は何でそんな事を言いに来たのかと疑問に思っていたけど、今は教えてくれた事に感謝しかない。


「……ならいいけど、取り合えずこの件に関しては後は二人で話し合いなさいねぇ?」

「話し合い?」

「これからは二人の人生何だからって事よぉ……、さて個人的な事はこれ位にして魔導具は出来たからレースちゃんが聞きたい本題の方なんだけど、その前にソフィちゃん?」

「カルディア様どうかしたのですか?」


 ソフィアの方を見て悪戯な笑みを師匠が浮かべると口元を鉄扇で隠して楽しそうな声を出す。


「防音の魔術を使う前に、空間魔術が使われて無いか調べる癖を付けましょうね?私の耳の周囲の空間と二階の空間を予め繋げといたから全部丸聞こえだったわよぉ?、あなたはもう立派な魔王なんだから気を付けるなさいね?」

「そんなの出来るのカルディア様位ですよぉ……」

「あら?あなたならもうそろそろ探知系の新しい術を作れる筈よ?、私の【叡智】にそう書いてあったもの」

「……それってカルディア様のこの助言がきっかけですよね、んもう分かりましたぁっ!後で作りますぅ!」

「よろしい、それでこそ私の一番弟子だわ……、さてという事で全部聞いていた上で私から言わせて貰うのだけど、レースちゃんは診療所で働くのを週に1日にして他の日は冒険者として活動しなさい、今のあなたではどんなに頑張っても限界に至れないもの、強さを求めるなら遠回りをした方がいいわ?、それにねぇレースちゃんってこの都市で治癒術しか使えない雑魚として見られてるそうじゃない、このままだと教会所属の治癒術師達に診療所を潰される可能性があるから、実力を示して黙らせなさい」


……いきなり冒険者になれって言われて理解が出来ないでいるぼくに、更なる追い打ちをかけてくる師匠を見て思わず思考が止まってしまう。

ぼくがこの都市で雑魚だと思われてる事に関しては過去にグランツに誘拐された一件のせいだ。

当時の光景がこの都市に人達の印象に強く残ったらしく、【治癒術師は戦う力が無い弱者】として認識されてしまったらしい。

でもそれが原因で教会所属の治癒術師達に潰されるっていう理由が分からない、先にここで活動していたのはぼくだからそんな権利はあちらには無い筈だ。

そんな事を考えながらも、大事な場所を守る為ならやるしかないのかもしれないと思うのだった。

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