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第10話 環境の変化

 冒険者ギルドを出た後そのまま帰路に家に帰ろうと二人で夜の都市を歩いていて思ったけど、良く考えたら長い間空けていた家に食材がある分けが無く……。

このままだと何も食べずに寝る事になる、何ていうかストラフィリアに居た時は決まった時間になるとシチュー等身体が温まる食事が出て来くるという、恵まれた環境に慣れてしまっていたせいか、家に帰ったら既に食事が用意されているものだと思ってしまう辺り、悪い影響を受けてしまっているのかもしれない。


「……んー、さすがにこの時間に精肉店や八百屋とかのお店は開いてないよね」

「うん、私の記憶と変わってなければもう今日は終わっちゃってると思う」

「だよね、こういう時ストラフィリアだったら既に夕食が出来ていて運ばれてくる時間だから違和感が凄いや」

「あぁ、分かるかも……、でもこれからはまた私とレースの二人で作る生活に戻るんだから早く慣れないとね、それに――」


 途中でダートの声が小さくなって顔が赤くなってしまう。

何か言いづらい事があるのだろうかと心配になってしまうけど、聞いていい事かどうかわからない。

彼女の事だから必要な事なら後で話してくれるだろうから、今は聞こえなかった事にした方が良いだろう。

ぼくがそう思っていると、何故か自身のお腹を触りながらぼくの方を見て来る。


「あのね?レース……、私ストラフィリアで贅沢な生活をしているせいでね?」

「……ん?」

「少しだけお腹周りにお肉が付いたっていうか、ついて欲しい所が増えないでどうしてそこにっていうかね?」

「あぁ……、あそこの食事は栄養価高かったからね」

「だからね?お義母様やジラルドさんに会った時特に何も言わなかったけど、心の中で太ったとかって思われてそうで恥ずかしくてね?、それにコーちゃんも帰って来てるって事は何れ会うじゃない?だから痩せたいの……」


 自身の胸を押さえてついて欲しい所に脂肪がと言われても正直何て言えばいいのか分からない。

ぼくから見ると確かに少しだけ肉付きが良くなった気はするけど、気にする程太ってはいないと感じる。

どちらかというと健康的な範囲だと思うから大丈夫だと思うんだけど言い方次第では傷つけそうな気がして悩んでしまう。


「レースもやっぱり私が太ったと思う?」

「いや?むしろそれ位の方がかわいいと思うから、ぼくは気にしないよ」

「かわいいって……、何言ってるの!?」


 ……こういう時は気を使うよりも素直に気持ちを伝えた方がいいのかもしれないと思ったから言葉にしてみたけど、今度は先程よりも更に顔を真っ赤にしてしまう。

もしかしてだけど久しぶりに余計な事を言ってやらかしてしまったのかもしれない。


「ば、ばーか!レースのばーかっ!そうやって直ぐに私が嬉しくなることを言うんだからっ!もう知らないっ!あぁ、褒められたらお腹空いたなぁ!何か美味しいの食べたいっ!」

「……あぁ、それならあそこの飲食店に入ろっか、アキラさんとジラルドの三人で何度か入って事あるんだけど美味しいからおすすめだよ?」

「ほんとっ!?じゃあ行くよレースっ!」

「行くよってちょっと!?」


 ダートがぼくの腕を引っ張られながら飲食店へ入って行く……。

そういえばこのお店に初めて訪れた時は、アキラさんと出会った時だったから色々と懐かしい気がした。

あぁ、ぼくの日常が帰って来たんだなって思うし、やっと日常が戻って来たんだと感じて嬉しくなる。


「いらっしゃいませーっ!何名様ですか?ってやだっ!レースさんじゃないですかっ!お久しぶりですぅ」

「二名です、……えっと店員さんはレースのお知り合いですか?」

「何度か来店して貰ってる間に仲良くなっちゃってぇ、特にもう半年近く前ですけど私の不注意でお皿を落として割ってしまった時とか、慌てて拾おうとして指を切った怪我をした時治してくれたんですよ、でもずっと来てくれて無かったので何かあったのかなぁって」

「……実はレースが私を実家に挨拶の為に連れて行きたいって言う事で暫く里帰りしてたんです」

「だから最近見なかったんですねっ!それに素敵ですぅ!もし結婚式をする時があったら美味しい料理を提供しますのでいつでも声かけてくださいねっ!……ところでレースさんずっと黙ったままですけど大丈夫ですか?」


 とはいえ来週になったら冒険者としての仕事で始まるし、それ以外にもマスカレイドやシャルネの事で暫くしたらまた忙しくなるだろう。

特に前者の場合は本人から接触してくる事は今の所無い気はするけど、後者はいつ襲撃してくるか分からない不安がある。

グロウフェレスやケイスニル、それに姉のガイストという格上の相手が来た場合どこまで抵抗出来るのか分からない。

そういう意味でも時間を見つけてアキラさんから武器を使った戦い方と、師匠から魔術について教わって少しでも実力を付けておかないとダート達をいざという時守れない。


「あぁ、何か考え事してるみたいだから気にしないであげて?」

「そうですか?でしたら空いてる席が沢山あるのでお好きな所へどうぞ」

「沢山あるってこの時間飲食店なら人が沢山来ても……」

「本当はそうだったんですけどねぇ、都市になって以降王都から来た料理人が大衆向けの飲食店を始めたりしたおかげですっかりお客さんを取られちゃいましたね、今はこのお店の味を気に入って通い続けてくれている古参の常連さん達のおかげで生活出来てる感じですねぇって、このままだと立ったまま長話しちゃいますし、後でご注文を聞きに行きますので座ってくださいね」

「うん、レース行くよ?」


……ぼくが考え事している間にダートが何やら店員さんと話していたみたいで、今度は手を繋がれると空いてる席に着く。

考え事をしてしまうと自分の世界に入り込んでしまう癖だけは中々治らないなと思いながら、テーブルの上に置いてあるメニューをダートから受け取るのだった。

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