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第11話 自分なりの考えと家族の在り方

 昨日は食事が届いた後ゆっくり食事をしながら二人でこれからについて話してからぼく達の家に帰り明日に備えて早めに寝る事にしたけど、まさか本当に部屋が一つになっていてさらにはベッドまで一つになっているとは思ってもいなかった。

トレーディアスやストラフィリアではダートと一緒のベッドで眠ったりした事があるから多少は慣れたとはいえ未だに多少の気恥ずかしさはある。


「またか……」


 取り合えず片腕がまたダートの枕になっているけど布団の中で話した内容を思い出す。

冒険者として活動するにあたり覚えなければいけない決まり事に関しては彼女を見て学ぶ事になった。

実際にどういう事を守らなければいけないのか等を聞いたりしたけど、教えて貰った知識と実際に経験して得るものは違う、だからこそこういう時は高位の冒険者を見て学んだ方がいいって言うのがある。


「何で腕に頭を乗せてダートは寝たがるんだろうなぁ……」


 どうしてかというと過去にぼくが治癒術を教えて貰う時に師匠を見て覚えたり、魔術の手解きをマスカレイドから文章を読みながら学んだ日々を思い出すとぼくの場合、物事を覚える為に必要な方法は『誰かに教わって実際にやってみる』という事だ。

とはいえこれに関しては今まで自分がどうやって自覚が出来ていなかったのか良く分かって無かったけど、師匠にカエデを預けられて治癒術を教えている間に自分がどうやって人から学んで来たのかが分かるようになって来た。

カエデからしたらぼくの教え方は『感覚的』らしいけど、そんなぼくから教わって実際に治癒術の使い方が飛躍的に上昇しているのを見ると彼女にもあっているらしい。

とはいえ教える度に体を内側から壊して治癒術でゆっくりと直していくのって、師匠から教わって来たから結果的にそういう教え方になってしまったとは言え正直良くないと思う。


「でも最初は凄い痛がっていたのに、顔を赤くしながら今日もお願いしますと教わりに来たあの姿勢見習わないとなぁ……」


 とはいえ皆がカエデみたいに積極的に教わりにくるわけでは無いと思うから、スイに教える時は彼女がどうやれば覚えやすいのかを実際に聞きながらやってみよう。

現に師匠がぼくと同じやり方で彼女に教えた際には、トラウマになってしまったのか自分から教わりに行く事が無くなってしまったらしいからその方がいい。

それにぼくからもスイに教わりたい事があるから、こちらからしたらある意味お互いに先生と生徒の関係になる筈だ、そういう人が嫌がるような事は出来ればしたくない。

魔力の糸を相手に伸ばして遠距離で遅延する事無く治癒術を発動させる技術、独学で治癒術を学んで来たスイがどのようにして出来るようになったのか……


「とりあえず空いてる方の手でダートの頭を極力動かないように支えて、枕を腕の合った場所におけば……」


 何時までもベッドの上で考え込んでいてもしょうがない、多少無理はあるけどこうやって彼女の頭を支えて腕を動かせば腕が解放されるのは経験済みだ。

特にダートは一度深い眠りに付くと中々起きないから枕が変わっても問題無いだろう。


「……ん?」


 何か起き上がろうとしたら妙に身体がだるい気がするし、彼女の服装が昨日同じ布団に入った時と違う気がするけど多分夜間に眼が覚めて寝間着に着替えたのだろうし、ぼくの身体が重いのも久しぶりの自分の家で休んだから、ストラフィリアで溜め込んでいた様々な疲労が出たのかもしれない。

きっとダートも同じように疲労が出てしんどいかもしれないから、疲労回復に効く朝食を作ろうと思い、ベッドから起き上がって部屋から出ると……


「……何かいい匂いがする?」


 キッチンの方から美味しそうな匂いがする。

子供の頃良く師匠に作って貰った料理を思い出すような気がして懐かしくなるような、おかしい、この家には今二人しかいない筈なのに何故?、警戒してキッチンの方を覗き込むとそこには……、


「……師匠?」

「あらぁ、レースちゃん起きたのね?、もう直ぐ出来るからリビングで座ってて待ってていいわよ?」

「あぁうん、ありがとうって、どうしてここに師匠がいるの?」

「どうしてって折角この都市に滞在しているのだもの、可愛いレースちゃんとダーちゃんのお世話をしたいじゃない?、だから朝食を作りに来たのよぉ」

「……ぼく達はもう子供じゃないからそれ位自分で出来るよ」


 お世話をしたいって言われてもぼくはもう19歳になったし、ダートに至っては後少しで16になる。

成人が10歳であるこの世界では正直言って既に良い大人だから、いつまでも子ども扱いされるのは正直気恥ずかしい物があるしいつまでも自立できない気がして嫌だ。


「そんな露骨に嫌そうな顔しないでも分かってるわよ?、レースちゃん達は既に立派な大人だもの……、でもねぇ親からしたら例え義理の母とは言えあなたは何時まで経っても可愛い子供だし、その子のお嫁さんも同じ位可愛いのよぉ」

「そういうものなんだ……?」

「そういうものよ?、あなたがダーちゃんとの間に子供が出来たらこの気持ちが分かるかもねぇ……、私も人の親になるまではこの気持ちが理解出来なかったものぉ、それに……」

「それにってどうしたの?」

「食料を保存する為の魔導具の中に食材が何も入って無いのに、いったい何を作ろうとしていたの?まさか空気に香りを味付けして吸って食べるとか言わないわよねぇ?」


 ……食材が無い事をすっかりと忘れていた。

師匠が来てくれてなかったら間違いなく、何も入っていない冷蔵と冷凍保存用の魔導具の扉を空けて無言で立ち尽くす事になっていただろう。

多分それを察してくれて朝食を作りに来てくれたんだと思うと、家族とはこういうものなのかもなぁって感じて暖かい気持ちになる。

もしぼくが亡くなっている実の両親『ヴォルフガング・ストラフィリア』と『スノーホワイト・ヴォルフガング』の元で育っていても、同じ感情を持つ事が出来たのだろうかと少しだけ思ってしまったけど、ありえざる時間に思いを馳せてもどうしようもない。

でも……、実父の最後の行動とかを思い出してはあの時のあの人はどんな気持ちだったのか、どういう風にぼくを見ようとしてくれていたのかと考える時間が増えたし、実母に関してはもっと話したい事が沢山あったから、最近になってやっと二人に生きていて欲しかったという気持ちが湧いてきて複雑な感じだ。


「……いつも以上に難しい顔してるわねぇ、取り合えずレースちゃんの好きな料理を沢山作っておいたから食べて元気出しなさいよぉ?」

「うん……、取り合えず気になるんだけど師匠はどうしてストラフィリアから帰って来た事に対してあれこれ聞かないの?ぼくの出自も知っていたみたいだから色々と言いたい事とかないの?」

「そりゃあレースちゃんの出自とかは知ってはいたけど、無事に帰って来たのならそれで私は満足してるからいいのよぉ、正直誘拐されたと聞いた時はあの国を滅ぼしに行こうとは思ったけどそれはそれでこれはこれというものね、だから私からは特に何も聞かないしいつもの通り接するのよ……、さぁご飯出来たからダーちゃんの事起こしに来るわね?」


……師匠がリビングのテーブルに料理を持ってきて置いて行くけど、とても食べきれないような量が出て来て言葉に詰まってしまう。

これは残った分は魔導具の中で保存して少しずつ食べて行った方がいいかもしれないと思っていると、鼻歌を歌いながらぼく達の部屋に入って行く……。

するとまるで面白いものを見たような声を上げて戻って来たかと思うと……『昨晩はお楽しみだったのねー、二人の仲が更に良くなったみたいで安心したわ?』と言ってダートを起こしに戻っていった。

……昨晩はお楽しみの意味が分からないけど、仲が良いのは確かだから別に良いかなぁと思うのだった。

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