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39(414歳)「王子様の呪い? 病気? を治療する」

 目を覚ますと馬車の中だった。


「アリスちゃん!?」


「はい」


 ママンが膝枕してくれてた。


「……あぁ、良かった」


「【時計クロック】――げ、1時間も眠ってたんですか」


「いくら【リラクゼーション】しても起きてくれなくて、本当に心配したんだから! 第二王子殿下に求婚されたのが、そんなに衝撃的だったの?」


「ぎゃあ!」


 やっぱり夢じゃなかった再び。

 いかん、また意識が遠く――


「【リラクゼーション】!」


「はうっ……はぁはぁはぁ」


 ママンの精神安定魔法でなんとか持ちこたえた。


「うふふっ、国王陛下がどう仰るかは分からないけれど、もしお許し頂けるのなら、またとない良縁じゃない」


 ママンは朗らかに笑う。


 いや、コミュ障喪女にリアル王子様はキツイって! しかもマジイケメンで【闘気】持ちでオーガの集団と斬り結べる系王子様だよ!?

 そんな人に手にキ、キスされて、きゅ、求婚されるとか、心臓壊れるわ!


「で、ででででも私の年齢のこととか」


「殿下は確か御歳13。男女差で考えれば全然問題なしよ」


「……精神年齢の方は」


「あー……まぁそこは、どのみち国王陛下には【勇者】のことやあの部屋のことは打ち明けるのだし。殿下にも打ち明けて……どう思われるかは、その時次第ね」


「気持ち悪いとか、思われないでしょうか……」


「うーん……実際に体験したお母さんたちに忌避感はないけれど、未体験の人がどう思うかはなんとも言えないわね……」


 下手な気休めは口にしないママン。むしろその方が、気が楽になった。

 出たとこ勝負だ!


 しかしこの年になってときめいたり、受け入れてもらえるか不安になったりするとは……。

 しかも相手は13歳。私って実はショタコンのケがあったのか?

 まぁ元日本人の感覚からすると、西洋人風の人たちって一回りは年上に見えるから、私からは王子様が高校高学年~大学生くらいに見える。

 だからセーフか? うーん。


「ところで、お父様は?」


 パパンが馬車の中にいない。【探査】しても馬車の周りには3バカトリオしかいない。


「あの人は第二王子殿下と騎士の方々を連れて、先に最寄りの宿場町へ行ったわ。【瞬間移動】でね」


 ちなみに馬車がいるのは私とパパンが魔物の集団暴走スタンピードの森へ転移する前と同じポイント。

 私が起きていないと私の【瞬間移動】のマッピングにならないので、わざわざ待ってくれていたらしい。


「何かあったんですか?」


「実は……」



    ◇  ◆  ◇  ◆



 あのあと急に、王子様が倒れた。


 理由は魔力と集中力切れ。

 もともと王子様は体が悪く(あれだけ動けて!?)、治療のために先ほどの森の先にある温泉(行きたい!)で湯治していたのだそうだ。

 なので、『倒れた』といっても『いつものこと』なので、そこまで緊急性や悲壮感があるわけではないらしい。


 というか一国の王子のそういう極秘話を簡単に話しちゃっていいわけ?

 あぁ、相手が【王国の守護者】一家だから問題ないですか、そりゃそうか。


 で、王子していた湯治様が……じゃなかった湯治していた王子様が、社交シーズンになって王都に戻る途中に、たまたま魔物の集団暴走スタンピードが発生したと。


 それで【瞬間移動】や【魔力譲渡マナ・トランスファー】が使えるパパンが、王子様の付き添いを申し出た、と。


 第二王子様のことは、パパンの授業で聞いている。

 国王陛下と王妃様の間に生まれる2人の王女様、そして一向に生まれてこない嫡男。そんな折、側室の1人が男児を産み、数年遅れて王妃様が産んだのもこれまた男児――それが、先ほどお会いした第二王子様だ。


 第二王子様はさっき見た通りの恵体で、その恵まれた体格に胡坐をかくことなく鍛錬に励み、その実力はつい先ほど見せて頂いた通り。


 オーガの首を斬り飛ばすってのは、並みの冒険者や兵士にはできない芸当だ。


【闘気】が使えるってことは、何がしかの武術――恐らく【片手剣術】――が達人レベルの6に達している。その上【闘気】も相当使いこなしているご様子だった。

 剣術LV6と言えば、私が数百年剣を振り続け、魔物を屠り続けてようやく到達した境地だ。


 つまり第二王子様は、マジもんの天才で武人。

 さぞかし軍で人気があるだろう。


 逆に第一王子は文系で、自然と軍務閥が第二王子派、内務閥が第一王子派って感じに派閥形成されていった。

 ちなみにこの国に外務閥はいない。外交イコール魔王国との戦争だからね!


 ――サツバツ! ナントカ閥だけに!


 正室から生まれて武勇に優れた第二王子と、側室の子でありながら長男である第一王子。

 そして、第二王子の湯治の帰りに運悪く魔物の集団暴走スタンピード発生?


 うーん……?



    ◇  ◆  ◇  ◆



 パパンからは、『目が覚めて動けそうなら、【瞬間移動】移動で宿場町まで来い。お前の【鑑定】の力を借りたい』との伝言が残されていた。


『【瞬間移動】移動』というのは、馬車の屋根に乗って、視界の先へ先へと馬車ごと【瞬間移動】で前進していくという、MPオバケにのみ許された超高速移動方法。


 道行く人たちを仰天させながら宿場町に到着すると、町の入り口に立っていた騎士さんに高級宿へ案内された。


「アリス・フォン・ロンダキルア様をお連れしました」


 騎士の声に、


「入ってくれ」


 ドアの奥から、王子様の声が聞こえた。

 部屋に通される。


 ちなみにママンと3バカトリオは宿を取ったり馬の世話をしたり馬車の整備をしたりと、各々の仕事中。


「……失礼致します」


 部屋の中にはベッドで上半身を起こしている王子様と、そのそばにはパパンと見知らぬローブ姿の人――いい服着てるし、たぶん馬車の中にいたお医者さんか治癒系の魔法使いだろう――、あと壁際に騎士が5名。


「はは、そなたに情けない姿は見せたくなかったが……」


 恥ずかしそうに笑う王子様。

 ……マジか。マジでこの人、私のことを気に入ってくれているのか。

 む、むずがゆい……けど不快じゃない。前世でついぞ感じることのなかった感覚だ。


 顔が熱くなる。【リラクゼーション】! ……はぁはぁ。


「それで……ジークフリートから聞いたのだが、アリスなら私の病の原因を調べることができるとか?」


「はい、恐らくは」


「バカな!」


 いい服着たお医者さん? が反発した。


「筆頭魔法使いの【鑑定】でも原因が分からず、どんな医者が調合した薬でも、万能薬エリクサーですら効果がなく、宮廷筆頭魔法使い殿の治癒魔法でも治らなかった、原因不明の呪いなのですぞ!? 剣に優れ、家臣たちからも慕われている殿下が、なぜこんな呪いに蝕まれなければならないのか……うっうっ」


 ……ん? 宮廷筆頭魔法使いレベルの治癒魔法でも治らない?

 なんか引っかかる。んーとりま症状を聞いてみよう。


「どのような症状なのですか?」


「まず強い倦怠感だ。特に足に力が入らない。以前よりも足がむくんで、しびれを感じる時が増えた。【闘気】をまとっている時は大丈夫なんだが、【闘気】を切ると胸が激しく鳴り、少し動いただけでも息切れする」


 ……おや?

 もしや【鑑定】するまでもないのでは?


 そもそもこの世界は病気も治癒魔法で治る。

 ちゃんとした詠唱をすれば、細菌でもウイルスでも退治できるっぽい。

 少なくとも私が城塞都市の治療院で治療した破傷風、白死病けっかく、インフルエンザは全て治癒魔法で治った。


 それなのに王子様のご病気が治らないから、お医者さんが『呪い』って言ってるんだろうけど……。


 パパンゼミの「一般常識講座」によれば、魔法で治せないのは栄養失調と出血多量のみ。


 栄養失調から発症する病はいろいろある。

 貧血、壊血病、夜盲症、くる病……。


 だからこそ異世界転生モノで、主人公が病人の食生活を改善させるだけで病気を直しちゃう医療チートって定番があるわけで。


 中でも日本で一番有名なのが、白米と牛肉ばっか食ってた江戸の上流階級がたくさん死んだ『江戸患い』。


 ――脚気だ。


「殿下、今から【鑑定】をかけさせていただきます。恐らく強い不快感を感じるかと存じますが、何卒ご容赦ください」


「はは、そなたのことを嫌いになどならないから、安心してくれ」


 キザなセリフなのに嫌味がない。

 ……なんというか尊い。非常に強力な尊みを感じる。


「で、では――…『殿下のご病気』を【鑑定】!」



 ************

 『殿下の病』

  脚気

 ************



「でっすよねー」


「ど、どうしたんだ?」


「あ、これは失礼を……ですが殿下、病の原因が分かりました。至極簡単に治せますよ」


「「「何っ!?」」」


 王子様とパパンとお医者さんの声がかぶった。


「そ、そんな……宮廷魔法使いで最も【鑑定】に優れた者でも分からなかったのに!?」


 興奮気味のお医者さん。


「失礼ですが、【鑑定】レベルを聞いてもよろしいですかな? これでも私は侍医長なのです。下手な薬を処方させるわけにはいかない」


「レベル8です」


「8ぃ!? 宮廷筆頭魔法使い殿ですら7だというのに」


 その情報、バラして良かったの?


「お薬なんて要りませんよ。食生活を変えるだけで治ります。

 まず、白米ではなく玄米を、牛肉ではなく豚肉を食べてください。ニンニク炒めなんてオススメです。あとレバーも食べてください。ご飯のおともにはぬか漬けがイチオシです。お酒のおつまみには枝豆がいいですね。お魚ならカツオがおススメ。カツオ節ならいろんな料理に使えますし。あ、肉はあまりしつこく洗わないでください。大事な栄養が流れちゃいますから。

 というわけで、とりあえず――あ、殿下、【アイテムボックス】は使っても?」


「もちろん構わないさ」


「【アイテムボックス】! こちら、ニンニク入りレバニラ炒めです」


「「「「「「「な、ななな……」」」」」」」


 いきなりホカホカの料理が出てきたことにビビる王子様その他。

 いやぁ、最近でもことあるごとに【1日が100年になるワンハンドレット・部屋ルーム】に潜るんだけど、そこで作りすぎた料理が【アイテムボックス】内でひしめき合ってるんだよね。

 まぁピンポイントでレバニラ炒めが入ってたのはたまたまだけど……。


「どなたか【鑑定】で毒がないことをご確認願えませんか?」


 私が出したものを私や私の身内パパンが【鑑定】しても意味がないからね。


「アリスの手料理なら問題ない!」


「いやいやいやいやさすがにダメでしょう!」


 さっそく箸を取る王子様からお皿を奪い取る。


「私が【鑑定】しましょう」


 侍医長様が名乗りを上げた。


「【鑑定】! 殿下、毒はございません」


 さっそく美味しそうにレバニラ炒めを頬張る王子様。

 か、家族以外の男性に手料理を振舞ったのって、実は初めてなんだよね……。

 なんか、胸の奥がぎゅってなる。


 トニさんとジルさんはって?

 おりチームはもう家族以上の存在だから……。

 早くディータが大きくなって、一緒に養殖できる日が来ないかなぁ……。


「もぐもぐ……それにしても、なぜ私の食生活がそこまで分かるんだ? 確かに白米と牛と野菜、果物などが食事の主体だ。油は体に悪いからと、肉は何度も茹で、洗っていると私付きの料理長が説明していた」


「栄養ですよ、殿下。食事はバランス良く摂らなければなりません」


「うむ。料理長もそれはよく言っていたし、バランスの良い食事を出してくれていた」


「ですがこの『バランス』という中にもいろいろあるのです。一言で肉と言っても、ある種の栄養が豚には豊富でも牛には少なかったり、特定の野菜が特定の栄養素を豊富に蓄えていたり、と。殿下に不足しているのは『ビタミンB1』です」


「びたみん……?」


「……か、【鑑定】で出ました。【鑑定】レベル8は、調べればなんでも出てきますから」


 やっちゃった。さすがにこの世界観でビタミンB1なんて言っても伝わるわけないっちゅうねん。


「と、ともかく、先ほど申し上げた内容で食生活を改善すれば、もう大丈夫です。数日もすれば調子が良くなってくるでしょう」


「強いだけでなく叡智まで……ますますもってめとりたい!」


「か、【鑑定】のおかげですから……ところで、同じような病に苦しむ方は、周りにおられないのですか?」


「重度の患者は殿下だけです」


 王子様の代わりに侍医長様が答える。


「ですが、他の王族や上流貴族には軽度ならば同じような症状の方は多い。アリス様の叡智は、そんな方々をお救い下さるでしょう」


「殿下の料理長という方は、王族の方々の料理を作っておられるのですか?」


「私の料理長が作るのは私の料理だけだ。父や兄とは住んでいる宮が違うから」


 ふむ……。


「ありがとうございます、殿下。立ち入ったことを聞いてしまい、申し訳ありません」


「構わないさ。私の治療のためなのだし」


「それで殿下、明日からはどうされますか?」


 侍医長様が王子様に指示を仰ぐ。


「アリスはどうするんだ?」


 王子様に聞かれ、


「王都へ向かいます」


 答える。


「じゃあ私も一緒に行くぞ!」


「「……へ?」」


 ハモる私とパパン。


「もともと、まったく動けないわけじゃないし、数日で回復するんだろう? 私の目的も、王都に戻ることなのだから」


 言いつつ笑顔でじっと私の顔を見つめる王子様。


 顔が熱くなるのを感じる。

 む、むずがゆいわぁ~~……。


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