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第72話アイテム職人は王城へ向かう

「なんか違う気がする。」


 鍛え上げたひと振りをかざしながら違和感がぬぐえない。


 エリュトロンからの注文を受けて二週間が過ぎている。毎日工房に入っていたのだが思うような槍先が打ちあがらず、ずっと打ち続けていた。


 正直こうなると自分が納得の物ができるまで止まらない。


 製作が始まって一週間、炎効果のある魔石と相性のいい鉱物を見繕ってはインゴットをつくり打ち続けるがしっくりこず、出来上がったものを次々兄に押し付けてカバンに納まらなくて溢れた店に陳列してあった武器たちを取り返していく。


 一週間でかなりの失敗作を作ったので兄の鞄から8割取り戻せたので結果オーライとしよう。


 ルリの鍛冶はまず相手を見てイメージを固める。そこからその人に合う武器をこさえるのだが、何が違うのかどれだけ打ってもしっくりこない。


 今回ルリがエリュトロンから受けてイメージは「火」だがそれだけではない気がする。何かうまく言えないが他の気配がある。


 「もしかして大前提が間違っているのかもしれない。これはもう一度会わないとだめかもしれない。」


 しかしそうなると王都まで行かねばならなくなる。


 「うぅーん。」


 もしも王都に行くならばまたあの極楽男に会う羽目になったら嫌だし。でもこのままじゃ正直手詰まりだ。注文を受けたからにはしっかりとした仕事がしたい。


 「こ、これも仕事だし。」


 マジックポーチを肩から斜めに下げてバックの蓋を開き、槍と弓矢をいくつか鞄に吸わせていく。ついでに魔石を大小いくつか入れる。


 「念のため鑑定紙も持っていったほうがいいかもしれない。」


 引き出しから真っ白・・・の羊皮紙を出して丸めるとこれまた鞄に吸わせて羽ペンも入れる。これで準備はできたが……。


 「不安しかない。魔道具持っていこうかな。」


 念のために手のひらサイズで赤と緑色の鳥型魔道具も入れておく。


 「よしっ!」


 ちょっと気合いを入れてから寝室のベッドに置いている牡鹿のぬいぐるみを抱えて表に出る。


 「ジョン、ちょっと出かけてくるねー。」


 ぬいぐるみに魔力を込めるとそれは立派な牡鹿になる。「よいしょ」と何とも可愛げのない掛け声で横座りをして手綱代りに角を持つ。


 「ではしゅっぱーつ!」




 風のように駆ければ王都まではすぐについた。人目のつかないところで牡鹿をぬいぐるみに戻すと王城門前にたたずむ。


 来たはいいが特にアポもないので入る手立てがない。うろうろしてても不審者になってしまうだろうし、どうしたらいいのだろう。ダメもとで聞いてみるべきか。


 いくら何でもいきなり罰せられることは無いだろうし。


 ごくッと喉を鳴らして門番に近づく。堅牢な門が威圧しているようにさえ感じる。北の領主さまの館に納に行くことはあったがさすがにこれほどの圧迫感はなかったであろう。


 「あの、すいません、騎士団からの注文で剣を納めに参りました!入らせてください。」


 そういいながら首から下げている木簡を見せる。


 この木簡はある一定の基準を満たした鍛冶師だけに配布されるいわば身分証明証で、ルリの名前、出身工房、授与された日付が記載されている。


 「鍛冶職人か。今日納品が来るなんて連絡は受けていないが?」


 「あ、あの、エリュトロン・ショゥビーン様のご依頼で……。」


 しまった、所属聞いた気がするのに覚えてない。


 「ああ、第四師団なら今日は演習場だからな。入れ。右の壁沿いに行けば演習場に行ける。」


 「ありがとうございます。」


 木簡すげぇぇぇ!とか単純に思いつつ言われた通りに進めば高い壁に囲まれた一角を見つける。おそらく入り口であろう2mはあろうという木造りの観音扉を開けていいものか悩んでいたその時だ。


 ドゴォォォ!!


 「!?」


 悩んでいたらまさかの内側から扉が開いた。というより何かが転がり出てきたと思ったら獣人だった。ゴロゴロと転がって壁にぶち当たって止まるのを呆然と見つめてしまう。


 「あの、大丈夫ですか……?」


 不安になってそっと近づいてみれば、ガバッとその人は顔を上げる。砂まみれだが大丈夫あろうか。


 「だいじょーぶ!ってかキミどこの所属?制服じゃないよね。」


 思いのほかぴんぴんしているその人に呆気にとられつつも、先ほどのように通じるだろうか。と不安に思いつつも木簡を出してみる。


 「あ、鍛冶職の人?初めて見るねぇ。御用達先の新入り?女の子なんて珍しいねぇ。」


 「あ、のえっとショゥビーン様の……。」


 「あ、隊長?個人で呼んだのかな?まぁ、いいや。おいでーちょうど今演習訓練でそこに……。」


 さわやかな笑みで言いかける男の声にかぶせるように別の方から声がする。


 「おーい。どこまで飛んでったんだー?」


 「あ、隊長!お客さん!」


 「お客?そんな予定は……。」


 開いた扉と反対側にいたルリは中からは死角となっていたようで、声の主は外に顔だけ出すとルリと視線があう。


 「ルリ……殿?」


 「あ、あの……。」


 突然のことにどう説明したものか悩んでルリは口をはくはくさせている。そんな様子をどう思ったのか、エリュトロンの瞳にルリが移りこんでいるのすら見えるし近距離で熱が込められた目がトロンと緩み口角が上がった。


 「どうされ……ました?ご連絡いただければ私が参りました……のに。」


 「あ、あの打ち合わせのものでは思うようなものができなかったので、何振りかサンプルを持ってきましたので、お試しいただきたいと思いまして。」


 あまりの場違いに言ってて情けなくなってきて俯いていると、黒い革靴が視界に映る。


 「それはわざわざありがとうござい……ます。丁度演習場が使えますので試させていただいていい……ですか?」


 どうぞと促されて足を踏み込めばすぐに階段があり、30段ほど降りると大きな段差で男の人の腰ほどある高さだ。先ほど転がった男はその段差を軽々降りていき、続いてエリュトロンも降りようとしたが足を止める。


 「?」


 何事かと見上げれば「失礼します」と上から声がかかり次の瞬間には高く開けた視界に目を見開く。


 「捕まっててくだ……さい。」


 「!?」


 何をするのか予測してルリは慌ててエリュトロンの首にしがみついたが、着地の振動はなくふわりと形容するにふさわしいほど音もなく着地する。


 慌てて離れようとするがそっと背中に回された手に身を固める。


 「あの……。」


 兄弟以外にこんなことされたことのないルリは戸惑って下ろしてもらおうと声をかけようとしたが、その前にこちらに気づいた数名の騎士に囲まれてしまう。


 「あ、隊長なにしてんすか!」


 「一般人攫ってきちゃだめっすよー!」


 口々に軽口を言われてルリはどうしていいか戸惑う。しかし言われているエリュトロンは特に動じることは無いものの、ルリを抱える腕に少しだけ力を入れる。


 「ちょっと場所を使うぞ。お前たちは少し休憩だ。」


 大きくないはずなのによく響く声に騎士たちはあっという間に壁側へと散って座ったり持たれたりしているが、その視線は変わることなくルリとエリュトロンに向けられていた。


 エリュトロンはそっとガラスのモニュメントでも置くように丁寧な手つきでルリを地面に立たせると穏やかな表情で向き合う。


 「それで、何をすれば……いい?」


 あまりにも優しげな顔に一瞬動きを止めたが、慌ててカバンを開き三本の槍を取り出す。


 「火と、風、水の魔石がついた槍です。打ち合わせの時は火だけを考えていたのですがなんだか違う気がしましたので、ショゥビーン様と相性のいいものを見極めたいのですが……。」


 そこまで言い終えたルリの視線に合わせるように少し屈んでエリュトロンは囁くようにつぶやく。


 「どうか……エリュトロンと。名で呼んで……?」


 「あ、えーと。はい。その。……エリュトロン様と相性のいいものを見極めたいので気になったものから振ってみていただけますか?」


 そういって三本を差し出すとエリュトロンは赤い槍を受け取り、ルリから離れて演習場の真ん中に来ると槍をブンブン回して構えを取る。張り詰めた空気がピリピリとして周囲の騎士たちも何が始まるのかとじっと上官であるエリュトロンに注目する。


 刃先を横水平にすると上に振り上げて踏み込みと共に刃先を勢いよく振り下ろすとグゥォォっとすさまじいうねりと共に炎が上がった。


 ただの素振りに火が噴出したことで周囲からどよめきが上がる。踏み込んだ本人も驚いて動きを止める。


 ルリは数歩前に出るとエリュトロンに向かって声を上げる。


 「殺気は抜いてください。魔力を流しすぎると火傷しますからー!」


 遠くからの声にハッとしてエリュトロンは息を吐く。体の余分な力を抜いて再度振ると先ほどよりも威力は下がるが刃先に炎がともる。


 「はぁ、まるで舞いみたい。」


 火を纏いながら続けられるそれは演舞のようだとルリは思った。これが人を傷つけず守るものならばいいのに……と見つめながらルリは思った。

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