旧友の外出を見送って、リジュナは言われた方向へと歩き出す。
「ん?何の音?」
ゴッゴッと鈍い音がしたかと思うと、次にはコンコンと軽い音がする。
「……なんだか身に覚えがあるような。」
建物の角を曲がろうとしたとき、声が聞こえてくる。
「もう!ちゃんと真ん中から割らないと使い物にならないって。」
なにやらユイエがあきれた声を出している。
「あははははは。ユイエに怒られてるぅ~。へたくそぉ~。」
「ん?」
聞きなれない少女の笑い声。
「何してるの?」
リジュナの声に少女たちが振り向く。
「あ、ヴィルゴちゃんか!」
ピンクの髪にハートをあしらったひらひらスカートのロリータ少女。ユイエの星霊である処女宮のヴィルゴ。いつもは赤いピコピコハンマーを手にしている彼女だが、今日はその手に斧が握られているわけだが、この光景は何ともシュールである。
「なんでヴィルゴちゃん呼んでるの?」
「や、メインはあっちなんだよ?」
ユイエに指さされた所にいるのは、今や居候と位置付けられた二人の男ヒース・エルロンドとラウス・エルロンド。二人の手には同じように斧が握られている。
「まき割?」
「うん。リーシャがね、客じゃないんだから自分の食い扶持分くらいは働けって。でも二人とも下手なんだもん。」
確かに足元を見れば木の破片やら大きさのバラバラな薪が転がっている。
「あ、でもこの二本はきれいに割れてるよ。」
なんとかフォローを入れようとリジュナは真っ二つに割られた気をさす。
「あ~。あれはヴィーのお手本だよ。」
「お手本?まさかそのためだけにヴィルゴちゃん呼んだの?」
「うん。リーシャがヴィーにさせるようにって。ヴィーちゃん、もう一回見せてあげて。」
「はぁ~い。そこの人ちょっとどいてぇ~。」
後ろから声を掛けられて男たちは動きを止める。今までの人生でこんなこと言われたことがない。
(そこの人?)
まるで道行くおじさんに声をかけるような物言い。腐っても貴族である彼らは今までこんなことを言われたことがない。しかもこんなロリータ(少なくとも見た目は)に言われるとは。
「えいっ!」
かわいい掛け声と同時にパカンと小気味いい音を立てて気は二つに割れ、地面に落ちる。
「もう、男の子なのにこんなこともまともにできないのぉ~?」
とどめの一言だった。
貴族の彼らができなないのは至極当然なことなのだが、どうもこのロリータ(しかも頭悪そう)にできて、自分たちにできないというのは悔しいらしく闘志が燃える。
今に見ておれピンクロリータっ!
それが彼らの合言葉。何をするためにここにやってきたのか、目的も忘れてまき割に没頭する。
「うまく乗せられているねぇ。」
「これもリーシャちゃんの計算なのかなぁ?」
少し離れたところで傍観しているリジュナとユイエ。
「これだけですむかなぁ?」
「え?」
ユイエの言葉にリジュナが疑問符をもらす。
「だって、リーシャだよ?」
思わず見つめあう二人は口をそろえる。
『絶対まだある!』