敵襲という事が聞こえた瞬間に場の雰囲気が変わる。
顔を赤面させてヘルガにプロポーズをしていたジョルジュや、二人を見て微笑まし気な表情を浮かべていた皆が顔を引き締めて腰に差した剣を抜く。
「……ヘルガ、あなたは大剣を抜かないの?」
「あれはリーチが長いので森では不向きですので……」
「マリス様、ヘルガのあれは空間魔法を利用して別空間から取り出すものなので……」
「えぇ、リバストから教えて貰った平民でも使える魔法ですが、奇襲に対して優秀ですし何よりも男性とは比べて一撃が軽くなりやすい女性でも、必殺の一撃を放つことが出来るのが利点ですね」
別空間から取り出しているという事は、ピュルガトワール家に伝わる空間魔法の一つ【空間収納】を利用しているのかもしれない。
近くの空間を切り裂いて中に別の空間を作り出す魔法だけれど、術者の熟練度によって収納できる量が決まる見えない道具袋のような便利な物で、私もやり直し前の人生では使う事が出来たけれど、人生をやり直す事になってからは魔法を教わっていないから人前で魔法を使った事がない。
「という事なので──」
「……え、う、うそだろ!?」
「ど、どうした!」
前方から護衛騎士の狼狽えるような声が聞こえる。
そうして悲鳴が聞こえたかと思うと、動揺が伝達したのか徐々に武器を手に持ち動きが止まりはじめ……
「何をしているのかしら……」
「申し訳ありませんアデレード様……、止まるな!応戦しろ!」
「ジョ、ジョルジュ様、で、出来ません!相手は……相手はっ!」
泣きそうな表情を浮かべながらこちらを振り返る護衛騎士を見たヘルガが無表情で前に出ると、そのまま彼らを無視して走っていく。
「相手が何者であれ敵であるなら斬りなさい!たとえそれが……自分達を育ててくれた恩師だったとしても!」
ヘルガを避けるように護衛騎士が道を開けて見えた襲撃者の姿に思わず息を呑む。
何故ならそこにいたのは、行方不明になって死んだ筈のリバストと護衛騎士達で……力なく脱力した体を左右に揺らしながら、血に濡れた剣を手にして歩いて来る姿に私も動揺を隠す事が出来ない。
「……残念ですリバスト、あなたが魔族の手に落ちる何て、何か言い残す事はありますか?」
近づいて来るヘルガに気付いたのか、生気のない顔を上げる。
そうして虚ろな瞳を細めて睨みつけると振りぬかれた剣を指を吸う方犠牲にしながら手で掴む。
「……我らが母であり、愛しき娘、サラサリズ様の為に」
「どうやらもう、冷静な判断すら出来ないようね……、ジョルジュ!リバスト護衛騎士隊長は私が相手するので、あなたは護衛騎士隊長の代理として指示を出しながら他の相手をしてっ!」
「……分かってる!聞いたか!あれはもう俺達が尊敬し、信じたリバスト護衛騎士隊長ではない!アンデッド系のモンスターとの戦闘を思い出して各々三人一組で対応しろ!いいか!死ぬ事はジョルジュ・クレール・ジルベールの名において許さん!」
「……りょ、りょうかい!」
ジョルジュの号令に従い、三人一組のチームを組むと正気を失った護衛騎士達に向かって行く。
その姿を見て小さく頷くと私とお母様を見る。
「アデレード様、マリス様、こうなってしまった以上ここは戦場です、お二人の命を最優先に守らせて頂きますが、もしもの時は……」
「問題無いわ、魔族の討伐に出た以上この身に危険が及ぶのは当然よ?それに貴族は貴族としての仕事があるの、だから……ここは私の仕事をさせて貰うわ」
「……承知致しました、でしたら我々の被害は気にしないでください」
「あなた、何を言っているの?先程かっこよく、ジョルジュ・クレール・ジルベールの名において死ぬ事は許さんと吠えたばかりじゃない、上に立つ者がころころと自分の意見を変えるべきでは無いわ、だから……こういう時は私にお願いしてみなさい」
「ですが……いえ──」
何かを言おうとしては躊躇っているジョルジュを見ると、言いたい事があるならさっさと言って欲しい。
「お母様、私からお願いします……ヘルガを、他の護衛騎士を守ってください」
彼が判断に迷っている間にリバストと戦っているヘルガが体格と性別の差のせいで圧されているのが見えて、黙って我慢をしているのも限界だ。
だからお母様に私からお願いをしたけれど、答えてくれるだろうか……。
「……娘に言われたら応えない訳にはいかないわね、ジョルジュ、あなたは護衛騎士隊長の代理として慕われてはいるようだけれど、人の上に立つにはまだ早すぎたようね……マリスを見なさい、この子は自分よりも立場が上の相手にも意見を通そうとする勇気があるわ、我が娘ながら誇らしいわね、あなたも騎士として上に立つのなら同じような事が出来るようになりなさい」
「……肝に銘じておきます」
「よろしい、ならこれはピュルガトワール辺境伯婦人アデレードからの命令よ?私が敵を無力化したら彼らの首を斬りなさい」
「……承知致しました」
お母様が扇を閉じて杖を持つかのように前に付き出すと、先端に魔力の光が集まっていき、徐々に青白く……バチバチとした音が聞こえ始めたかと思うと、光を空へと向けて打ち出す。
それが空の雲に吸い込まれると、一瞬で黒く染まり地上へと向けて無数の雷が降り注いだ・