謎の亀裂から現れたカードはまるで俺達を観察するように生徒一人一人の周囲を回り始める
「な、なんだこれ!?」
「カード!?」
「ってことは何か!?あの先にあるのってデュエル世界なのか!?」
カード名は……さっきから移動しているせいで読みにくいな……だがカード単体でここまで自由意志が働いてるってことは間違いなくユニークレアだろう
「はいちょっとごめんよー」
「ーーー!?!?」
「何も悪いことはしないから少しだけ大人しくしててねー、ほいセット完了」
「スキャン開始……完了。
出していいぞ」
「はい、いいよ。
ごめんねー」
「ーーー!!」
先生達は空中に浮遊していた謎のカードを掴んでスキャン装置に入れてからすぐに解放した。
謎のカードは何やら怒っているようにも見える
「せ、先生、そのカードは一体……?」
「まぁまて、今ディスプレイに映すから。」
先生達が端末を操作すると部屋の奥にある大型ディスプレイに拡大されたカードが投影された
「何アレ……?」
「まっさら……?」
「名前もないぞ?」
そこに写っていたのは名前にコスト、攻撃力、HPすらも表示されて無く、ただただ白紙のカードであり、カード効果が書かれている欄に"可能性の卵"とだけ表示されていた
「このカードは通称"ブランクカード"。
見ての通り完全な白紙の状態のカードであり、そのカードの性能や姿がまだ定まっていない特殊なカードだ」
ブランクカード……初めて聞いたな。
これほどの存在であればある程度噂になっていてもおかしくないのだがそんな噂が出ているなら俺の方でも少しは掴めているはずだ
「このカードの存在に関しては徹底的なまでに隠蔽されていてる……これが世間にバレれば最悪奪い合いになりかねない」
「どういうことですか?」
「簡単さ、このカードは所持していた者のプレイスタイルに最適な姿へと進化した上で確実にユニークレアへと進化するんだ」
「ッ!?!?」
そんな事が広がればどうなるかなんて想像に難くない……どう考えても争いのたねにしかならないだろう
するとブランクカードは俺の周辺をなぜかぐるぐる回り、俺の手元へとやってきていた
「どうやらブランクカードは浅麦を選んだらしい」
「基本的にブランクカードは他のプレイヤーにはないプレイスタイルを持つ者を選ぶ傾向にあるとされるが……」
その瞬間全員の視線が再度俺へと集中した……まぁ自覚は無いわけじゃないが
「あぁ、ただブランクカードの存在そのものが隠蔽されていただけでブランクカードから進化したユニークレアのカード自体はそこそこいるんだよね」
「特にそのうちの一体はかなり有名だから誰もが一度はテレビ越しでみているはずだ」
有名……?こんなカード状態で動き回るような……ん?
「もしかしなくても現チャンピオンのあのユニークレアもその一つですか?」
「正解だ」
現チャンピオン"竜崎 剣矢"……職業は騎士から派生した竜騎士であり、防御向きのカードを攻撃に使ったり、防御向けのカードを攻撃に転用したりとかなり話題性の絶えない人物だ
そのプレイこそ破天荒ではあるが正々堂々とした勝負を好み、ユニットと自身による正面からのぶつかり合いをメインとした戦いも相まって実力至上主義者達からもそれなりに尊敬を集めている……と言いたいがそのうちの半分程からは妬まれている人物だ
更に彼の相棒とも言えるユニークレアカード《聖竜騎士・グランドラグニール》はユニークレアでありながら進化を果たし、違うカードへと変化した数少ないカードとしても有名だ。
進化前の姿は《竜騎士・ドラグニール》であり、相手を倒す度に再行動を行うという強いカードではあったが進化した事によって更に敵を倒す事に《アビリティブースト:5》を得るというとんでもない能力まで追加されていた
彼は間違いなく名実ともに最強のプレイヤーである上に噂では世界が破滅の危機を一度迎えた際にそれを仲間とともに止めてみせたと言われている
それはそれとして何をどうしたら世界の危機をカードゲームで解決するなんてカオスな展開になるのか甚だ疑問なんだがな……
そしてこのユニークレアカードは現実への強い干渉を行う事が出来る数少ないカードであり、現実の肉体とカードとしての肉体の両方を持ち合わせているらしい
「さて、さっきのブランクカードが出てきた原因はこの機械な理由なんだが……先に今回の授業のもう一つの目的について話させてもらおうか」
もう一つの目的か……
「実は先程我々の方で君達のタブレット端末とデュエルフィールドからデータを取り出してからこの装置を使うことでデュエル世界に情報のみをデュエル世界へと流していたんだ」
「情報のみ……ですか?」
「あぁ、デュエル世界は無数にある平行世界の塊のような空間だ、だから中には電子的なデータのみで構成されたデジタルな世界もある可能性があるという仮説を立てたんだ」
……確かに可能性としてはあるだろうがまさかたったそれだけで実行したっていうのか?
一見理屈が通っているように見えるがだいぶ無茶苦茶だぞ
「まぁ元々可能性しか無かったんだがこちらから観測する手段は無くてね、今回の授業のついでに検証実験もさせてもらった。」
「結果としては成功だが……観測された世界の情報は然程得られなかった。
やはり電子的な世界なだけあってこちらから干渉するのは難しかった」
それにしてもデュエル世界への干渉が出来るなんてまだ公表されてない情報のはずだ……まさか実力者を集めるようなこの歪な学習環境の最大の理由はデュエル世界にあるのか?
「浅麦、そのブランクカードはお前を選んだ。
我々としては調べたい事は既に調べ終えたからな…。
あぁ、先に伝えておくが進化したら我々教師陣に伝えてくれると助かる……まだブランクカードから派生したカードについては情報が足りない」
「分かりました」
俺はブランクカードを手に取り、胸ポケットへと収納する
……何故だろう、ただしまっただけだと言うのに何かこのカードとの繋がりのような違和感を感じる
他のユニークレアを手にとっても感じなかったこの違和感は一体……?
「ひとまず今日の授業はここまでだ」
「我々はしばらくここに残って解析を続ける為このまま解散してくれ」
俺達は先生の指示へと従いそのまま教室へと戻っていく
「浅麦君!本当に凄いです!やっぱりユニークレアを何枚も持っているだけあってデュエル世界からも注目されているんですね!」
「どうだろうな……」
確かに俺の持つユニークレアはまるで使いこなしてみろと言わんばかりに癖の強いカードが揃っている
今までの傾向から考えると今回のカードも今までと同様にかなり癖の強いカードになるだろうな
それにしても面倒な事にならないと良いんだが……
—————1週間後—————
分かりきっては居たが貴重なブランクカードを手に入れたせいか周囲からの辺りが一気に強くなった
「ぐっ……くそ!覚えてろ!」
先程も1人倒した所だがたった1週間で上級生含めて10人程が挑みに来ていた
「あ、浅麦君やっぱりここに居ました」
「ん?久慈川さん、どうしたんだ?」
「そ、それが……!」
久慈川さんがオドオドとした様子を見せているとその後ろから見覚えのある人物が現れる
「やぁ、久しぶり。
噂には聞いてたけどずいぶんと暴れてるみたいだね」
「俺が問題児みたいな言い方しないでくれます?生徒会副会長"桜木 ハルト"先輩」
「おっと、バレてたのか」
ギガフロート行きのフェリーに乗っていた時話しかけてきたハルトという人物……この学園を調べて生徒会副会長の名前と顔を見た瞬間にコイツだとすぐに分かったから最初は驚かされたがな……
「改めて自己紹介しようか。
僕は2-Aの"桜木 ハルト"、君が知っている通り生徒会の副会長をさせてもらっている」
ついでに言えば桜木先輩の実家である桜木コーポレーションは一般にデュエルフィールド等の『DaR』関連の設備を卸している大企業の一つであり、その御曹司である桜木先輩はこの世界においてかなりの権力者とも言える存在だ
「それで要件は……やっぱり"ブランクカード"の件ですか?」
「それもあるっちゃあるんだけど……先に謝らせて欲しい。」
「はい?それは一体どういう……」
すると桜木先輩は凄くバツが悪そうな顔をし始めた
「うちの会長……重度のバトルジャンキーでね……実力者と戦えるとなると授業やら生徒会の仕事を放り出してでも戦おうとする悪癖があるんだ。
入学当初から君の噂はそこそこ流れていたし確実にうちの会長は目を付けるだろうと思ってたから僕達の方で噂を止めてたんだけどね……会長が君と一戦交えたいそうだ」
「あー、今回の"ブランクカード"の件でいい加減隠しきれなくなった訳ですか……」
「うん……うちの会長基本手加減とか知らないから下手しなくても相手の自信とかそういうのをへし折っちゃうのもあって止めたんだけどね」
桜木先輩は何処か遠い目をしながら言った
「まぁ聞いた限り元々時間の問題だったっぽいですし良いですよ」
「そうか、済まないね。
デュエルは明日の放課後、生徒会室で行うとしよう。
君も一緒に来てみるかい?」
「へっ!?い、良いんですか?」
「あぁ、君も浅麦君のお友達なのだろう?
なら僕達としても断る理由の方がないからね」
「あ、ありがとうございます!」
それにしてもさっそく厄介な事になったなぁ……よりにもよって相手はあの生徒会長……上級職相手のデュエルはまだ勝率が安定していないからほぼ確実に負けるだろうな
俺の実力で一体何処まで喰らい付けるか……