目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第61話 手掛かりとユニークレア


俺は勝負が終わった後すぐに郷田の下へと向かうが案の定と言うべきかデッキがどんどん黒く染まって塵となっていく。

それに加えて郷田の着ている装備も真っ黒に染まりきっており、ここまでくると今後まともにデュエルを行えるとは思えなかった。


だがそんな中、俺は塵となっていくカード達の内1枚だけ塵になっていないカードを見つける。


「こいつは……」


俺が見つけたのは《狂戦士・ベルセルク》。

郷田が使ってきた《侵食》されたユニークレアの1枚だが何故か《侵食》という文字は消えている。


俺はこの瞬間ある事に気がついた。

《侵食》されたカードはデュエル中に《封印》を受ける事によってその影響を完全に取り除けるのではないか?


そして少し妙だったのが今回倒した《侵食》されたユニット達が倒されても消滅せず死亡扱いになっていた事だ。


もしかしたらこいつの職業の装備が黒く《侵食》されていた事と何か関係があるのだろうか?


「先生!」

『あぁ、分かっているよ。

ひとまず郷田君を彼の控室まで連れて行ってくれ。

そこからは我々が引き継ごう。』


俺は郷田を抱えて対面側の控室まで移動する。


カードについては《狂戦士・ベルセルク》以外は1枚も残らず塵へと崩れ去っていた為に《狂戦士・ベルセルク》だけ回収して残りはその場に放置しておく事にした。




控室に到着すると既にそこには葉風先生と他の研究仲間と思われる白衣を着た職員が揃って端末を起動して何か調べ物をしていた。


「運んでくれてありがとう。

郷田はそこのソファーに寝かせておいてくれ」

「分かりました。」


俺は郷田を控室のソファーへと戻すと『デュエルフィールド』のシステムを一部切ったのか俺と郷田の装備が学園の制服へと戻っていく。


「あー、やっぱりだ。

『デュエルフィールド』システムのログに大量のエラーが発生しているね。

このシステム自体は並大抵のカードや職業を読み込ませるだけなら何も問題無いし意思を持ったユニークレアを読み込ませても本体の姿を模倣した幻影を作り出してそっちに意識を移すくらいには何でもありなシステムだ。

それがエラーを起こしてるってことは……」

「本来デュエルでは一切想定されていない事が発生しているって事ですか?」

「その通りだ。」


俺はその時、以前侵食されたユニットから受けた痛みを思い出す。


「例を挙げるとしたら多分君が思い浮かべたであろう事がその一つだろうね。

それにカードの消滅……これも明らかに異常事態だ。」

「先生、郷田のカードなんですけど……」


俺はその場で唯一塵とならなかった《狂戦士・ベルセルク》を取り出した。


「あいつのカードの中で唯一このカードだけが塵にならずに残ってました」

「本当かい!?」

「っ!そう言えばこのカードは確かデュエル中に君が《封印》を付与していたね……もしかしたらそれが原因か?」

「何にせよこれである程度は手掛かりを掴めるはずだ。

すまないがそのカードをこちらで預からせてもらっても良いかな?」

「俺のカードって訳でもないですし構いませんよ」


俺は素直に葉風先生にカードを渡す。

職業的な問題もあるから俺が持っていても腐らせるだけだしな。


「助かるよ。

確か浅麦は生徒会入りがほぼ決定していたね。

流石にあの試合を見てお前の生徒会入りを反対する教員はそう出ないだろう。

何か進展があったら伝えよう」

「よろしくお願いします」


たまたまだったとはいえ《狂戦士・ベルセルク》が残ってくれていて助かったな……これで少しでも手掛かりを追えれば良いんだが……


「そう言えば先生、B組の担任は……?」 

「あぁ、彼なら今頃取り調べを受けているよ。

現状一番の容疑者は彼だからね。」


問題としては現状状況証拠しか無いって点か……監視カメラとかの映像証拠を調べるのも時間がかかるだろうし進展までしばらくはかかるだろうな。


そんな事を考えているとデッキケースにしまってあるカードからプルプルとした振動が響いてくる。


「ん?」

「おや?どうしたんだい?」

「いや、なんかケースのカードが動いてるような……あ。」


動いているカードの正体を探ってみると、その正体は《怪物達の宴・いたずらサーカス団》だった。


カードが光を放つとそれは7枚のカードへと分かれ、元々1枚のカードとして融合する前に戻っていった。


「今のは……?」

「また珍しいカードだな」

「何か知っているんですか?」

「そりゃ勿論ね。

結構レアな事例ではあるが我々の間では"2面性のあるカード"、通称デュアルカードと呼ばれている特殊なユニークレアさ。

まさか君が《デュアルカード》まで持っているとは思わなかったけど」


俺は《デュアルカード》という言葉を聞いて今までに調べてきたこの世界のカードの情報を思い出す。


とはいえカードが変化するという事例はかなり少なく、今回の例はカードの進化とは全く別物のようなので思い当たる事例はすぐには思い出せなかった。


「まぁ君が知らなくても無理は無いさ。

現状発見されている《デュアルカード》は全てこの学園で発見されている上にまだ研究が中途半端で分かっていない事も多くてね。

まだ論文や事例として発表出来る段階じゃないんだ」


あぁ、なる程な……それは仕方ない。

ただこの学園でのみ発見されているという点は少し気になるな。


「とりあえずここは私達の方で調べておくからすまないが残りの授業は自習にするよう皆に伝えといてくれないか?

ホームルームまでにはなんとか戻るから」

「分かりました。

それでは失礼します」


俺は後の事を葉風先生達に任せて地下の控室を出る。


なんというか……今日は少し衝撃的な事が起こりすぎて少し気疲れしたな……


「……お前はなんで俺の所に来たんだ?」


俺は懐から《いたずらの化身・ランタン王ジャック》を見つめてそう呟くとまるで何か答えるように淡い光を放った。


こうして確認してみると本当にカード自体に意志が宿っているんだな……


「あっ!浅麦くん!」

「あ、やっと出てきたか!無事だったんだな浅麦!」

「久慈川さん、それに倉木もか。」

「心配してたんですからね!」


あー、まぁ郷田の奴の様子が明らかに異常だったからな


「それにしても今回のデッキ本気でエグかったな……手札にどんだけ圧力かけるんだよ……」

「別にあのデッキは冷静に考えていれば結構簡単に流せるもんだぞ?」

「どういうことですか?」


理由は簡単だ、それはあの《ニセモノ》を混ぜるカードの性質上の問題だ。


「基本的に《ニセモノ》はその場にある手札をすり替える。

だがターンの初めに引いたような新しいカードには《ニセモノ》は混ざりようがないんだ……まぁ例外はあるがな」

「例外ですか?」

「《ニセモノ》へのすり替えは既にすり替えられているカードにも有効だ。

だからドローが加速し過ぎていると最終的にデッキの下に移動した《ニセモノ》を引く事がある……と言ってもそこまで行くことは基本余程のことが無い限り無いだろうけどな」


基本的にこのデッキは《化物達の宴・いたずらサーカス団》か場に出た時点で殆ど詰みになるように組んでいる。


まぁ手札増やされてドローが5枚を超えてくると流石に抜け出されてしまう為、割と相性もあるんだがな。


「あれ?そう言えば浅麦君この間の争奪戦で手に入れたカードは使わなかったですよね?

ドローする前に勝てたんですか?」

「あー、それか……」


《簒奪者・アーマゲドン》か……正直引いていたか引いていないかで言えば中盤くらいでとっくに引いてはいたんだが……


「流石に《侵食》なんて能力までコピーしたらどんな悪影響が出るか分かったものじゃなかったからな……流石に使えなかった」

「「……あぁ」」


下手にコピーしてデュエルが終わった後も悪影響が残るなんて状況に陥りでもしたら洒落にならないからな。


「あれ?ユニークレア3枚採用してたんですよね?あと1枚は何だったんですか?」

「ん?困った時の最終兵器文明の破壊神・ロストディザスター

「「うわぁ……」」


割と本気でこいつは汎用性があまりにも高過ぎて合わないデッキが殆ど無い。

盤面を一掃するという能力があまりにも強すぎるのだ。


とはいえこっちの《いたずら》系のユニットも纏めて手札ごと消し飛ばされるから本気で最終手段なんだがな。


「つか浅麦ってユニークレア何枚あるんだよ……」


ん?ユニークレアの枚数か……


「少し特殊な名前の部分が隠されてて不明な《呪われた宝物》に自分のデッキ全損による特殊勝利持ちの《火を祀る民の秘宝・不死鳥の卵》、俺が初めて手に入れたユニークレアの《強欲なトリックスター・アルセーヌ=グリード》、困った時の《文明の破壊神・ロストディザスター》、さっきも使った《いたずらの化身・ランタン王ジャック》、争奪戦で手に入れた《簒奪者・アーマゲドン》あと何枚か別の職業の奴とまだ内容が分かってないブランクカードがあるな」

「「持ちすぎです(だろ)!?」」


まぁその代わりどれも癖が強かったりデメリットがあるから結構運用は難しいんだがな……《文明の破壊神・ロストディザスター》の汎用性が馬鹿みたいに高すぎるだけで。






改めて見てみるとほんと《ロストディザスター》だけ桁違いに使いやすいなコレ……




この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?