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第62話 占術士と生徒会

俺は放課後自分の部屋に戻った後、懐のデッキから《簒奪者・アーマゲドン》を取り出して見ていた。


「悪いな、使ってやれなくて。」


《簒奪者・アーマゲドン》は淡い光を放ちながら思念のような物を俺に送ってくる。


……"次は奪わせろ、暴れさせろ"か、なら次のデュエルはコイツを上手く使えるようにデッキをもう少し調整してみるか。


俺はデッキを調整するために部屋にある数百枚以上あるカードの中から特に相性の良いカードをコンセプトを決めながら厳選していく。


「ん?こいつは……」


俺はその中でも少し特殊ではあるが使いようによってはかなり有用なカードを見つけた。


「そう言えばまだこの系統のカードは使っていなかったな。

物は試しだ、組んでみるとするか……今日は徹夜だな」


俺は早速同じ系統のカード等シナジーのあるカードを絞り込んでからデッキを構築していく。


毎回デッキの構築は夜にやる為に徹夜が多いが今回に関してはそれをやるだけの価値がありそうだ。






「ふわぁぁ……眠い」


結局徹夜で3時までかかってしまった。

3時間程は眠れたが流石にまだ眠気が強いな……


「お?浅麦……って眠そうだな」

「そりゃぁね……」


この世界におけるデッキ構築にはどうしても時間がかかる。

そもそものカードパック自体が何故か1000年以上前から存在している上に毎年どころか3〜4ヶ月に一度のペースで新しいカードパックが現れては新しいカードが大量に出てくる為に所持しておく必要のあるカードの枚数が凄まじく多く、一つのデッキを作るのに同じコンセプトのカードを集めたとしても200枚以上出てくることがある。


俺は基本的に能力を持たないステータスのみのバニラカードと呼ばれるカードは採用することはまず無いためその辺は除外出来るんだが能力持ちはレアである割にコツコツ集めていると凄い量になってくる。


特に盗賊のカードは世間の扱いもありカードショップでは基本が捨て値で売られているため俺は他の人に比べて能力持ちのカードをかなり集めやすい環境に居るとも言えた。


「流石に徹夜し過ぎたな……今日はちゃんと寝るか」

「やっぱり徹夜だったか……」


「あっ!浅麦君ー!倉木君ー!」

「ん?久慈川か」

「久慈川さんおはよー……ふぁぁ……」


流石にもう少し徹夜は控えるようにするか……結構堪えるな。


久慈川さんとさっき倉木と話していた内容と同じような話をもう一度して俺達は今日の授業の話をする。


「今日は確か職業学とデッキ構築学の合同授業があるんだったな。

あの時のリベンジといきたいところだな」

「確か先生は『占術士』の予習をしておけって言ってましたよね?」

「これまた特殊な職業だな……嫌いじゃないが」


『占術士』2つある能力の内からランダムに効果が選ばれる《運命》と呼ばれる能力を持ったカードやデッキの一番上のカードや手札、仲間ユニットのコストが偶数、又は奇数であった際に特定の能力が発動する《予見》といったとにかく特殊なカードが揃った職業だ。


癖の強さだけで見るならば俺の使っている『盗賊』とかなり近い物がある。


特に《予見》の能力を主軸に戦う場合はその能力の都合上デッキに採用するカードの大半を偶数又は奇数で統一する必要がある為にかなり構築のバランスが難しくなる。


だが完全に統一してしまうと痒い所に手が届かない状態になってしまい中途半端にコストが余ってしまったり汎用性の高いカードを採用しにくくなってしまうため他のデッキに対する対応力が若干下がってしまう。


『フィクスシャッフル』を前提にしてもいいのなら偶数予見奇数予見も両採用しても全く問題ないんだがな……


「浅麦君は何か警戒している型とかってあるんですか?」

「警戒してる型……そう言われても逆に困るな。

基本占術士の効果はどれも警戒必須級の強力な能力ばかりだからな……。

強いて言うなら《運命》型で《アルティメットフォーチュン》使われるのだけは絶対避けたいくらいか?」


《運命》の能力は2つある能力からランダムに選ばれた効果が発動する能力であり、アクションカードでさえこの能力が付いている物がある。

狙った効果を出せるのは50%と考えればあまりにも運に頼りすぎていてそこまでの魅力は無いが《運命》型の『占術士』が絶対に採用しているレベルで必須級の職業アビリティ『予言』……この能力及びこの能力に関わるあるカードがこの型の『占術士』の恐ろしさを加速させている。


『予言』は消費アビリティポイントは18とそれなりに重い方だが使用する事により自身を《予言者》状態にし、《運命》の能力発動時にランダムで選択されるはずの効果を毎回自分で選択できるようになってしまう。


更に『占術士』のアクションカード《アルティメットフォーチュン》、これはコストこそ8とかなり重く、使用時に自身のアビリティポイントを30支払う必要がある為、馬鹿みたいに使用条件が重い。

だが一度でも発動してしまうと使用者は《運命の予言者》状態となり、《運命》の能力が両方共同時発動してしまう恐ろしい状態へと移行する。


正直ここまで行ってしまうとほぼ詰みと言っていい。

ただでさえ《運命》のカードはそれなりに強力な効果が多いと言うのにそれが二回発動するような状態になってしまう。


中には全体攻撃か自身の回復のどちらかといった効果のカードもあるがそれすらも両方発動するのだ。

ほぼ全てのカードがコストをかなり踏み倒したレベルにコスト不相応の能力になるためにまともな勝負にすらならなくなる。


「確かにアレって強力だけどそこまで警戒する程なのか?

必要なコストとアビリティポイント重すぎて使うタイミング無くないか?」

「いや、あのカードはポテンシャル高過ぎて盤面を無視してプレイヤー側に大ダメージが来ることを考慮しても最優先で使うだけの価値がある」


割と本気で一度使っただけで盤面をいくらでもひっくり返せるのが《運命の予言者》状態だ。


あそこまで行ってしまえば正直俺でもデッキ切れまで粘るくらいしか対処法らしい対処法が見つからない。




しばらく二人と『占術士』について話し合っているとちょうど本校者の入り口に到着する。


「あ、私と浅麦君はちょっと呼び出しを受けているのでちょっと生徒会に寄っていきますね」

「悪いな倉木」

「気にすんなって、大方生徒会入りの件か昨日の件での話なんだろ?」

「あぁ、この辺はあんまり詮索しないでくれると助かる」

「わかったわかった」


俺達は一旦別れ、俺と久慈川さんは生徒会室へと向かう。


「失礼しま……す?」

「へ?」


俺達二人は扉にノックをして生徒会室に入った途端その光景に固まってしまう。


そこには大量の書類の山に埋もれて死んだ目でひたすら書類に判を押し続けている生徒会長の姿があった。


「あー、これは機にしないでくださいっス。

割といつもの事なのスよ」


この異常な光景がいつものって一体どういう……?


「うちの会長はよく仕事をすっぽかす事が多いからね。

ただでさえデスクワークが苦手なのもあって毎回こんな量の書類を期限ギリギリまで溜め込むのさ。」

「あっ、桜木先輩」


だからといってあの量はヤバすぎるだろ……


「これでも我々で手分けしてかなり減らした方なんだよ?

でも結局会長が最終承認しなきゃ行けない書類が9割くらいはあるからね。」


その結果があの惨状というわけか……


「あぁそうそう、君達に署名してもらいたい書類があるんだよ」


そう言って桜木先輩が取り出したのは生徒会への加入に関わる書類だった。

どうやらこの辺の手続きに関しても色々と書類が関わってくるようだ。


書類の内容を一通り確認し、おかしい部分もないことを確認したので俺はその書類にサインして桜木先輩へと渡した。


「ありがとう、そして改めまして……ようこそデュエル学園生徒会へ!」

「はい!」

「よろしくお願いします」


生徒会か……ここの権限があればもっとデュエル世界について調べられるのだろうか?


この学園に入って今まで知ることの出来なかった情報を得ることが出来て……俺はデュエル世界というのが何なのかが気になって仕方がなかった。


無数にある平行世界や異世界の集合体のような物だと理解はしているが何故デュエル世界だけがそんな複数の世界と近い関係となっているのか……『DaL』のカードとはそもそも何なのか。


「あ、そうそう。

浅麦君がこの間叩き潰した郷田君なんだが……どうやら目を覚まさないらしい」

「……!

そうですか……やはり口封じでしょうか?」

「おそらくね……。

ただ浅麦君が回収したカードから通常のカードからは絶対に検出されないはずのデータやマルウェアのような物が検出された。

現在はこれを手掛かりにして捜査を行っているところだよ」


マルウェア……つまりはウィルスプログラムか。


そう考えると他のカードと一緒に使うだけで《侵食》が感染する可能性も考えるべきか?


「そう言えばB組の担任の先生は結局どうだったんですか?」

「彼も黒ではあったがトカゲの尻尾だったね。

他の連中と繋がる証拠はまともに出なかったよ」


随分と用意周到な……こうなると監視カメラなんかも期待薄だろうな


「ともかくこれでハッキリとした事が一つある。

浅麦君……君は確実に狙われている。

周囲の人間への警戒を怠らないようにしておいてくれ」

「分かりました。」





正直こういうのってフラグになりそうで嫌な予感しかし無いんだよなぁ……




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