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第63話 前世との違いとデッキ構築

俺が狙われている……か。


どう考えても実力至上主義思想……それも歪んだ方の思想を押し広めるのに俺が目障りだからというのが一番だろうな。


そうじゃなくても俺はあいつらの行動を何度か邪魔している。


「もっと腕を磨かないとダメだな」


現状の俺は2年生相手ならギリギリ勝てなくもない程度で3年生相手では相性が良くても勝率は3割もいかないだろう。


そうなると俺が目指すべきは一択……上級職しか無いがそっちもまだ方向性が曖昧に見えてきているだけだ。


俺はふと無意識にデッキにしまってあった《強欲のトリックスター・アルセーヌ=グリード》を取り出した。


「《強欲》か……」


七つの大罪にもその名を連ねるこの名前……前世のゲームや小説なんかだと何かしら特別な役割や能力を持っているキャラに与えられがちだがもしかしたらこの世界でもそうなのだろうか?


『求めよ……強欲に……力を求めるのだ……!』


これは……カードからの思念か?


『己が大罪を求めよ……『七つの大罪』を……!』


七つの……大罪……!


そしてその時、俺はこの世界に転生してから特定の言葉を一切耳にした事も目にしたことも無い言葉を聞いてある事に気が付いた。


七つの大罪といえば悪魔が関わるがこの世界においては悪魔という概念自体はあっても有名なソロモンの悪魔の名前等は一つも見たことがない。


そして前世の歴史と今世の歴史……今比べてみると宗教関連等も全く異なるのだ。


カードへの信仰という意味合いでなら宗教という概念はこの世界に存在している。

だが前世で言うイスラムや仏教等といった宗教等はこの世界には存在していなかった。


今まではその手の宗教はカードに概念が置き換わっただけだろうと思っていたが気にしてもいなかったがよく考えれば神話なんかもこの世界では一つも耳にしたことがない。


「一回調べてみる必要があるか……」

「?」






俺と久慈川さんは生徒会での話を終えた後に教室へと戻ってからいつも通りに授業を受ける。


そして午後、今朝久慈川さんと倉木の二人と話していた『職業学』と『デッキ構築学』の合同授業が始まった。


「お前らー、席に着け。

今日の合同授業は事前に通達した通り『占術士』のデッキ構築だが、今回は趣向を凝らしてデッキ構築時に我々から課題を出させて貰うことにした。」


課題?


「まずはタブレット端末を見てくれたまえ」


タブレット端末の画面を見てみるとデッキ構築の際に選択出来るカードが表示されるが、そのうちいくつかがロックが掛かったように施錠マークがついた。


「今マークがついたカードは我々が調査した使用率が特に高いカード達だ。

君達にはそれらのカードを一切使わずにデッキを構築してもらいたい。」


おっと……そう来たか。


俺はすぐさま何がロックされたのかを調べるべく絞り込み検索からロックの掛かったカードの一覧を調べると見事なまでに大半の汎用性の高い強力な『運命』の能力持ちや一部の『予見』持ちがロックされていた。


そうなると結構特殊なデッキを組む必要がありそうだな。


占術士は特徴の一つとして『運命』以外のカードは基本的に種族シナジーかデッキの一番上を参照する『予見』のような能力持ちのカードの多い特殊な職業だ。


だがおそらくだがこの状況で種族型のデッキを組もうものならそれは完全に先生達の思うツボなんだろうな……おそらく大した点を貰えないだろう。


俺はまず特殊能力持ちのカードを検索で調べていき、どんなコンセプトで行くか絞り込んでいく。


正直やろうと思えば予見とかも出来なくは無いんだがな……残ったカードで作ったとしても割と平凡なデッキになってしまうのは目に見えている。


「……!このカードは……なかなか面白そうだな」


俺は能力持ちのカードの中から1枚のカードを見つける。


《悪魔の占術士》……攻撃力は2でHPは5と4コストのカードにしては若干素の能力は低いが中々に面白い能力を持っている。


『APリンク』……確か6年前に新しく出た能力でアビリティポイントが5増える度にその能力が発動するというタイプの条件発動型の効果だったはずだ。


《悪魔の占術士》の能力は発動時お互いの山札の一番上を確認し、カードのコストが高い方のプレイヤーに強制的に1ダメージを与え、確認したカードを山札のランダムな場所へと戻すという物だ。


ハッキリ言えばこれだけなら大した脅威ではないと言えるだろう。


だが問題はこの《APリンク》に関与しているもう一つの能力の方だ。


その能力は《呼応》……職業アビリティを使った回数に応じた強化をカードに与える能力だ。

そしてこのカードの《呼応》による強化内容はこの対戦中使用した職業アビリティの回数分APリンク能力で与えるダメージ+1


ただでさぇ《APリンク》の関係上デッキに大量の《アビリティブースト》によるアビリティポイントの加速が必須になって来る為にこの2つが合わさったことによりかなり凶悪な能力となっている


異常なまでのシナジーだ……これほどのカードが何故無名だったんだ?


俺はこのカードの使用率0.1%も無いらしく、使用率は圏外となっていた。

少なくとも全く知られていない上に持っている人も全く注目していないらしい。


「あぁ……そういうことか、勿体ないなこれ」


俺はコレを見て薄々勘づいていたこの世界のもう一つの問題に気が付いた。


この世界はカード単体での能力をあまりにも重視しすぎているせいでデッキ全体での運用をあまり想定していないのだ。

だからカード同士のシナジーに関しても割と最低限な場合が多く、切り札を運用する為にデッキの全てを用いるようなデッキが少ないのだ。


ただ強いカードを入れれば良いと言うような風潮が強いのもあって活用するのにデッキのカードを大きく制限されたりじっくりと準備を整えるタイプのデッキの人気が無いわけだ。




俺は《悪魔の占術士》を主軸に全体的なカードのコストを低く設定したデッキを作る事にした。


だがただコストを低くしてばかりでは一部のユニットに対して強く出ることは出来ない。


《アビリティブースト》を含むカードを多数デッキに入れないといけないのは勿論出来ることならば同時に他の能力を持っているカードを採用したい


更に調べて行くと同じ発動条件の《アビリティリンク》で相手のランダムなユニットの攻撃力を1下げるという能力持ちもいる。


様々なカードを吟味し、結果としてデッキのコストバランスとしては……


1コスト8枚

2コスト8枚

3コスト6枚

4コスト4枚

5コスト2枚

6コスト1枚

8コスト1枚


というバランスになった。


正直出来ることならば8コストというのはこのデッキとの相性が最悪な為に入れたくはないのだが流石に盤面を制圧されかけた際に一気に状況を覆すためのカードはどのみち必須な為に入れざるを得なかった。


とはいえ実践で使用した際にこの高コストカードが出てしまってはこっちにダメージが飛んできてしまう為にサーチ系のカードも必要な上に全体のコストが低い以上手札をどんどん引いていく必要もある。


低コストばかりのアグロ型の宿命とも言えるのだが手札がどうしても足りなくなる場面が多い為にドローソースも相応に要求される。


コレを解決する為に俺はこのデッキで使用する『占術士』の職業アビリティを『引き寄せる運命』という物を採用した。


この職業アビリティは必要アビリティポイントは10と低く、能力としては山札から2枚カードをドローしてランダムな『運命』持ちのアクションカードを手札に1枚加えるという物だ。


この効果によって手札へと加わるアクションカードはデッキに存在しないカードの為に上手く使う事が出来ればデッキの消費をある程度抑える事は出来る。


……というか正直デッキ外からカードを供給しないとほぼ確実にデッキ切れを起こしかねない為にこれ以外を採用する理由が無いんだよなぁ。

とはいえ《呼応》によるダメージ増加を回すという意味合いで考えればアビリティポイント10で発動可能な《引き寄せる運命》はこのデッキとの相性は凄まじく良いと言える。


理想としては10ターン目以内で勝負を決めたい所だが長引いてしまうと正直どうなるか分からない為どこまで粘れるかが鍵になるデッキだな。




だが俺はここであることに気が付いた。


「あれ?今日は別に作ったデッキを使って戦うわけでもないしここまで大真面目に考えなくても良かったか?」


そう、今日はあくまでもデッキの構築が課題というだけな為に別にここまで戦うことへのガチの考察をする理由は正直無かった。


なんならもう少しネタ寄りにはなるが構築出来そうな簡単なギミックのデッキも考えようと思えば幾つもの思いつく為に余計にここまでする理由がないのだ。




………まぁ問題ないか。





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