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第93話 強欲と農家


準備を終えた俺は臨時生徒会室へと戻り、中に設置してある『デュエルフィールド』を挟んで田畑先輩と向かい合う。


デッキの調整は正直まだ完全とは言い切れないのが痛いがとりあえずは対策は完了した。


にしても実際に向かい合っていて分かる……やっぱりこの人も生徒会メンバーというだけあって凄まじい威圧感だ。


「浅麦君、今日はお手柔らかにお願いするッスよ」

「こちらこそ……胸をお借りします」


俺達はお互いにタブレット端末とデッキケースをセットし、観戦用の追加端末に他の全員のタブレット端末がセットされた。


『観戦モードをONにして起動します』


その瞬間、何度も味わっている視界の暗転によって俺は一瞬目の前が真っ暗になった。






――――――――――――――――――――






「やっぱりずっと盗賊やってたせいでこの格好違和感あるな……」


俺が目を覚ますとそこにはいつものコロッセオのフィールドへの入口、そして俺の服装はいつも見慣れていた盗賊のものでは無く、進化して新しくなった『強欲』の服装となっている。


「気を引き締めないとな……」


今回の相手である田畑先輩の職業『農家』はユニーク職と言うわけでもなくごく一般的な上級職の一つではある……だが数ある職業の中でも特に危険度が高い。


たとえ序盤でも油断すれば一気に持ってかれるだろうな……


俺は自分のデッキケースをひと撫でして軽く心の整理を終えてからコロッセオのフィールドへと向かう。


入口のゲートを越えた先で待ち受けていたのは麦わら帽子にジャージ……そして大きなクワを携えたまさにTHE・農家とでも言えそうな格好をした田畑先輩だった。


「お?それが新しい職業の服装ッスか?

結構似合ってるじゃないッスか」

「そう言う田畑先輩もよくお似合いですよ。

正直見てて何も違和感を感じません」

「アッハハハ!よく言われるッスよ」


田畑先輩は豪快に笑ってこそはいるが強者特有のその威圧感は凄まじいままだ。


油断すれば一瞬で捻り潰してくるだろうな……


そして俺はコロッセオ外側の観客席の方へと目を向けるとそこには生徒会の皆さんと久慈川さんが居た。


「先輩達や久慈川さんが見ているしカッコ悪い所は見せられないか……全力で挑ませて頂きます……!」

「かかって来るッスよ!」

「「『デュエル』!!」」


俺達との間に巨大な天秤が現れ、それは俺の方へと傾いた。


どうやら俺が先攻のようだ。


強欲は能力の都合上先攻の方が都合が良い場合が多い為かなりありがたい。


「俺のターン、MPを1消費して前列中央に《強欲な悪魔のツボ》を召喚する」

『ォ゛ォ゛ォ゛……』


《強欲な悪魔のツボ》0/2《強欲0/3》


前列中央からドス黒い不気味な霧を放つ封印されたように鎖で巻かれたツボが現れる。


攻撃力こそ無いがこいつの《強欲》は序盤にはかなり強い為、攻撃力のあるユニットを出すよりも優先度は上だろう。


恐らくは効果がバレれば最優先で取りに来るだろうな。


「ターンエンド」

「オレのターンッス。」


《強欲な悪魔のツボ》0/2《強欲0/3→1/3》


「MPを1消費して前列右側に《ドラゴシード》を植えるッス」


《ドラゴシード》《成長0/4》


田畑先輩の前列右側にドラゴンの頭を模したような特殊な形の種が植えられる。


『農家』の主な特徴の一つである《栽培》と《成長》……ある程度ターンこそ必要となるが特定ターン後に植えた種に応じたトークンカードと超低コストの能力強化トークンアビリティカードを複数枚獲得する特殊なタイプのカードだ。


そしてそのターン自体は『農家』の職業アビリティや他のカードで幾らでも短縮可能でもある。


『農家』のカードは基本的に準備が必要な分効果の割にコストがあまりにも軽いカードが多い。


俺が知る限りは1コストで5コスト相当のユニットを召喚するなんて例もあるらしい為に対処を間違えば一気にこっちが喰い潰されるだろう。



特に一番恐ろしいパターンとしては《成長》の段階をコントロールしての1ターンでの大量同時展開だろう。


下手しなくても合計コストが10以上のレベルで召喚されかねない為に警戒は必須だ。


「ターンエンドッス」


《ドラゴシード》《成長0/4→1/4》


「俺のターン。

MPを2消費して後列左側に《グリードシャドウ》を召喚。」

『………!』


《グリードシャドウ》0/1《隠れ身》《強欲0/5》


「《グリードシャドウ》の召喚時能力発動。

場にいるランダムな《強欲》を持った味方の《強欲》カウントを+1する」

『ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛あ゛!!』


《強欲な悪魔のツボ》0/2《強欲1/3→2/3》


「ターンエンドと同時に《グリードシャドウ》の能力発動。

自身のターンが終了した際に自身に《隠れ身》が付与されている場合攻撃力を+1する」


《グリードシャドウ》0/1→1/1《隠れ身》《強欲0/5》


《グリードシャドウ》は《デーモンシャドウ》が変化したユニットであり、召喚時に《強欲》持ちに対するカウント加速に加えて《強欲》の効果もかなり強力となっている。


とはいえコストが2に増えた上にHPが1しか無いのは相変わらず生半可為に結局癖が強くなっていることは否めない。


「オレのターンッス」


《強欲な悪魔のツボ》0/2《強欲2/3→3/3》

《グリードシャドウ》1/1《隠れ身》《強欲0/5→1/5》


「《強欲な悪魔のツボ》の《強欲》カウントが3になった事により能力発動。

このユニットの《強欲》が発動した際、味方プレイヤーは山札からカードを2枚、相手プレイヤーはカードを1枚ドローする」

『ォ゛ォ゛ォ゛ォ゛ォ゛オ゛オ゛オ゛!!!』


鎖による封印が緩み、ツボの中から真っ黒な現実感を感じさせない悍ましいオーラを放つ腕が現れる。


腕からお互いに向けてオーラが飛んできて山札からカードが浮かび上がった。


そして相手の手札が増えるとなれば必然的に……


《強欲な悪魔のツボ》0/2《強欲3/3→0/3→0/1》

《グリードシャドウ》1/1《強欲1/5 →2/5》


「成る程……オレのドローがトリガーッスか。

ちょっとそれ厄介ッスね」


《強欲な悪魔のツボ》の恐ろしさは《強欲》発動時に相手もドローさせる為に必然的に全員の《強欲》を発動させるうえに自身の《強欲》へのカウントも加速する為、実質強欲発動に必要なカウントはたったの2。


ドローソースとしてはとてつもない性能と言えるだろう。


「流石に厄介なんで除去させてもらうッスよ。

MPを2消費してアクションカード《養分吸収》を発動するッス。

《強欲な悪魔のツボ》に2ダメージを与えるッス」

『ーーーーーッ!?!?』


《強欲な悪魔のツボ》0/2→死亡


「このカードの効果によって敵ユニットが死亡した際、オレの場に存在する《種》の成長をランダムに2上昇させるッス」


《ドラゴシード》《成長1/4→3/4》


「ターンエンドッス」


《ドラゴシード》《成長3/4→4/4》


「さっきのターンエンドで《ドラゴシード》の成長がたまりきったッスね。

《ドラゴシード》の能力発動ッス、このカードは《龍樹の苗》になるッス。

ついでに副産物としてアクションカード《龍葉土》を1枚獲得するッス」

『グルルラァァァァアアアア!!!』


《ドラゴシード》→《龍樹の苗》3/5《成長0/5》


2ターン目でいきなり4コスト3/5のユニットに化けた……!


これら《成長》持ちのユニットの厄介な特徴としては種のままだとユニット扱いにはならない為攻撃したり倒したりは基本的に出来ない事、数段階の《成長》があるせいで下手に放置すると一気に高コストユニットへと進化する事……


かなり勿体ないが《グリードシャドウ》を捨てないとダメだな。


俺は今手札にあるカードとこれから引く予定のカードの順番を頭に浮かべ、どのように対処するかを考える。


さっきのようなパターンも考えると下手にHPの低いユニットは出すべきではない。


だがこっちの展開の方が負けているとこっちが一気に追い込まれる可能性があるから論外だ。




……流石に一筋縄ではいかないか。


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