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第6話

 夕食が出来上がる前には皆帰ってきていて、全員揃った状態で居間に集まる。今日の夕食は鍋らしく、全員分の箸が配られた。鍋の蓋をあけると、湯気が立ち上る。醬油ベースの、肉入り鍋。今までの中で一番現代に近い食事かもしれない。「いただきます」と挨拶し肉を掴むと、「やっぱりまだまだ子どもだな!」と晃生に笑われた。

「いいでしょ、別に……」

 気恥ずかしくなって、小声になってしまった。

「坊、別に気にすることないさ。ご主人は普段からこの調子さ、特に酒を飲んでるときはね」

 よく見たら、晃生の横には盃と酒瓶が置いてあった。風花の言う通り、今日は酒を飲んでいるらしい。

「お酒飲んでるなんて珍しいね」

「ああ、明日は休みだからな。それに寒くなって来たんだ、酒でも飲まねーとやっていけねえよ」

 酒を飲める歳ではないからわからないが、そんなものなのだろうか。

「そうそう、酒は百薬の長とも言うし兄貴は間違ってねーよ」

 そう言い、光治もグイッと酒を飲み干した。光治は、行動がとても晃生に似ている。現に、酒を飲んでいるのはこの二人だけだ。光幸は興味がないのか、一人で野菜類を食べ進めていた。

「お前も飲め、光幸」

「これだから酔っぱらいは……要らねえ。酒臭えし」

 現代ならアルハラまっしぐらだろう。時代が時代だからか許されるような会話だ。皆、当然だがそんなことを気にしている様子はないけれど。鍋の席でまで、自分が異なる場所から来たのだと実感するとは。少しはこの時代に馴染んだかと思ったのに、そんなことはなかったみたいだ。

「あの、もしかしてこの鍋美味くないっすか? さっきから箸が止まってますけど」

 優斗に声をかけられた。心配をかける訳にもいかないので、「ちょっと考え事してただけ。美味しいよ」と笑顔を作って対応した。彼は「それなら良かったっす、食べ盛りでしょうから沢山食べてください」と具材を僕のお椀によそってくれた。こんなに食べられるだろうか……。というか、食べ盛りなのは恐らく優斗も同じだ。使用人という立場もあるから、大量に食べることを遠慮しているのだろうか。でも、僕が「優斗くんも食べなよ」と言うのもおかしい。今度は食べ進めながらそんなことを考えていた。


***


ご馳走様の挨拶をし、部屋に戻る。いつ敷かれたのかわからない布団に寝っ転がると、満腹感から眠くなってきた。布団はあったかいし、このまま寝てしまおうか……。というところまで考えて、お風呂に入らなきゃなと思い直し布団を出る。

「光希さんはお風呂がお好きですね」

 お風呂場に向かう時に、紬に声をかけられた。確かにこの時代の人間って、毎日はお風呂に入っていないのかもしれない。それなら僕も自重した方がいいのかもしれないな……。でも、入らないのも落ち着かない。

「もしかして、負担?」

「いえ、そんなことはえなくて良いですよ。結構な頻度で皆さん入られますから」

 紬はケロッとそう言ってのけた。ここは悪いけど、言葉に甘えておこう。お風呂は生命線だから。


 着物を脱いでお風呂に浸かると、一日の疲れが解けていく様だ。と言っても、今日は神社に行って折り紙をしていただけだが……。明日はどうしよう。晃生も休みだと言っていたし、何処かに連れていかれるかもしれないな……。いや、休みの日くらい家で休みたいだろう。きっとそうに違いない。というか、そうであってほしい。明日も神社に行って、タイムスリップした原因を訊かなければいけないのだから。何処かに連れていかれたら、その予定が崩れてしまう。それは避けたいところだ。のぼせてきたので、そこまで考えてお風呂をあがった。



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