十中八九、依頼人はカタリーナか彼女の実家だろうが、確実というわけではない。
間違った復讐なんて目も当てられない。
呪法士たちを片付けたら、宮殿のみんなの高熱はすぐに下がった。
それでもすぐに医者や回復魔法士が呼ばれた。
ソフィーは無事。
他の者たちの中には高熱になりすぎて、不調が癒えていない者もいたが、回復魔法で治る範囲で収まった。
その後数日は全体的に不調となっていたが、後に引くようなこともなく元に戻っていった。
ソフィーはなんらかの作為を感じて、側近に調査を命じたりしている。
アンハルト領からの護衛を増やすというような話もしている。
俺は呪法士を倒した夜からカタリーナの暮らすレーフェンブルグ宮殿に潜り込んでいる。
日が出ている内はアンハルト宮殿にいないといけないので、情報収集は夜だけになってしまうのが難点だ。
気配を消してカタリーナの後に付いて回る。
宮殿内のカタリーナを一言で表すなら、『恐しい女主人』だ。
彼女が現れるとどこもかしこもが空気が張り詰め、執事や侍女、使用人たちは緊張した顔で控える。
対するソフィは『愛される女主人』だ。皆、彼女に仕える事に喜びと誇りを持っている。
人を従える、人に仕えるという感覚は勇者であり、ただの村の子でしかなかった俺にはわからない。
だから、どちらがいいのかはわからない。
ただ、前回のことがあるので、カタリーナが敵であるのは変わらない。
この数日の努力は、カタリーナのとある行為の最中に判明した。
「ああ、もうっ! どうして上手くいかないの!」
「大丈夫さ。あなたの努力は必ず実を結ぶ!」
「そんなの、待てないのよ! もっと、早く!」
「うっ、うっ!」
「もっと早く! あの女が、ソフィーが悔しがる顔が見たい!」
それは隣室で待機する夜番の侍女も居眠りしてしまうような時間。
いや、この侍女が寝ているのはランタンの油に混ぜられた睡眠薬の効能のためだ。
では、侍女を眠らせてなにをしているのかと言えば、ナニである。
子供に見せてはいけない大人の遊戯である。
宮殿警備の騎士が夜更けに女主人の部屋に入っていく姿など、他人に見られてはいけないだろう。
「心配ないさ、次はもう考えてある。俺に任せて、おけっ!」
この騎士がカタリーナの意思を外に伝える役か。
事が終わり、部屋を出ていく騎士の後に続く。
騎士は宮殿の外れにある自分の部屋に、俺とともに入る。
「はぁ……まったく、誰だ、あの二人を倒したのは」
自分のベッドに転がって愚痴を吐く。
「せっかくアンハルト侯爵家に恨みのある者を見つけられたというのに、くそっ」
起き上がり、酒を瓶で煽る。
落ち着きがないのは、この男も内心では慌てているからかもしれない。
「だが、このままでは終わらせんぞ。次は……」
「次は?」
再びベッドに戻り、そのまま眠りそうになっていたので、俺は声をかけた。
騎士が驚いた顔で目を開ける。
「次はなにを考えている? 興味があるんだ。教えてくれないか?」
「なっ、お、お前……」
重力の魔法で体をベッドに押さえつけ、俺は尋問を行うことにした。
「教えてくれないと、寝かせないぞ」