4. 作戦会議 ~エルン視点~
私たちは図書館で借りた本を手にギルドに戻ることにする。あれから色々な話をしながらアティの歩幅に合わせて帰っていたのでギルドに着くころにはすでに夜になってしまっていた。
「遅い。」
「アティと色々話してたら遅くなっちゃった。ごめんなさい。でも依頼物の手掛かりの本は借りてきたから」
「ったくお前らが遅すぎるからミーユは帰っちまったぞ?ギルドももう閉める時間だ。また明日にする。いいな?絶対遅刻するなよエルン!」
「なんで私だけに言うんですか……?」
ブレイドさんは何故か私にしか言わない。そんな指をさして言わなくても私は遅刻なんかしない……たぶん。それよりミーユには悪いことをしちゃったよね。明日謝っておかないと。クロスのパーティーとの勝負の日まであと4日だ。
そして次の日。私はブレイドさんの期待を裏切るように遅刻せず、集合時間よりもだいぶ早くギルドに着いた。これならブレイドさんも文句は言えないだろう。
いや逆にブレイドさんに『は?遅いんですけど』くらい言ってやろう!そんな悪いことを考えながらギルドの中に入る。すると
「おはよう!私が一番……え?」
私は首を傾げる。
そこにはすでにブレイドさんもミーユもアティもいた。
まさか私が遅刻した!?時計が止まっていたのかな!?時間を聞き間違えたのかな!?すごい不安そうな顔をしている私にミーユがいつもの明るい感じで話してくる。
「おはよう!エルン。今日はすごく早いね、なんかあったの?」
「え……いやなんでみんなこんなに早いの?」
「おはようございますエルンさん。私はいつもこのくらいの時間にはいますよ?普通ですよね?えへへ」
それを見ていたブレイドさんが呆れた顔をして言った。その顔はまたお小言だ。絶対に文句を言おうとしている。このおじさんは私の父親か?
「あのなエルン。ギルドの情報は朝一に依頼も掲示板も変わるんだ。だから、ギルド冒険者は早く来ているのが普通だ。この時間からいないと、いい依頼を他のパーティーに取られるからな。とりあえずパーティーのリーダーなら覚えておくんだな。」
それは驚愕の事実なんだけど……しかもこのギルドでこんなにも色々なパーティーにいたのは最早私だけなのに。私はいつもそんな事全く気にしてなかったし……
というか誰か教えてくれても良かったのに!私は29回追放されてるんだよ!あっ追放されるくらいの能力にしか見られていないから今までのパーティーの誰も教えてくれなかったんだ。情けなくて泣くを通り越して笑う。
私は自分で自分を問い詰め肩を落とす。虚しい……アティはそんな私を見て肩を叩き椅子に座らせる。とりあえず気を取り直して私たちが勝つための作戦会議を始めよう。
「そういやアティ。お前、薬剤に詳しいんだってな?その依頼物のある場所分かるか?」
「はい。『月光水』と『ムーラン花』はおそらく西の遺跡群にあるワーロック古城の中庭にあると思います。あそこには立派な中庭がまだ存在してて月光の魔力が中庭の泉に降り注いでますし、その周りにはムーラン花が間違いなく咲いていると思います。」
「ほえ~。凄い詳しいねアティ!私はそういうの覚えるの苦手」
ミーユはアティの発言に関心している。私もリーダーらしく何かを頑張りたい。何かってのはこれから見つける予定だけどね!
「ふむ。西の遺跡群の魔物は毒を持つものが多いからな。」
来た!私の出番だ。私はそのブレイドさんの言葉を聞き咄嗟に前のめりになりみんなに伝える。
「安心して。私が毒を解除する魔法使えるから!これでもある程度の魔法は使えるからね!遠慮なくどんどん頼っていいから!」
決まった。リーダーとしての威厳は保てたよね。しかし私が求めていたものとは違う反応がブレイドさんから返ってくる。
「ああ?オレは毒を受けるなって言ってるんだが?毒にかかった時の事を考えるなよエルン。お前もギルド冒険者なら受けないように立ち回れ」
「えっ……はい。そうですね」
私のリーダーとしての威厳は何故か失敗する。というかブレイドさんは私にだけ冷たい。間違いないこのおじさんは私の事が嫌いなんだ。
「それと『フレイムドレイクの爪』は東の呪いの洞窟にフレイムドレイクが生息しているから狩れば自ずと手に入るな」
「西と東じゃ真逆だね。方向的に」
「相手のパーティーの方がランクが上ですからね。分散するのもあまりよろしくないですよね?」
「その事ならオレに考えがある。少し聞いてくれるか?」
私たちはブレイドさんの提案を聞くことにするが、本当にそれでいいのか?という内容だった。
「えっ……それっていいの?ブレイドさん」
「あのなエルン。オレたちは
「いいんじゃない?ブレイドの言っている作戦で。私は賛成!」
「私も賛成です。エルンさんが負けることは私たちもギルドをクビになりますから。」
ミーユとアティもブレイドさんの作戦に賛成なのか……でも確かにブレイドさんが言っていることが正しいのかも。もうこれは私だけの問題じゃない。パーティーとして最善の方法をとる。それも私のリーダーとしての責任だよね。
「あのブレイドさん、ミーユ、アティごめん。私リーダーとしてみんなの事考えてなかった。その作戦でいこう!私たちは絶対負けられない。」
私は今の気持ちをみんなに伝える。
「お前はいつも、口だけは威勢がいいな」
「それよりブレイドさん。自分が提案した作戦なんですから絶対失敗しないでくださいよ?」
「バーカ。誰に言ってんだよ。オレが失敗することは絶対にない」
私たちが約束のクロスとのパーティーとの勝負まで残り3日。来る時まで私たちは準備を進めていく。そして依頼当日を迎えるのだった。