28. 作戦はあるから
私たちは『王都の地下迷宮』の10階層から目的の『鉱石』をどっちが先に取ってこれるかの勝負を私を追放したグランのパーティーとおこなっている。
追放したメンバーに負けるわけにはいかないということで、グラン達は必死になっているようだ。
「もうあいつら見えないんだけど……大丈夫エステル姉さん?負けない?」
「心配する気持ちは分かるけど、焦る必要はないわよキルマリア。」
「なんでそんなに余裕なんですの?私も結構心配ですのよ?」
「ボクも……心配です」
ミルフィとルシルまで心配なのか……。まぁ、それもそうか。じゃあ話しておいてあげるか私の作戦を。
「いい?まず私たちは8階層までは完璧にマッピングしてあるから、最短ルート、最小限の戦闘でたどり着けるわ。」
私はマッピングした地図を取り出して床に広げる。
「そして問題なのがまだ見ぬ9階層と鉱石のある10階層。ここからはもちろん魔物も強くなるし、大量の罠もある。今の私たちで突破できるか分からないし、もし突破できたとしても地上へ戻れるか分からない。」
「あっもしかしてエステルちゃん!」
「気づいたかしら?先にグランたちを向かわせれば道中のトラップやモンスターは全て彼らが処理してくれるはずよ。だから私たちはただひたすら前に進めばいいだけ。」
「でもそれってズルくありません?」
「ズルではないし、それは絶対にありえない。そもそもダンジョン攻略なんて言うのは戦略が重要なの。今持てるすべての物を最大限に活かす。これが勝利への近道よ。」
「おぉ~!流石エステルちゃーん!格好いい!」
「ボク。尊敬します!」
「ふっ当然ね!ほら行くわよ!隊列崩さないようにね!」
こうして私たちは地下迷宮へと潜った。しばらく進んでいくと、ミルフィと初めて出会った7階層の広い場所にたどり着く。するとそこには壁に寄りかかっている特徴的な金髪がいる。あれはオリビアだ。
「オリビア。こんなところでどうしたの?グランたちは?」
「エステル……」
オリビアの全身を見ると、所々傷ついており血を流している。
「あなた怪我してるじゃない。すぐに治療しないと。ルシルお願いできる?」
「はい!」
「なんで私なんか助けるのよ?」
「今はそんなこと言ってる場合じゃないわ。それに、あなたを助けなかったら後味悪いもの。私は別に殺そうと思ってるわけじゃないし。」
「……ふん。」
「それで、何があったの?」
私が尋ねると、オリビアが悔しそうな顔をしながら口を開く。
「見ての通りでしょ。置いていかれたのよ。怪我はしてるし、魔力もほとんど残ってないし。この先は足手まといだって」
「ポーションはどうしたの?まさか持って来なかったの?」
「持ってきたわよ……でも全然足りなかった。ましてや残ったポーションはくれずに持ってったし。私のこと仲間だと思っていないみたいでさ。『お前がいなくてもオレらは平気だ。後で迎えにくる』とか言って笑ってた。」
なるほど。そういうことだったのか。確かにオリビアは魔力がなければ、攻撃手段も少ない。つまり戦力としては数えていないということだな。私は鞄の中からポーションを取り出し渡す。
「なんの真似?」
「それはマジックポーションよ。飲めば魔力が回復するわ。グランたちを追いかけてもいいし、このまま帰るのもいい。どっちみち回復しても片道しか持たないからあまり意味はないけど。」
「…………」
「選んでいいわよ。私はどちらでもいいし。」
オリビアはそのまま勢いよくポーションを飲み干し、私に言い放つ。
「借りだなんて思わないから!せいぜいあいつらに負けないよーに頑張りなさいよね!」
そう言ってそのまま地上へ戻っていく。一応オリビアの魔法なら1人でも何とかなるだろう。
「本当にエステル姉さんはお人好しなんだから!マジウケる!」
「エステルちゃん優しいんだからぁ!」
「うぅ……エステルさん格好良すぎます……。ボク惚れました!」
「ふん。華麗なるブレードガンナーの私の次に格好良かったけどね?」
「ちょっとみんなうるさいわよ!ほら!先に行くわよ!」
まったくこいつらときたら……。まぁ、でもこれでいいか。さて、ここからは慎重に進まないとな。私たちは地図を確認しながら進み始めた。
そしてついに9階層にたどり着く。ここからは未知の領域だ。それでもここまで、そこまで疲弊せずにこれたのは大きい。やはりグラン達を先に行かせて正解だったわね。
「みんな。この辺りは狭い通路が続くから戦いづらいかも……私が索敵しながら進むから、魔物が出たらお願いね?」
「おけまる!」
「了解エステルちゃん!」
「任せてください!」
「分かったわ。」
私はスキルを使いながら探索を進める。しばらく歩いていると、前方に複数の反応があることに気づく。これは……オークか?数は4体か……。
まずいな。ここは少し広いとはいえ一本道。しかも相手はこん棒を振り回すオーク。いくら私たちが強くなっていても、数で押されたり、この狭い通路で対峙するならひとたまりもない。
「敵は前方の十字路にいる。恐らく4体のオーク。ルシル、神聖魔法で散らしてほしいわ。」
「分かりました!行きます!神聖なる光よ!我が敵を撃て!ホーリーショット!!」
ルシルが詠唱を終えると、光の弾丸が飛んでいく。よしっ!命中した。しかし、一体だけ倒したようだが残り3体は健在だ。
「みんなこっちよ!あと床のトラップには気をつけて!」
私たちはルシルが放った魔法の隙をついて、駆け抜けていく。しかし、それを予想していたかのように、2体がこちらに向かってくる。
「くっ!キルマリア!リーゼ!お願い!」
「ほい!」
「おっけい!おりゃ!」
キルマリアは短剣で、リーゼは拳でオークを倒す。私はその隙にさらに加速して突き進んでいく。このまま一気に突破するわ!