7. 巻き込まれ事故
無事に王立学園に入学した私は今、変な難癖を前世の婚約者になる予定の人につけられている。こんな初っ端から悪目立ちしたくないんだけどさ。とりあえずここは冷静に対処しよう。一応彼女はこの国のお姫様だから。私は一呼吸おいて話し始める。できるだけ穏便に、そして波風を立てないように。そう心掛けながら。
「別にそんなつもりはないですよ。それに同じ新入生じゃないですか。そんなに目くじらをたてなくてもいいんじゃありませんか?」
「何よその口の聞き方は!」
「申し訳ありませんでした。それではこれで」
「待ちなさい。まだ話は終わっていないわよ?」
私は頭を軽く下げその場を去ることにする。本当に面倒くさいな……もういいや無視しよう。そう思い踵を返そうとした。
「ちょっと……待てと言っているのが聞こえないのかしら!?」
そう言って私の肩を掴む。ちょっと……痛いんだけど。彼女の細い指が私の肩に食い込む。
「……離してください」
「あなた、誰に向かって口をきいていると思っているの。私の言うことが聞けないというのなら、痛い目に合うことになるわよ!」
「やれるものならやってみたらどうですか?」
「いい度胸ね。後悔しても知らないわよ?」
そういうと突然彼女は魔法を行使した。待て待て。ここでいきなり魔法なんて何考えてるのよこのお姫様は!?周囲の空気が一気に緊張感を帯びる。
「我が魔力に応え、敵を焼き尽くせ『ファイアボール』!!」
そうフレデリカ姫様が詠唱すると大きな火の玉が形成され、超至近距離から飛んでくる。マジ!?ヤバいわこのお姫様!!元婚約者になんてことしてくれてるのよ!
こんなところで魔法使うとか正気なの?しかも私に向けて放つってどういう神経してるわけ?でもこのままだとマズイわよね……咄嗟の出来事で焦ったけど、何とか私は魔法を詠唱する。
「ちょ、危ないでしょ!!我願う。水の精霊ウンディーネよ。水の壁となりて、彼の者を守り給へ『ウォーターウォール』!!」
私は水属性魔法を使い咄嗟に防御壁を展開しなんとか防ぐ。だが、彼女の魔法の威力が強く相殺しきれなかった。
「きゃあ!!」
その衝撃で後ろの壁まで吹き飛ばされてしまう。周りにいた生徒たちが悲鳴を上げる。講堂は一瞬にして騒然とした空気に包まれた。
「ふん、他愛もない。所詮平民は平民ね。身の程をわきまえることね!」
この女……さすがにこれはやり過ぎでしょう!下手したら大惨事になってたかもしれないのに!入学早々とんでもないことになったわ。そんな騒ぎを聞きつけて学園の教師がやってきた。
「何をしているのですか!?」
「あら先生。見ての通りですわ。そこの子が私に生意気な態度をとったものですから少し教育して差し上げようと思いまして?」
あれのどこが生意気なのよ……まさかあのフレデリカ姫様がこんな暴君だとは思わなかったわよ!良かった前世で結婚とかなくて……
「ほう。なるほど、事情はわかりました。しかしここは神聖な学び舎。いくら王女殿下といえど、このようなことは見過ごせませんな。2人とも職員室に来るように」
「はぁ!?私はこの国の第一皇女ですわよ!?」
「国王からこの王立学園在籍中は、いち生徒として扱うようにとのことですので」
巻き込まれ事故。フレデリカ姫様は顔を真っ赤にして膨れているけど、私は悪くないわよね?そのあと私とフレデリカ姫様はお説教を受けることになった。しかもお説教の最中、フレデリカ姫様はずっと私を睨み付けていた。うーん……もうこの姫様とは関わらないようにしないと。私はバッドエンドを回避するんだから!