目次
ブックマーク
応援する
4
コメント
シェア
通報

12. 譲れないもの

12. 譲れないもの




 こうして私は対戦相手であるマークスと対峙することになった。闘技場には、私たち二人を見守る生徒たちのざわめきと、緊張感が入り混じった空気が漂っていた。


「よし。じゃあ始めるぞ?準備はいいか?……始め!」


 先生の開始の合図とともに、私は魔法を詠唱し始めるとマークスが叫ぶ。


「ちょっと待ってください!」


「なんだマークス?」


「この勝負。魔法禁止の剣と剣での手合わせにしましょう」


 はぁ!?魔法が使えないですって?どういうつもりよ?その発言にクラスメートのみんなが騒ぎ立てる。


「そんなのイデアに分が悪いだろ!」


「そうよ!イデアさんは女の子なのよ!自分が剣術レベルが3で少し高いからって卑怯よ!」


「そうだ!公爵家の子息だからといって横暴すぎるぞ!」


「うるさい!お前らは黙れ!そこのイデア=ライオットの父親は騎士なんだろ?なら剣くらい軽く扱えるだろ。違うのか?それとも無能な騎士の父親は剣も握らせたことないのか?やはり平民だな!」


 マークスは私を挑発してくる。魔法では分が悪いからだろう。でも……私は剣をこの人生では握ったことすらない。それはもちろん避けてきたからだ。剣を取ればおのずと『魔王討伐』のフラグが立つ可能性がある。


 でも、ここでもし剣を取らずに負けた場合。王立学園を辞めさせられ、最悪またギルド冒険者の道に行くことになる可能性が上がる。それはオリビアも同じだ。


 それだけは絶対に避けなければならない。今、私の進むべき道はこの王立学園を無事に卒業して騎士団に入ることだ。そのためならここで剣を取るしかない。それに……ここまで育ててくれた親をバカにされて黙ってなどいられない!譲れないものだってある!


「どうした?嫌なら負けを認めろ平民が」


「取り消して。私の父親は無能なんかじゃない!」


「なら証明したらどうだ?このオレに勝ってな?」


「……分かったわ。剣での戦いを受けるわ。その代わり私が勝ったら、2度と私に構わないでくれるかしら?」


「ふん!最初から素直に受ければいいんだよ!軽くのしてやる!」


 私は先生から訓練用の木刀を受け取る。木刀で良かった。もし鉄の剣とかならこの人生で振って来なかったからまともに振れなそうだし。そしてマークスと対峙した瞬間、前世の記憶からか不思議と身体が勝手に構えるために動き出す。


「ふっ。なかなか様になってるじゃないか。だが、いつまで持つかな?行くぜ!」


「はいはい。どこからでもかかってきなさい」


「うおぉー!!」


 マークスは雄叫びを上げながら突っ込んでくる。しかし私の目にはスローモーションのように映り、簡単に避けることができた。剣術レベル3が聞いて飽きれるわ。


「くそ!ちょこまかちょこまか逃げんじゃねぇ!!」


「だって怖いんだもん。私は剣を握ったことすらないのよ?」


「てめぇふざけんなよ!?」


 その後も何度も突撃を繰り返してくるマークスの攻撃を避け続ける。周りからは私のことを心配する声が聞こえて来る。


「あいつ本当に初心者なのか?」


「イデアさんすご~い!初めてなのにあんなに動けるなんて!」


「がんばれイデア!」


「イデアさんがんばって!」


 クラスメートたちの声援を受けて、私もだんだん楽しくなってきた。なら軽く剣術でも使おうかしらね?初歩的なものならなんとなく身体が覚えてるでしょ。


「はぁ……はぁ……。なんで当たらない……」


「もう終わり?じゃあ次はこっちの番ね」


「はぁ?お前がオレに勝てるわけないだろ!」


「いくわよ。真空斬・飛燕!」


 私はそのままマークスに向かって木刀を振り抜く。するとマークスの左側を強力な風の刃が通り過ぎていき、演習場の壁をぶち抜いていく。マークスは突然のことに驚き、木刀を手から落としその場に座り込み固まっている。


「あっ……やっちゃった」


 ふえええ!?私何やってるのよ!?これじゃあまた目立ってしまうわ!


「……イ……イデア……今の技は一体……?」


 先生も唖然としている。ヤバいまさかここまでの威力とは……これじゃ私が剣術が得意だってバレるじゃない!


「……あ、あはは。ちょっと間違えちゃいました。とっとにかく!まだやるならやるけど!?」


「……い、いやいい。おっオレの負けだ。」


「そう。なら金輪際、私には関わらないでよ?あとクラスのみんなにも!」


 私はホッと胸を撫で下ろし、笑顔で答えた。これでようやく終わった。そんな時、その様子を見ていたフレデリカ姫様は一言呟く。


「あれは……やはり見間違いじゃありませんでしたのね。もしかしてあの子は……見つけたかもしれない。」


 そう言ってこちらを見て微笑んでいるのだった。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?