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14. 変わり者 ~マルセナside~

14. 変わり者 ~マルセナside~




 聖女マルセナがランバート王国で住み込みで働き出してもう1ヶ月がたつ。仕事は正直カトリーナ教会での聖女の仕事とほとんど変わらなかったので問題はなかった。そして周りの人間の間でも聖女マルセナの仕事振りを称賛している者も増えていた。


 しかし聖女マルセナはあの舞踏会の夜の事が頭の片隅に残っていた。ライアン=ランバート王子……彼はなぜ私をこの国で住まわせて働かせているのか?そしていつも言われる「気に入っている」その意味はなんなのか?私自身の事なのか?仕事?それとも他の何か?それだけがずっと気になっていた。


 ある夜、夕食の時間だった……明日からしばらく休みだという事で使用人のみんなが少しばかり浮かれ気味である。そんな様子を見ながら食事をしている最中、ふと思い立って給仕をしていたメリッサに相談を持ちかけてみたのだ……


「あのメリッサさん。聞いてもよろしいでしょうか?」


 もちろん内容はその意味不明な言動をする王侯貴族についてだ!……特に最後の発言の意味を聞いてみたかったのだ。誰にでも言っているならそれはそれでスッキリすると思ったからだ。


「何でしょう聖女マルセナ様?」


「実は……」


 ――コンッ コトンッ―—!!


 えっ!?と思った瞬間自分の手にしていたスプーンを落としてしまっていた事に気が付きあわてて拾おうとしたら運悪くスープが入った深皿の中に入ってしまっていたらしい……目の前にあったテーブルクロスや床の上にこぼれてしまったスープを見て青ざめる。最悪……こんな失態したことないのに。


「申し訳ありません!!」


 慌てて謝るマルセナ……そこに慌てる様子もなくタオルを手にして駆けつけてくるメリッサの姿があった。そして微笑みながらマルセナに伝える。


「ふふっ普段完璧な聖女マルセナ様もそんなミスをするのですね?意外だわ」


 と言われ顔が真っ赤になる思いだった……私は何をしているんだろうと思うしかなかった……情けない姿をみせたなぁと思って落ち込んでしまったところに横にいた少女に声をかけられた。


「大丈夫ですか聖女マルセナ様?お洋服にはかかってませんか?」


「ええ大丈夫よ。ありがとう。」


 そこには心配そうに見つめてくれる同年代の若いメイドの顔があり思わずホッとした表情になってしまう……彼女の名前はエミリーという16歳になったばかりのまだあどけなさが残る女の子だった。


 ただ容姿はとても可愛くよく周りからも将来有望だとか言われていて本人もその事を良く思っているようだった。


 性格も明るく素直な性格でありマルセナ自身もこちらに住み込みをしてからはつい構ってしまう娘であった。そんな彼女に慰められつつも改めてメリッサに聞くことにする。


「あのメリッサさん。聞いてもよろしいでしょうか?」


「なんでしょうか?」


「ライアン=ランバート王子はその……なぜ私をこのような住み込みで働かせているのかご存じですか?私がやっている仕事はこの国の教会の聖女様でも出来ることですわ」


 ……どう考えてもこの国の王子なのにわざわざ隣国まで行って私の面倒を見てくれているのは何故だろうと考えるしか無かったのだ。アリーゼと比べて楽しんでいるしか思えない。


「さぁ……あの方は変わり者なので真意はわかりませんわね」


 確かに変わっているというのは納得できるけど理由がわからないことにはモヤっとした気持ちのままだわ……


「ですがまだ聖女マルセナ様はしばらくはここで働くのでしょう?その間ゆっくり探られたらいいかと思いますよ?それに今のお話は内密にした方がいいかもしれませんね……他の王族はあまりライアン王子にはいい顔はしておりませんし、特にレオンハルト第一王子は」


「そうなんですの?」


「とはいえ、ここにいる私たちはライアン王子には幸せになっていただきたいと思ってますけどね?」


 とクスりと笑いながら言われたのだ。変わり者の割には人望はあるのね……まるで……アリーゼみたい……


 その後すぐに食堂にいた人達にも挨拶をし部屋に戻ることにした。どうしても思い出してしまうのはライアン=ランバート王子の発言もそうなのだが、あの時の自分の口元に触れそうだったあの吐息の感触だった……


 何故かそれが忘れられずドキドキしながら夜を過ごしてしまう事になるなんてあの時は思っていなかったのに。


 あとほんの少し抵抗が遅かったら?なんて考えてしまう。あの時「聖女」としての自分が抵抗をした。でも素の自分なら?


「……素の自分……本当の私……か。私はライアン=ランバート王子のこと……」


 聖女マルセナはそんなことを考えながら深い眠りについたのだった……

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