目次
ブックマーク
応援する
3
コメント
シェア
通報

3. 特化型と万能型

3. 特化型と万能型





 ギル坊と出会って2週間。最初は威力の弱かった魔法も、今では魔物討伐ができるほどに成長している。さすがは賢者の血筋ね。


「ふぅ……疲れた」


「お疲れ。でもそんなところで寝てると、突然魔物が来た時に対応できないわよ?」


 魔力を使い果たしたのか、地面に大の字で寝転がるギル坊。この子は戦闘が終わるといつもこうだ。


「あのロゼッタ様。ボク強くなってますか?」


「そうね。確実に強くなっているわよ」


「良かった。これもロゼッタ様のおかげです!ありがとうございます!」


 そうギル坊は笑顔で言う。その言葉を聞いて少しだけ嬉しくなる。魔女の私に教えてもらう賢者はどうかと思うけど……それでも、こんな私を慕ってくれるのは素直に嬉しいものだ。


「それはそうと、ギル坊に言っておきたいことがあるの」


「なんですか?はっ!もしかして少し強くなったから自分の力で魔法都市に行けってことですか!?ボクはまだロゼッタ様と一緒にいたいです!」


「待ちなさい。誰もそんなこと言ってないでしょ」


「でも魔女は気まぐれだってロゼッタ様も……」


 必死な姿のギル坊。可愛いなこいつ。とか思っちゃったりして。いやいや私にはそういう趣味とかないから。ないったらないんだから。


「私は確かに言ったかもしれないけど、別にギル坊を追い出すつもりはないわよ。ただちょっと言いたいことがあっただけ」


「なんだぁ~じゃあ安心ですね。それで、話したい事とは?」


「えぇ。ギル坊。あなたはどの魔法属性でも使えるわね?」


「はい。使えますよ。それがどうしたんですか?」


「うーん……これは言おうかどうか迷っていたんだけど、もうこの際だから言うことにするわ。あなたは風魔法を極めなさい」


 私はギル坊に告げる。魔女と賢者は唯一第5等級魔法まで習得することができる。しかしそれにはあるルールがある。それは『特化型』になること。色々な属性を使える『万能型』にもなれる。どっちをとるかの選択は初期にしか選べない。このまま色々な属性を使い続ければギル坊は万能型にしかなれない。


 それともう1つ。人間の世界には当てはまらない法則がある。それは魔女と賢者は適性の属性が髪や瞳の色に濃く現れるということ。


「ギル坊は緑の髪に翡翠色の目をしている。そして風魔法の適性もある。なら風の魔法を極めた方がいいわ」


「なるほど。あれ?でもロゼッタ様は水色の髪で瞳も水色ですよね?でも炎属性を使っているような……」


「うっ……」


 それには理由がある。魔女の世界では水系特に氷系はガリ勉、闇系は陰キャと言われている。それが嫌だった……とか言えないわよね。


 でも適性の属性以外の魔法のコントロールは難しい、それ以上に私はそのレッテルが嫌だった。まぁ今でもこの前のゴブリンの時みたいにコントロールできないこともあるんだけど……私、将来調子に乗って火の海とかにしそうで心配よね。気をつけないと。


「私のことはいいの。とにかく、今言ったことをよく覚えておくように。自分の道は自分で決めなさいね?」


「わかりました!頑張ります!」


 よしよし、良い子だ。それじゃあ今日はもう遅いし宿屋に戻りましょうかね。そして街に戻る。


「ふぅ……疲れた」


「お疲れ様。今日の夕飯は何にする?また肉料理にする?」


「はい!お願いします!」


 元気いっぱいに答えるギル坊。可愛いなこいつ。なんか弟って感じするわね。私とギル坊はギルドで換金してから、いつもの料理店に向かう。そして席につき、夕飯を食べていると隣のテーブルから会話が聞こえてくる。


「なぁ聞いたか?東の洞窟に、得体の知れない『黒い魔物』が目撃されたらしいぜ?」


「マジかよ。怖いな。お前ら見たのか?」


「いや。俺らは見てねぇけどさ、冒険者が何人も襲われてるらしいんだよ」


「へぇー。そいつが本当だとしたら怖ぇな」


 黒い魔物?何のことかしら。でも得体の知れないって言ってるし危険なのは間違いないわね。でも私には関係ないわ。面倒なことには首を突っ込まないほうがいいからね。私はギル坊と静かに食事を続けた。


「あのロゼッタ様。さっきの話って……」


「気になるんでしょうけど気にしない方が身のためよ。ほら早く食べて宿に帰りましょ?」


「でも……」


「ギル坊」


 私はギル坊の名前を呼ぶ。するとギル坊はビクッとして黙り込む。


「自分の選択に責任を持ちなさい。もしその判断で誰かを傷つけるようなことがあれば、私は許さない。だから今は忘れなさい」


「……はい」


 ギル坊はまだ納得していない様子だけど、とりあえずはこれで大丈夫だろう。私たちは食事を済ませてすぐに部屋に戻った。そして部屋に入るとギル坊は私に話しかけてくる。


「ロゼッタ様。ボク強くなりたいです」


 ギル坊は真剣な表情でそう言う。この子は優しい。だからさっきの話を気にしているのだろう。でもギル坊だって、いつか自分の意思で自分の進むべき道を選ぶ時が来るはずだ。だからその時までは私が守ってあげよう。


「……明日ギルドで話を聞いて、危険だと私が判断したらさっきの話しはもう忘れなさい。いいわね?」


「ロゼッタ様……」


「私は疲れたわ。お風呂に入るから覗くんじゃないわよ?」


「覗きませんよ!……その、ありがとうございますロゼッタ様」


 そう言ってギル坊は笑顔になった。私は服を脱ぎ浴室へと入る。湯船に浸かりながら考える。


 ギル坊は強くなっている。でもまだ弱い。これから先もっと強くなる。それでもあの子はまだ子供だ。きっと辛いことがたくさんあると思う。それでも乗り越えられる強さを身につけてほしい。


「なんだか……本当に師匠になりつつあるわね。私って意外に面倒見がいいのかも」


 そんなことを考えながら、普段は飲まないけど、少しだけお酒を飲むことにした。そういう気分になったから。別に深い意味はない。魔女は気まぐれだからさ。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?