16. アリーゼの気持ち ~ミルディ視点~
うう~ん。天気は快晴。この前まで雨が嘘のように太陽が顔を出している。今日はロゼッタ様とフィオナとソフィアはまたいつものように魔法修練に出ている。本当に3人は仲良しだよね。
だから今部屋にはあたしとアリーゼしかいない。明日2回目の中級者ダンジョンに挑むことにしたので準備をしておかないとね。アイテムを管理するのは最近あたしの仕事になっている。そしてアリーゼはいつものように本を読んでいる。本当に本が好きだよね……あ。いけないいけない準備しないと
「これとこれと……魔法石でしょ?あっポーション足りるかな?ロゼッタ様には少し魔力を抑えてもらって……」
「ふふ。ミルディ楽しそうなのです」
「えっ!?どこが!?」
どこをどう見たらあたしが楽しそうに見えるんだアリーゼは?あたしの本音を言わせてもらうとこの前のような怖い思いはしたくはないんだけど……だってあたしはただの魔法鍛冶屋だしさ……
「以前のミルディなら初めからそんな率先して準備なんかしなかったのです。いつも反対ばかりしてたのですよ?」
「そりゃあたしだってアリーゼの仲間だし……戦えない分出来ることをしたいっていうか……」
「ミルディが出来ることをする。そのために私たちと中級者ダンジョンに挑む。それは一緒にダンジョン攻略をするのが楽しいのではないのです?」
アリーゼのその『超』がつくほどのポジティブ思考ならそうなのかもね。でもやっぱりあの時みたいな恐怖心や緊張感は味わいたくないのが本音なんだけど。
とりあえず準備は一段落し休憩をすることにする。ふとアリーゼを見るとまた本を読んでいる。本当にこの人は本が恋人だな。でも実は、あたしはずっと前からアリーゼに聞きたいことがある。聞いていいものかずっと迷っていたけど……今なら聞けるかもしれない。あたしはアリーゼに思い切って聞いてみることにする。
「あのさアリーゼ。ちょっといいかな?ずっと聞こうか迷ってたんだけどさ……」
「はい?なんです?」
「その気分悪くしたらゴメン。アリーゼってカトリーナ教会を破門になったんだよね?その……恨んだりしてないの?確か聖女マルセナ様だっけ?大司教に告げ口したの」
あたしの言葉を聞いたアリーゼは目を丸くしていたが読んでいた本を閉じ、微笑みながらあたしに話し始める。
「恨むなんてとんでもないのです。私はマルセナの事はこれっぽっちも恨んでないのですよ?」
「え……どうして!?まさか自分が聖女だからとか言わないよね!?」
いくらなんでもそれは無いだろう、どれだけお人好しなんだアリーゼは。と思いながら聞くと意外な答えが返ってきた。
「だってマルセナは嘘は言っていないのです」
「へ?どういうこと?」
思わず変な声が出ちゃったんだけど!嘘は言ってない?どういうこと?
「言葉通りの意味なのです。私に意地悪したのは事実なのです。だけど言ってることは全部本当の事だったので別にマルセナに対しては何とも思わないのですよ。むしろ私の話を聞かなかったオイゲン大司教には腹が立つのです!」
「意地悪って……それのことなんだけどさ?」
「マルセナはとても真面目で努力家で……私はずっと……こういう子が聖女になるんだな。って思ってましたよ?今でも思い出す度にマルセナのことを見習わないとと思うこともあるのです」
アリーゼはマルセナの事は嫌いじゃないらしい。というより好き?なのかな。ただ性格的に合わなかっただけっぽいね。まぁ……アリーゼは変わってるから良く分からないけど。そしてアリーゼの話は続く。
「でも。とても不器用な子でした。自分自身を偽って「聖女」を演じていた。とても苦しそうだったのです。だから私を追い出したのですよ。その気持ちが分かるから私はマルセナの事は恨んでないのですよ?」
なるほどね。必死になりすぎて余裕がなくなることってあるしね。それにアリーゼと比べられてたんだろうなマルセナは。確かに比べられるのって辛いもんね。アリーゼの話を聞いて納得できた気がする。
「私もよく、『お前はマルセナみたいに出来ないのか!』ってオイゲン大司教に怒られてたのです」
「あはは。アリーゼは言われそう」
「笑うなんてひどいのですよ。ミルディ!」
なんか想像できてしまう。いつもロゼッタ様に怒られているアリーゼの姿が目に浮かぶ。やっぱりあたしはアリーゼについてきて良かった。
「そっか。でも安心した」
「何がです?」
「アリーゼはアリーゼなんだって。改めて知れたから」
アリーゼは首をかしげる。破門になって、聖女としての聖魔法も失って、それでも自分の本の知識とそのポジティブさでここまで旅を続けるアリーゼを本当に尊敬するよ。
あたしじゃ絶対に無理だもの。だからこの先どこまで続くか分からないけどあたしも仲間として、親友としてあなたの旅についていくからね